立命館白川静記念東洋文字文化賞
Award

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制定の趣旨

立命館学園では、白川静博士の研究成果をもとに東洋文字文化研究の振興と高度化を図ることを目的とした「立命館大学白川静記念東洋文字文化研究所」を2005年5月に設立しました。白川博士は、2006年10月に逝去されましたが、その志を継承発展させるべく活動を展開しています。

日本社会と文化の発展、また東アジアの交流と相互理解の歴史を顧みるに、漢字を中心とする東洋文字文化は大きな役割を果たしてきました。東洋文字文化はこれからも日本および東アジアの精神的支柱であり続け、その振興は重要な意義が有ると考えます。

この賞は、立命館大学白川静記念東洋文字文化研究所が、東洋文字文化の分野における有為な人材を奨励支援するために、功績のある個人および団体の業績を表彰することを目的としています。日本社会・文化の継承と発展、東アジアの平和と繁栄のために本賞の制定がその一助となることを願っています。

第18回「立命館白川静記念東洋文字文化賞」募集要項

賞の種類 ①立命館白川静記念東洋文字文化賞大賞
(特にすぐれた業績のもの)
副賞金額 50万円
②立命館白川静記念東洋文字文化賞優秀賞
(すぐれた業績のもの)
副賞金額 30万円
③立命館白川静記念東洋文字文化賞教育普及賞
(教育指導あるいは漢字文化の普及に貢献したもの)
副賞金額 30万円
④立命館白川静記念東洋文字文化賞奨励賞
(若手※1の研究者を対象とする)
副賞金額 20万円
応募締切 2023年10月31日(火)(当日消印有効)
応募用紙 個人
団体
応募書類提出先 〒603-8577 京都市北区等持院北町56-1
立命館大学 衣笠リサーチオフィス
「立命館白川静記念東洋文字文化賞」係

※1:研究歴10年程度までの研究者・大学院生を対象とする
※詳細はこちら(チラシ)をご覧ください。

第17回

第17回「立命館白川静記念東洋文字文化賞」は、 2023年6月17日、 立命館大学衣笠キャンパス 平井嘉一郎記念図書館カンファレンスルームにて表彰式を行いました。

立命館白川静記念東洋文字文化賞大賞

受賞者 川合 康三(京都大学名誉教授)
主な業績 『中国の詩学』研文出版 他
副賞 賞金 50万円

立命館白川静記念東洋文字文化賞優秀賞

受賞者 半谷 芳文(元・清尚学院高教員)
主な業績 『勅撰三漢詩集の研究』研文出版 他
副賞 賞金 30万円

立命館白川静記念東洋文字文化賞奨励賞

受賞者 髙井 龍(立命館大学文学部非常勤講師)
主な業績 『敦煌講唱体文献研究―写本時代の文学と仏教―』他
副賞 賞金 20万円
受賞者 草野 友子(大阪公立大学客員研究員 京都産業大学非常勤講師 同志社大学嘱託講師)
主な業績 『中国新出土文献の思想的研究ー故事・教訓書を中心として』 他
副賞 賞金 20万円

授賞理由

(1)立命館白川静記念東洋文字文化賞大賞 川合 康三 氏

 川合康三氏は日本における中国古典文学研究を長年にわたって牽引してこられた優れた研究者であり、本書『中国の詩学』は、氏がこれまで積み上げてこられた中国詩学に関する重厚な研究のなかから紡ぎ出された精華とも言うべき研究成果である。
本書は六〇〇頁を超える大著であり、中国古典詩における重要な諸問題の一つ一つについて丁寧に、また滋味深く論じられており、中国における「文学」とは何か、また「詩」とは何かという本質的な問題について考察されている。その考察は、これまで自明のこととされていた事柄についてももう一度基本に立ち返って問い直される深いものであり、本書で繰り返し問われているのは、詩を詩たらしめているものは何か、ということである。この問いの姿勢こそが本書を流れる基底音となっているものであり、氏の中国古典詩に向き合う姿勢にほかならないものと言えるであろう。
たとえば「恋愛」は中国古典文学には乏しいと言われてきたテーマであるが、川合氏はこれまで積極的にこの側面を掘り起こしてこられた。「恋愛」を詠じた作品を特殊な珍しいものととらえるのではなく、正統的な文学の中できちんと取扱いながら、「恋情」という詩を詩たらしめている要素に正面から向き合って論じられる。そして正統的な文学で詠じられる「友情」等と比較しながら、人が人を想うことが中国古典詩ではいかに詠じられているかについて丹念に論じられている。
本書は、一つ一つの章が相互に関連しながら中国の詩学を編み上げているだけでなく、広く「文学」とは何かという大きな問題について読者に考察を促すものであり、今後中国の古典詩を鑑賞したり研究しようとする者にとって、本書は必読の書となるであろう。
よって審査員一同は、同氏の業績に対して白川賞大賞を授与することを決定いたしました。

