コラム

音楽と心

みなさんの心の支えとなるものは、どんなものがありますか。読書や映画、詩や文学あるいは、スポーツ・・・そこにきっと個性が現れますよね。私にとっては音楽と言えそうです。私が幼少の頃は、音楽と言えば、テレビ、ビデオテープやカセットテープが主流で、CDを初めて手にしたときは、虹色の輝きに感激した記憶があります。一枚のCDを大切に味わい、一つの流行歌をみんなが共有している、そんな古き良き時代でした。今や音楽はデジタル化して大量消費時代となり大きく変化しましたが、人の心を惹きつけ、揺さぶる音楽の力というのは人が生きる世界がある以上、永遠であるように思います。
 ところで、みなさんは、このときにこんな音楽にはまった!という経験はありませんか。私自身は、学生時代長らくオーケストラをしていたのでクラシック音楽に触れることが多かったのですが、時折ふと何かの音楽を耳にすることをきっかけに、昔の歌謡曲やJPOP、洋楽やクラシックの名曲などに一時的にはまる現象が起こります。
振り返ってみると、これは心の中で何かの喪失体験が起こっているときが多いのです。これまでの自分では立ち行かなくなって行き詰まりを感じているとき、自分の中にある基盤のようなものが揺らいでいるとき、過去の自分を脱ぎ捨てる必要が出てきます。その体験を心の中で統合し、新しい世界や自分に開かれようとしているときです。例えば、失恋や何かの挫折・・・それらもその中に入るかもしれません。そんなときに、偶然に出会った音楽にそのときの自分の心が共鳴し、活力を得ることができます。
社会人になって数年したあるとき、学生時代に親しんだベートーベンの第九の4楽章に心を奪われ、様々な演奏を聞き、あるいは聞いていない時にもふとした瞬間に心に鳴り響いていたことがありました。ちなみに、第九の4楽章の歌詞の冒頭の「おお友よ、このような旋律ではない もっと心地よいものを歌おうではないか そしてもっと喜びに満ちたものを」はベートーベンが作詞したと言われています。有名な話ですが、第九を作曲する時すでにベートーベンは聴力を失っており、当時としてはかなり型破りな交響曲を作曲しました。4楽章でこれまで美しく奏でられていた旋律が全て否定されるという驚く発想を用い、ベートーベンの苦悩、絶望・・・それらを突き破って希望、歓喜への希求を爆発させた、そんな名曲です。こういう曲の背景もあったのかもしれません。きっと、このときの私は、社会の厳しさの中で思うように力を発揮できないもどかしさや無力を感じながら、学生時代までの自分を脱ぎ捨てて、新たな自分像を構築せねばならない事態が起こっていたのでしょう。その心の中の大地震のような衝撃を受け止めてくれたのが音楽でした。
こんな風に、私にとっては、特に人生の転機において音楽は不可欠なもののようです。 様々な心の痛みや不安や絶望や・・・そういうものが音楽に抱えられて、そしてまた再構築されていく、そういうことがあるような気がします。音楽は、前に踏み出す力を与えてくれるものであると実感します。
 何かに支えられて、心の痛みや絶望の中からまた歩き出すことができれば、それは幸運です。しかし、それだけではなかなか立ち行かない事態が起きることもあります。そんなときは、どうかサポートルームに足を運び、カウンセラーにあなたのお話をそっとお聞かせください。

学生サポートルームカウンセラー