コラム

どんな色が好き?

 人と知り合うとき、お互いの好きなものが何かを知るということは、わりと重要な役割を果たしているように思います。共通の趣味のある人とは話のネタに困ることはありませんし、お気に入りの俳優が出ているドラマを観たら、まず同じ俳優さんを好きな人と「よかったよねぇ~」と喜びを分かち合いたいのではないでしょうか。
 私は動物のドキュメンタリーが好きでよく観ますが、なかでも特に印象に残っているものにスリランカの森に住む野生の象と村人の話があります。森の近くに住む村人たちは、毎日その森に棲む象とともに森の木を切り倒し、運び、それを生活の糧としていました。動物に人間の仕事を手伝ってもらうこと自体は珍しくありませんが、この森の象と村人の関係はこれまで聞いたことのないようなものでした。ここの象は気の向くまま森のあちこちで過ごしていますから、村人は毎朝森の中を歩き回り、時には何時間もかけて象を呼び集めるところから仕事を始めます。ようやく伐採場に集まると、村人が象に乗り、両足で象の腹に合図を送り象の動きを誘導しながら伐採や運搬の仕事をします。象は長い鼻や太い前足を器用に使って、木を運んでいました。運ぶたびにご褒美のおやつをもらっている風でもありません。ただただ黙々と一緒に作業します。その後、どれくらい仕事を続けたのか、まだ十分日が高いうちに仕事を終え、村人と象は近くの湖に向かいます。そこで彼らは一緒に水浴びをしたり、泳いだりします。今日もお疲れさま~とでもいうように、ひと風呂浴びて、仕事の疲れを癒しているのでしょうか。象も人も気持ちよさそうに水しぶきをあげていました。しばらくすると彼らは水からあがり、三々五々帰路につき、一日が終わります。
 私はこの様子を信じられないような思いで観ていました。象が自らの自由意志で村人の呼びかけに応じて、一緒に働くことを選び、別々の場所に帰っていく。村人に慣れてはいますが、飼い慣らされず、強制されず、自由で独立した存在として、対等な関係を築いているように思えましたし、報酬や罰のために嫌な仕事をがまんしてやっているようにも見えませんでした。動物が好んで人と働き、遊び、楽しんでいる。この象たちが実際に何を思っているのか分かりませんが、こんな風に関わり合えるとは思いもよらない生き物と種を超えて心を通わせ合うことができるという可能性にふれ、感激しました。ユートピアがあるとしたら、こんな風じゃないかと夢想してしまいます。
 人間であるかのように、あるいは人間よりも人間らしく振舞う動物と人間の物語は昔からたくさんありますから、この手の話に惹かれるのは私に限ったことではないのでしょう。かといって、私がこのお話がどのように好きなのかをできるだけ書き表したつもりでも、私が感じたことをそっくりそのまま伝えられるわけではないし、読み手によって違う感想をもつのが自然です。
 正確には伝わりようがないけど、伝えずにはいられない、だからこそ通じ合ったと思えるときの喜びがあるし、それが絶対伝わらないだろうと思っていた相手と感じられたら?そして少しの間でもともにいることを選ぶことができたら?そんなことを考えさせてくれる話でもありました。
 どんな色が好き?と聞かれて「水色」と答えても、私の思う水色と相手の思う水色は同じではないでしょう。どうして好き?と聞かれても、どうしてもとしか言いようがないことも多いです。それでも聞きたいし、言いたい。真逆なことを言うようですが、好きなことを自分の中だけにとっておいて密かに楽しみたい、というのもありだと思います。秋の夜長、好きなことに想いを馳せながらあたたかく過ごせますように。

                    学生サポートルームカウンセラー