(2)立命館白川静記念東洋文字文化賞優秀賞 半谷 芳文(はんがいよしふみ) 氏

 本書は、日本の八世紀から九世紀初頭にかけて出現した奉勅撰による『凌雲集りょううんしゅう』・『文華秀麗集ぶんかしゅうれいしゅう』・『経国集けいこくしゅう』を中心に、漢詩の「総集」の編纂意義、その「抒情」的特質と、「韻律」の実態という三つの視点から、平安朝の漢詩を考察したものである。勅撰漢詩集については、小島憲之こじま のりゆき氏に研究があり、また川口久雄氏や松浦友久氏等による部分的な研究もあるが、本書はこれらの先行研究の遺漏や誤謬を大幅に修正して、本格的に勅撰漢詩集を取り上げた貴重な研究成果である。
勅撰の「総集」という中国にも例がない様式の創出の意義について、新たな資料に基づいて、唐朝の文学意識との共通性を明らかにし、同時にその異同についても論じるという立体的な考察がなされている。また特に「韻律」に関しては、日本漢詩文研究においてもっとも立ち遅れた分野であり、日本における漢字音受容の問題を拓く鍵ともなりうる視点でもある。日本漢字音で作品を享受しつつも中国の韻律規範に拘束されることの矛盾的意義について、今後考えるべき多くの材料を提供している。
本書は、中国における最新の研究成果も取り入れて、きわめて実証的に勅撰三漢詩集を論じたものであり、今後の日本漢詩や漢字音の研究にも裨益するところの大きいすぐれた業績であると高く評価できる。
よって審査員一同は、同氏の業績に対して白川賞優秀賞を授与することを決定いたしました。
なお著者は、本書の内容をもって、早稲田大学より博士(文学)の学位を授与されておられる。

(3)立命館白川静記念東洋文字文化賞奨励賞 高井 龍 氏

 高井龍氏はこれまで敦煌文献を研究対象として研究を進め、『敦煌写本研究年報』を中心に多数の研究論文を発表してきている。本書はそうした論文を再編集し、書籍としたものである。過去の研究を丁寧に引用紹介しつつ、敦煌文書を原版で綿密に読みこみ、自分の見解を新しい視点で示すことに成功している。
第一章の「敦煌変文研究」は、敦煌文献の変文が絵解きの性格をもつこと、そして仏教の通俗化や俗講に起源があるわけではないこと、敦煌変文が主に10世紀の文献と考えられる、という。第二章では伍子胥変文写本四種、第三章では金鋼醜女縁写本五種から、当時の写本の成り立ちや利用方法を検討する。第四章「十世紀敦煌文献に見る死後世界と死後審判」では「目連変文」と『十王経』から、当時の敦煌の人々の死後世界、死後審判への考え方を考察する。敦煌文献研究者が必ず検討するべき書籍である。
よって審査員一同は、同氏の業績に対して白川賞奨励賞を授与することを決定いたしました。

