立命館大学薬学部細胞工学研究室の高田達之教授と檜垣彰吾助教らのグループは、国立遺伝学研究所、滋賀医科大学及び琵琶湖博物館と共同で、絶滅危惧IA類に指定されている琵琶湖固有種ホンモロコの精原細胞(精子のもととなる細胞)のin vitro培養により、受精能をもつ精子の作製方法を開発し、親魚を必要としない精子分化を可能にしました。この成果は、Scientific Reports(オンライン版)で発表しました。

 ホンモロコ(Gnathopogon caerulescens)は、小型の琵琶湖固有魚でコイ科の中で最も美味と言われる食用魚ですが、近年その生息数が激減し、絶滅危惧IA類(ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高い)に指定されています。
 哺乳類等では、種の保存方法として、配偶子(精子、卵子)の凍結保存が一般的ですが、小型の固有魚は季節繁殖性で、短い繁殖期に少量の精子しか得られません。特に絶滅危惧種においては、精子保存のための雄の捕獲は自然繁殖と競合するなど、その実用性に問題があります。ニジマスでは精原細胞の仮親への移植により精子、卵子が作れることが示されていますが、小型固有魚における配偶子の有効な保存方法は確立されていませんでした。
 本研究では、琵琶湖固有魚ホンモロコの保存を目的とし、精子が採取できない非繁殖期や、稚魚の精巣に存在する精原細胞を凍結保存し、必要時にin vitroで分化させ、精子を形成する方法を開発しました。魚の精巣のかわりに、実験室のインキュベーター内で作られた精子は受精能を有し、生まれた個体は正常に発生することを確認しました。また、in vitro分化で作られたホンモロコ精子の受精能を調べるために、ゼブラフィッシュの卵子が利用できることも見いだしました。

精原細胞のin vitro 培養
精原細胞のin vitro 培養
培養で形成された精子
培養で形成された精子

 本研究成果により、琵琶湖固有魚の絶滅後でも、実験室でその精子形成過程を再現することが可能となり、さらに精巣内では半年を要する精子形成が1ヶ月に短縮できます。これは、新たな雄性配偶子の保存方法としてのみならず精子分化メカニズムの解析にも有効と考えられます。

■ 高田達之教授のコメント
今後の研究の展開として目下最大の目標は、精原細胞の未分化培養法の確立及び卵原細胞のin vitro分化誘導です。
これが実現しますと、より一層、絶滅危惧種の保存に貢献することができます。

本研究は、本学薬学部 檜垣彰吾助教をはじめ、大学院生(島田愛美、及び小野友梨子)並びに学生諸君が力を合わせて取り組んでくれました。
また、材料提供に便宜を図っていただいた、山本太右エ門氏(山本養魚場)、川村修一氏(草津ホンモロコ生産組合)、及び山本哲夫氏(株式会社山匠)に深謝申し上げます。

本研究は、立命館大学の研究高度化施策の一つである立命館グローバル・イノベーション研究機構(R-GIRO)の研究拠点として開始されました。

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