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立命館孔子学院
森 靜香さん
情報理工学部 メディア情報学科
田村秀行 教授
「学」バックナンバー
#1 法学研究科 平井利枝 さん
#2 理工学研究科 並河祥司 さん
#3 経営学研究科 劉 莉 さん
#4 社会学研究科 池田さおり さん
#5 経済学研究科 中川賢司 さん
#7 国際関係研究科 佐伯廣謙さん
#8 文学研究科 石川ちひろ さん
#9 情報理工学部 野口尚吾 さん
RS Webアンケート
政策科学研究科 博士課程前期課程1回生
藤井えりのさん
2004年、2005年 森裕之助教授ゼミ生

私は、高校生のときから「人権を守る」ということの必要性を強く感じていて、難民支援のボランティアや障害のある方々の支援活動などを行っていました。また高校2年生の時にフィリピンに短期留学をしたこともあり、最初は進路としてAPUや国際関係学部への進学を漠然と考えていました。そして卒業後は、マスコミ関係に就職することを希望していました。このように興味・関心に基づいていろいろ取り組み、進路についても考えてはいたのですが、実際に進路の選択に際しては自分がどのような学問を専攻するかということが定まらず、学部を決めるにあたっては本当にいろいろ悩みました。そんな時に高校時代の恩師に、「問題を取り巻く社会の仕組みなどを幅広く勉強できる政策科学部も選択肢に入れて考えてみてはどうか」と薦められたのがきっかけで、政策科学部に進学することに決めました。

1回生の基礎演習では、「ゆとり教育」や「原子力発電所建設の推進」の是非や「在日韓国・朝鮮人の社会的地位」などの、当時、表面化していた問題をテーマとして調べ、プレゼンテーションやディベートを行いました。

2回生の研究入門フォーラムでは、韓国フォーラムに所属し「日韓関係における戦後保障の問題点〜経済協力方式と個人補償」について研究を行いました。この韓国フォーラムで、私の大学院での指導教官である森裕之先生に出会いました。そして森先生のお話をお聞きする中で、人権を守るためには自治が必要であるということを痛感しました。そして地方自治の重要性や「財政」が社会に果たす役割の大きさを知りました。地方自治へのアプローチには、法律学や行政学など他にもいろいろありますが、私は財政学によるアプローチを選択。私の場合は問題意識と研究課題や研究手法が結びつかず、2回生までいろいろと悩みましたが、この森先生との出会いが専門分野の発見につながりました。

3回生の専門演習Tにおいて、前期は『地方財政読本』という専門書を輪読し、地方財政に関する知識の習得に取り組みました。そしてそれを実践的に学ぶために、研究対象となる地域を設定し、後期はその地域の実態分析を行いました。

私たちは研究対象として京都市を選択し、京都市の財政分析をグループワークで進めました。産業構造、歳入構造、歳出構造、都市自治体の特徴ともいえる地下鉄、そして京都市によって進められている行財政改革の分析・評価など総合的な分析を行いました。私はその中で、財政指標と歳入分野を担当しました。11月には高知大学の平岡和久先生(現立命館大学政策科学部教授)のゼミと合同ゼミ合宿を香川県の豊島で行いました。この合宿では産業廃棄物問題をとおして地方自治の重要性を学んだり、お互いのゼミでおこなっている研究の中間報告を行い、平岡先生からもご指導をうけました。また、「小さくても輝く自治体フォーラム」に参加し強い刺激をうけたことも、研究への意欲につながりました。そして、最終報告書である「京都市財政の総合的分析」の執筆にあたっては大学院生や森先生の集中的な指導をうけ、この報告書により私たちのゼミでは、父母教育後援会から政策科学部長教育賞を受賞しました。

4回生の専門演習Uでは、3回生で学んだことを発展させ精緻な分析を行い「京都市財政の課題と展望」をテーマに卒業研究を進めました。12月には「第1回 政策系大学・大学院研究交流大会 京都から発信する都市政策」で卒業研究の概略を口頭発表する機会をいただき、この企画に参加されていた他大学の先生からも指導をしていただきました。また、通常のゼミでは3回生の指導もさせていただいたので、そこで今まで学んだことを再確認するよい機会となりました。