(4)立命館白川静記念東洋文字文化賞奨励賞 草野 友子 氏

 本書は、中国新出土文献(特に上博楚簡と北大漢簡)中のいくつかの文献に対して、文字の釈読、竹簡の排列、思想内容、文献の性質といった問題を検討した専著である。
凡そ中国古代出土文献の研究は、中国古典学の総合力が問われる分野である。古文字学・音韻学・訓詁学・文献学・文法・考古学など様々な分野の知識を総動員させて初めて読解することができ、そうしてようやくその文献に記されている思想や歴史などへの分析に進むことができる。近年特に中国において出土文献研究は日進月歩であり、関連する論文が一日数本というスピードで発表されている。著者は中国古代思想史に軸足を置きつつ、主要な先行研究を整理した上で上博楚簡・北大漢簡の数多くの文献に釈読と分析を行っており、その取り扱う分量は国内の中国出土文献研究者の中においては卓越している。多様な角度から数多くの中国出土文献に検討を行っている草野氏の一連の研究は、中国出土文献研究・中国古代思想史研究の大きな礎となることは間違いなく、今後の研究にも更なる期待を抱かせるものである。
よって審査員一同は、同氏の業績に対して白川賞奨励賞を授与することを決定いたしました。

立命館白川静記念東洋文字文化賞選考委員会

委員長 芳村弘道(立命館大学白川静記念東洋文字文化研究所長)
委員 下中美都(株式会社平凡社代表取締役社長)
大形 徹(立命館大学衣笠総合研究機構 教授)
加地伸行(立命館大学衣笠総合研究機構 研究顧問)
杉橋隆夫(立命館大学衣笠総合研究機構 研究顧問)
萩原正樹(立命館大学文学部 教授)
上野隆三(立命館大学文学部 教授)
 ※順不同
第16回

第16回「立命館白川静記念東洋文字文化賞」は以下の1名に贈ることを決定し、 2022年6月25日、 立命館大学衣笠キャンパス 平井嘉一郎記念図書館カンファレンスルームにて表彰式を行いました。

表彰式の写真
立命館大学学長挨拶

立命館大学学長挨拶

立命館大学学長挨拶

当研究所芳村所長挨拶

立命館大学学長挨拶
立命館大学学長挨拶

芳村所長と狩野氏

立命館白川静記念東洋文字文化賞優秀賞

受賞者 狩野 雄(武庫川女子大学 文学部 教授)
対象業績 「香りの詩学――三国西晋詩の芳香表現」(2021年、知泉書館)
副賞 賞金 30万円

授賞理由

立命館白川静記念東洋文字文化賞優秀賞 狩野 雄 氏

狩野雄氏は、東北大学大学院在籍中より一貫して中国六朝文學の研究を進めておられる。
 本書は、西晋以前の文学作品を主たる対象に、香りをキーワードとしてその表現を丹念にたどることで、文学における香りの変遷と拡大を考察したものである。香りを主題とする文学研究は、日本文学では古典から現代文学まで盛んにおこなわれているが、中国文学においては日中両国のいずれにおいてもはるかに少ない状況にある。三国西晋に対象を絞って考察を進められた本書は他に類がないという点で非常に貴重な研究成果である。
 六朝以前の資料にはさまざまな問題があるが、狩野氏は日中の複数のテキストを対照し、注釈書についても周到に目配りしてそれぞれの時代性について確認し、また広く心理学や歴史学・美学などの関連領域の先行研究を参照して考察を進めておられ、その研究姿勢は極めて堅実であり、本書の学術的価値をおおいに高めている。
 狩野氏は本書において、香りは文化的なものであり、また他の感覚と共起して認識されるものであると述べておられる。本書は、実体のない香りの表象を時代と風土に即した精緻な解読によって取り出して、詩人たちの感受性と言語化の試みを解き明かした好著であり、六朝以後の詩歌における香り表現や東アジアにおける香り表現など、他の研究にも裨益するところの大きいすぐれた業績であると高く評価できる。
 よって審査員一同は、同氏の業績に対して白川賞優秀賞を授与することを決定いたしました。

