このゼミは財政学を専攻しているゼミですが、財政というものは国と地方が複雑に組み合わさっているものであるということを理解しなければ、財政に関する良い論文は書けません。苦労する学生が多いなか、藤井さんは、テキストを何回も読み返し、必要な知識を身につけていきました。
藤井さんの研究課題は京都市の財政でした。低所得者が多く生活保護率が高い大阪府のような臨海部とは異なり、京都市は大企業の立地が少なく固定資産税などの税収が低いという特有の事情があります。地方交付税や補助金が削減されるなど国の政策動向も財政に影響を与えています。つまり、研究を進めるにあたり、地域の経済状況や市民の生活状況、国の政策動向などが財政にどう現れているかについて、「地域経済や社会状況というフィルター」を通すだけなく、「制度というフィルター」も通して見なければなりません。財政は政策なので、その現れ方を見たうえで、京都市がどういった施策をとっているか、その施策は財政の役割からいって妥当なのかを判断していかなければなりません。地域の経済状況や市民の生活状況、国の政策動向などは、財政に集約されています。このように、財政の勉強というのは幅広い範囲に及ぶなか、藤井さんは包括的・全体的によく勉強したところが評価できます。
彼女の指導を受け持った当初は、仮説を立てるための基準を知らないと感じました。例えば、京都市の税収が下がっているのは見ればわかる。なぜ下がっているのか仮説をどう立てるかは基準を知らなければいけない。企業活動が落ちているのか。地価が落ちているのか。個人所得が落ちているのか。税制が変えられて落ちているのか。それらの組み合わせで落ちているのか。つまり、仮説を立てて、検証することが大切です。仮説を立てないと検証しようがない。それを考えさせて、わからなければ調べさせるという指導をしました。
また、「研究=現場主義+専門知識」と言う研究に対する姿勢は大切です。専門知識というフィルターがないのに、現場に行ってもなにもわからず、恣意的で感性に依存したものになります。反対に、フィルターだけで、現場の生活・経済を見ないようになると、実体と乖離した無責任なものになります。最終的に、個人の考え方に依存するのは構いません。
政策というのは、人の人生をも左右するものです。政策決定する際には、能力と知識をもって推敲をしなければなりません。思いつきで政策を決定しないためにも、知識を増やして、影響を受ける人の声を聞くことが大切です。人類の歴史における政策的な失敗、例えば公害問題などを見れば明らかです。インターネットの情報だけに依拠せず、本からの情報も大切にしてください。
政策科学部が設置された背景は、例えば法学・経済学という既存の学問だけでは対応できない社会問題が発生してきたことにあります。政策科学部のカリキュラムは、多角的なものの見方(=知識の積み木を横に並べる)ができるというメリットがあります。政策を考えるにあたっては、多角的なものの見方を身につけた上で、ゼミにおいて専門性を深めていくことが必要なのです。
以上のことを踏まえて、政策科学部でのよりよい研究を進めていってほしいと思います。 |