大学院では、政府間(国と地方)財政関係、特に地方交付税について研究しています。修士論文のテーマとしては「大都市自治体における地方交付税の機能」を設定し、現在は政令指定都市を対象として、地方交付税の措置状況の実態分析に関する研究を進めています。国による地方財政改革は、三位一体改革の政府与党合意をむかえて以降、地方交付税の改革が焦点となり、現在議論が進められています。大都市自治体が私の研究対象ですが、地方交付税の分析に際しては小規模自治体との比較も重要です。その比較対象として、先進的な自治体運営の取り組みが行われている長野県下伊那の町村において研究したいと思っています。この地域は、文部科学省の魅力ある大学院教育イニシアティブ(大学院GP)に採択された「ローカル・ガバナンスの実践研究」の一環で政策科学研究科と協定を結んでおり、私はその地域へ来年2月から約1か月間学外派遣される予定です[→リンク]。この地域に1ヶ月滞在し、役場という実務の現場で勉強させていただけることはきわめて貴重な機会であると考えています。

また、今後は博士課程後期課程への進学を考えています。そしてこれからも研究を進めていくにあたっては、「研究によって、自分が社会にどう関わっていくか」ということをを追求していきたいと思います。

卒業研究が完成するまで―藤井さんの場合

回生 授業スタイルと研究方法キーワード
1回生 ■プレゼンテーション
■ディベート
キーワード ex) ゆとり教育
在日韓国・朝鮮人
…etc.
2回生 ■現地調査と報告会
キーワード ex) 先生との出会い
…etc.
3回生 ■専門書の輪読
■論文作成にあたって集中的な指導
キーワード ex) 『地方財政読本』・合同ゼミ・
「小さくても輝く自治体フォーラム」
…etc.
4回生 ■3回生への指導
■「京都から発信する都市政策」の準備
■卒業論文の執筆
キーワード ex) 他大学の先生からの指導
…etc.

研究成功の秘訣
―よりハイレベルな卒業研究のために

 

森 裕之 助教授

このゼミは財政学を専攻しているゼミですが、財政というものは国と地方が複雑に組み合わさっているものであるということを理解しなければ、財政に関する良い論文は書けません。苦労する学生が多いなか、藤井さんは、テキストを何回も読み返し、必要な知識を身につけていきました。

藤井さんの研究課題は京都市の財政でした。低所得者が多く生活保護率が高い大阪府のような臨海部とは異なり、京都市は大企業の立地が少なく固定資産税などの税収が低いという特有の事情があります。地方交付税や補助金が削減されるなど国の政策動向も財政に影響を与えています。つまり、研究を進めるにあたり、地域の経済状況や市民の生活状況、国の政策動向などが財政にどう現れているかについて、「地域経済や社会状況というフィルター」を通すだけなく、「制度というフィルター」も通して見なければなりません。財政は政策なので、その現れ方を見たうえで、京都市がどういった施策をとっているか、その施策は財政の役割からいって妥当なのかを判断していかなければなりません。地域の経済状況や市民の生活状況、国の政策動向などは、財政に集約されています。このように、財政の勉強というのは幅広い範囲に及ぶなか、藤井さんは包括的・全体的によく勉強したところが評価できます。

彼女の指導を受け持った当初は、仮説を立てるための基準を知らないと感じました。例えば、京都市の税収が下がっているのは見ればわかる。なぜ下がっているのか仮説をどう立てるかは基準を知らなければいけない。企業活動が落ちているのか。地価が落ちているのか。個人所得が落ちているのか。税制が変えられて落ちているのか。それらの組み合わせで落ちているのか。つまり、仮説を立てて、検証することが大切です。仮説を立てないと検証しようがない。それを考えさせて、わからなければ調べさせるという指導をしました。

また、「研究=現場主義+専門知識」と言う研究に対する姿勢は大切です。専門知識というフィルターがないのに、現場に行ってもなにもわからず、恣意的で感性に依存したものになります。反対に、フィルターだけで、現場の生活・経済を見ないようになると、実体と乖離した無責任なものになります。最終的に、個人の考え方に依存するのは構いません。

政策というのは、人の人生をも左右するものです。政策決定する際には、能力と知識をもって推敲をしなければなりません。思いつきで政策を決定しないためにも、知識を増やして、影響を受ける人の声を聞くことが大切です。人類の歴史における政策的な失敗、例えば公害問題などを見れば明らかです。インターネットの情報だけに依拠せず、本からの情報も大切にしてください。

政策科学部が設置された背景は、例えば法学・経済学という既存の学問だけでは対応できない社会問題が発生してきたことにあります。政策科学部のカリキュラムは、多角的なものの見方(=知識の積み木を横に並べる)ができるというメリットがあります。政策を考えるにあたっては、多角的なものの見方を身につけた上で、ゼミにおいて専門性を深めていくことが必要なのです。

以上のことを踏まえて、政策科学部でのよりよい研究を進めていってほしいと思います。

取材・文 皆木孝夫(政策科学部2回生)
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