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SGH Human Security Field Work in Kamagasaki (HSFW)を実施

2016.09.30

Super Global High School (SGH)
GL
コース課題研究特別プログラム報告

 

SGH  Human Security Field Work in Kamagasaki (HSFW)を実施しました

 

 927日(火)、GLコース23年合同課題研究特別プログラムとしてHuman Security Field Work in Kamagasakiを実施しました。

 Human Security(人間の安全保障)とは「人間の生にとってかけがえのない中枢部分を守り、すべての人の可能性を実現」することで、緒方貞子さんとアマルティア・センが共同議長として設立された人間の安全保障委員会で定義された概念です。貧困問題をはじめグローバル世界においてNATION STATEとしての国家の枠組みでの取り組みでは対処できない世界の諸課題が山積するなか、ひとりひとりの人間の尊厳を守り、安全で平和な社会を構築するために、私たちが考え、行動しなければならない時代です。日本政府も「ひとりひとりの人間を中心に据えて、脅威にさらされ得る、あるいは現に脅威の下にある個人及び地域社会の保護と能力強化を通じ、各人が尊厳ある生命を全うできるような社会づくりを目指す考え方である」と定めています。
(以上独立行政法人国際協力機構
HPより一部抜粋・改  http://www.jica.go.jp/about/vision/security/summary.html

 本校では、研究開発課題として「平和な社会の実現に貢献できる人材の育成を目指」すために、「貧困の撲滅と災害の防止・対策~世界平和の実現のために~」を課題研究のテーマとして課題研究科や英語科、社会科等と連携をとりながら様々な取り組みをしてきました。そして取り組みの集大成として海外の高校生たちと約一週間にわたりディスカッションをおこなう本校主催の国際フォーラムであるRSGF(Rits Super Global Forum)を実施しています。

今年度のRSGF2016では、メインテーマに“What Is the World We Want to Create for the Future?Sustainable Approaches to Solving the Problems of Povertyを掲げ、グローバルイシューとしての貧困問題を考えますが、日本国内の貧困問題について、実際に現地に足を運び考える機会を得たいと考えていました。貧困問題を抜本的に解決するというよりは、現地を目の当たりにして課題設定できる力を養うこと、「課題を見つける契機とはどういうことなのか」や「課題設定の力はどのように生まれていくのか」について考えることを大きな目的として、今回のプログラムをデザインしました。

 

現実の日本の貧困問題を体感して考えることにより、日本や世界の諸問題が自分たちの生活や政治経済と繋がっていることを理解し、貧困問題を自分のこととして捉え考える意識を持つことは、グローバルリーダーの資質として大切なことであると考えています。

今回、立命館大学OIC総合研究機構稲盛経営哲学研究センター・一般財団法人大阪市コミュニティ協会都市コミュニティ研究室の全面的なご協力を得て、初めての企画として共同開催することができました。研修内容も検討を重ね、実際に大阪西成区釜ヶ崎地区のまち歩きを中核におき、現地で活動されている方々からのレクチャー、そして生徒たち自身によるディスカッションという三部構成にして実施しました。

 

 朝、大阪市地下鉄動物園前駅に現地集合し、山王集会所へと移動。そこでまち歩きに関するレクチャーや注意事項を受け、まち歩きにでかけました。2,3年混成の1グループ1314名の5つの班が、各1名の現地コーディネーターの方々の案内のもと、まち歩きの各ポイントでご説明していただき、事前学習で得た基礎情報を再確認し、また新たな発見や気づき等を得ながら歩きました。説明がなくただ素通りしてしまうと見落としてしまうことや誤解をしてしまうことも、コーディネーターの方々のご説明のおかけで、驚きや好奇心だけに終わらない学びの定着が図られます。また、労働福祉センター・保健福祉センター分館・シェルター・ココルーム等の施設に加え、サポーティブハウス・山王こどもセンター・ホームレス就業支援センター・ひと花センター・ふるさとの家などを訪問し、職員の方々に直接お話を伺うこともできました。

 この日の気温30度を越える熱いなか、2時間ほどのまち歩きが終了したのち、個人での振り返りと小グループでの振り返りをしました。個人的な思いを確認する作業に加え、マップを見ながら気づいたことや実際に出会った事象を付箋に書いてマップに貼っていく作業をしました。同じ事象を見た他者がどのように振り返っているのか、そしてそこに共感や齟齬はあるのか、あるとすればどういう点なのか、インターラクトする醍醐味はここにあります。生徒たちは、初めて見たまちの風景や息づかいを独自の切り口で読み取り、それを言語化する作業に余念がありませんでした。

 

 午後からは、釜ヶ崎の抱える諸問題に様々なアプローチから対処されている4名の実践家の方々からお話をしていただきました。

大阪市立大学都市研究プラザ教授・全泓奎(JEON Hong Gyu)様からは、ホームレス問題について社会的包摂の視点から、また、社会的不利地域の再生の視点からご講演をいただきました。都市化とはまた貧困の都市化であり、社会的二極化が進行していく現在、貧困層の社会的排除(Social Exclusion)の問題があり、また、貧困は世代を越えて引き継がれていくという問題などに対して解決策は単線的な要素や処方箋ではなく、多元的に考えていかねばならないということ等をお話いただきました。

