コラム

歩きだしてみませんか

先日、友人と話していたら、幼いころ読んだ本の話になりました。グリム兄弟の「ブレーメンの音楽隊」です。年老いて役に立たなくなり、人間から捨てられそうになったロバが一念発起し、音楽隊にでも入ろうと思い立ち、ブレーメンに向かって歩きはじめるお話です。道中で、同じく処分されそうになった年老いた犬、猫、ニワトリに出会います。ロバに誘われて、動物たちは一緒に歩きだします。本場のドイツ語圏では、ロバがニワトリを誘った言葉、「一緒に来ませんか! 死ぬよりましなことは、どこにでもみつかるさ」はとても有名だそうです。

実はこのお話は、小さいころの私にとっては、あまり印象に残らない話でした。記憶が定かでなかったので、再読してみることにしました。4匹の動物たちは、ブレーメンに行く途中で明かりがともっている家を見つけます。のぞいてみると泥棒たちが食事をしていました。お腹がすいた動物たちは、泥棒たちを脅かそうと独特の体制をとり、鳴き声の音楽で騒ぐことを思いつきます。それを実行したところ、泥棒たちはびっくりして家から逃げていきました。ご馳走を食べ、夜になり、動物たちが家で休んでいると泥棒が様子を見に戻ってきました。今度はそれぞれがひっかいたり、かみついたり、蹴ったり、騒いだりして泥棒を追い出しました。それから、動物たちはその家がとても気に入り、ずっとそこに住みました。

子供のころは、え、ここで終わり、泥棒とはいえ、人をだましていいの、そして、いったいブレーメンに行くという目標はどうなってしまったのと、もやもやした気持ちになりました。よくわからない変な話だと思ったものです。でも、最近、読んだ時はいい話だと感じました。どん底にいる動物が、ともかく行動を起こしてみる。そして、途中で同じ思いを持った動物たちと出会って、道連れになり、一緒に知恵を出し合う。目標には届いていないけれども、そもそもちょっと前の状況より、ましなことを見つけるという目的は達成したのだからいいじゃないかと思えたのです。ブレーメンに行って音楽隊に入ることは、ロバが思いついた途方もないアイデアでした。目標とは、もしかしたら、何かはじめていくうちに、最初とは少し違う形で自然と目の前に現れてくるものなのかもしれませんね。

物の見方は変わるものだなと大発見をした気持ちになりました。ふとそう思ったのは私だけかなと、インターネットで検索してみたら・・・なんと同じように思った人が結構いるではありませんか。私の大発見は一瞬でな~んだとしぼんでしまいました。でも・・・私にとって発見は発見、まあいいかと思いなおしました。

学生サポートルームカウンセラー