NPO法人こえとことばとこころの部屋代表・上田假奈代(かなよ)様からは、芸術の可能性として釜ヶ崎芸術大学を主宰され、また、ココルームというゲストハウスとカフェを立ち上げ、表現と自律と仕事と社会をテーマに、社会と表現の関わりから釜ヶ崎の問題についてご講演いただきました。ご自身の17歳の時のベトナム少女との出会い体験から、紆余曲折を経て表現を通して自分にできることを見出されたというお話や、日々「何が正しいのか」について思い悩むこともあるが、正しさにこだわらずに続けていくことの大切さを説かれたこと、また「支援は全くしていない。『支援する-される』という構図の関係性そのものを揺らしたい」と考えておられるということ、釜ヶ崎の人たちが面白いから活動しているということ、釜ヶ崎芸術大学の設立とその活動などについてお話いただきました。

NPO法人Homedoor・小林大吾様からは、地元ご出身であり幼少よりホームレス問題が身近にあったということから「こどもの里」のスタッフのご経験をはじめ、釜ヶ崎地域のホームレス問題について幅広くご講演いただきました。一度ホームレス状態になってしまうと住居・仕事など全てを一気に取り返さないと回復できないが、これは非常に難しいということ、ホームレスは怠けているという誤解に基づく偏見があるということ、HUBchari(ハブチャリ “ホームレス状態を生み出さないニホン”を願って貧困問題に取り組む若者たちによって生み出されたシェアサイクル事業)という事業をはじめとするHomedoorの実際の取り組みなどについてお話いただきました。

NPO法人釜ヶ崎支援機・横谷和彦様からは、同地区が抱え、日本の縮図ともいわれる高齢化問題について、ホームレスや日雇労働者の方たちへの就労支援や生活相談から見えてきたことについてお話いただきました。ご自身の個人史をご紹介いただきながら、貧困と貧乏は違うということ、人との関係性があるかどうかが分かれ道であるということなど、非常に説得的なお話をしていただきました。

 

 

4名の方の各20分程のお話は、どれも言葉に重みがあり、生徒たちはその言葉をかみしめながら身を乗り出して聞き入っていました。4名の方のお話からは、今目の前にいる人をどうにかしたいという強い動機が行動に駆り立てているということ、また、支援される側だった人々が誰かに何かを提供する側に回ることで他者に感謝され、そのことによって人は生き生きとしていくということなどの共通したお考えがうかがえ、それらがシンクロすることで、生徒たちはまち歩きで実際に出会った風景や人々の顔を浮かべながら、その思考と身体の距離の近さを体感することができました。

その後、それらを受けて小グループでのディスカッションをおこないました。稲盛経営哲学研究センター・金井文宏様と都市コミュニティ研究室・堀久仁子様のファシリテートにより「貧困の原因は何か」、そして「自分たちがNPO法人を立ち上げるなら、その解決策(アイデア)はどのようなものになるのか」という二つの問題について議論をしました。この問題にグループでディスカッションをしたのち、グループ毎にその内容を発表し合い、また、横谷様からはすべての発表に対して講評をいただきました。

「一番しんどい人ほど支援が届かないことへの気づき」「スポーツや音楽をするという提案は実際に取り入れられており有効な手段の一つであること」「塾の無償化をはじめとするこどもの教育にフォーカスして支援することの重要性」「仕事をつくるという視点」「縦割り行政の弊害という視点」「Uターン政策としての釜ヶ崎地域自体を良くしたいという視点」「支援とは、それによってずっとお付き合いしていくのが目的ではなく、最終的に自らが一人で生きていくことができるようにするためのものであるという視点」「問題のすべてをフォローしなければならないのではない。どれか一つでもいい。できることをやるという視点」「アドボカシーという視点」etc.

 

具体的なものを抽象化し、それを再度具体的な事象に落とし込み、さらにその過程でそぎ落ちていった要素について再考することで思考は深まっていきます。この思考のサイクルは非常に重要ですが、まち歩きにもコーディネーターとして同行していただいた横谷様にはそのプロセスの重要性を意識していただきながら、生徒の発表を受けてその意図を咀嚼していただき、共有することで全体としての学びも深まりました。

 

事前学習を繰り返したうえに立てた自分の仮説と実際に見たものの違い、戸惑いながらも自分の既成概念が壊されていき、また新しい何か新しい思いや着想に出会う体験、世界的な潮流としてのジェントリフィケーション(Gentrification 地域の高級化 社会学者ルース・グラスが提唱した概念)の波のなかで今後変貌していくことが予想される釜ヶ崎地域での今回のフィールドワークは、生徒たちにとって同地域が抱える問題が日本全体ひいては世界全体が抱える問題であることを、大きな衝撃をもって体験したものとなりました。

 「次はいつ(釜ヶ崎へ)行く?」。今回の取り組みをどう今後に繋げていくのか、いけるのか。今後の生徒たちの展開に期待は高まるばかりです。

 最後に、今回の研修に関わっていただいたすべての方々に改めて感謝申し上げます。