立命館白川静記念東洋文字文化賞選考委員会

委員長 芳村弘道(立命館大学白川静記念東洋文字文化研究所長)
委員 下中美都(株式会社平凡社代表取締役社長)
大形 徹(立命館大学衣笠総合研究機構 教授)
加地伸行(立命館大学衣笠総合研究機構 研究顧問)
杉橋隆夫(立命館大学衣笠総合研究機構 研究顧問)
萩原正樹(立命館大学文学部 教授)
上野隆三(立命館大学文学部 教授)
 ※順不同
第15回

第15回「立命館白川静記念東洋文字文化賞」は以下の3名に贈ることを決定し、2021年6月26日、 立命館大学衣笠キャンパス 平井嘉一郎記念図書館カンファレンスルームにて表彰式を行いました。

表彰式の写真

立命館白川静記念東洋文字文化賞優秀賞

受賞者 大槻 信(京都大学大学院文学研究科 教授)
対象業績 『平安時代辞書論考-辞書と材料-』他
副賞 賞金 30万円

立命館白川静記念東洋文字文化賞教育普及賞

受賞者 阿部 卓也(愛知淑徳大学 准教授)
対象業績 『写真植字の普及と杉浦康平の実践:1960年前後の日本語組版における文字組み規範の成立をめぐって』他
副賞 賞金 30万円

立命館白川静記念東洋文字文化賞奨励賞

受賞者 松川 雅信(日本学術振興会 特別研究員(PD))
対象業績 『儒教儀礼と近世日本社会-闇斎学派の『家礼』実践』 勉誠出版 他
副賞 賞金 20万円

授賞理由

(1)立命館白川静記念東洋文字文化賞優秀賞 大槻 信 氏

 古辞書は、日本語史研究の重要な資料である。しかし、日本語史研究が現代語の理論研究の成果を積極的に取り入れていくという流れの中で、古辞書の資料性を十分に理解し、適切に研究に利用できる研究者は減少している。単著『平安時代辞書論考-辞書と材料-』は、古辞書を利用する日本語学・日本文学の研究者にとって、必読の書となるものである。第一部は「概論」だが、一つ一つの論証が、大槻氏のこれまでの厚い研究の蓄積に裏打ちされたものとなっており、初学者向けの解説にとどまるものではない。第二部の「各論」では、「辞書と材料」という観点から、事実の意味を的確に把握し、一般化しようと試みた論考が収められている。従来の辞書史研究に見られなかった視点で、辞書史研究を大きく転換させたものである。この視点は、論文「『新撰字鏡』の編纂過程」にも通じる。『類聚名義抄観智院本』は、諸本比較も含めた詳細な解題であり、大槻氏の文献の扱いの確かさも十分確認されるものである。

(2)立命館白川静記念東洋文字文化賞教育普及賞 阿部 卓也 氏

 写真植字は我が国の印刷文化、殊に文字組版において一時代を築いた。1970年代前半に複数のカラー雑誌が創刊されたが、その文字組版において印刷文化を支えたのが今回の論文のテーマになっている「写真植字」(以下、写植)である。論文「写真植字の「発明」」をめぐって(上):石井茂吉と森澤信夫の実践1923-1933」は、文字組版が金属活字による活版印刷が主流であった1923年、森澤信夫(株式会社モリサワの創設者)のひらめきから写真の仕組みと写植機が発案され、その後、石井茂吉(株式会社写研の創設者)と共同して実用化に至るまでの論考である。この論文では、天才肌の森澤と学者肌の石井の対比や、写植機に搭載する漢字選択の前に立ちはだかる漢字廃止論のような国字問題等々について論じられている。論文「「ナール」「ゴナ」あるいは大衆文化の中の文字」の「ナール」と「ゴナ」は、1970年代から1980年代にポスターや雑誌などにもっとも多く使われた新しい写植書体である。それを設計した中村征宏氏について論じたものである。論文「写真植字の普及と杉浦康平の実践:1960年前後の日本語組版における文字組み規範の成立をめぐって」は、写植全盛時代、写植というテクノロジーを背景に、グラフィックデザイナーの第一人者であった杉浦康平氏が我が国のタイポグラフィに与えた影響について、論じたものである。

(3)立命館白川静記念東洋文字文化賞奨励賞 松川 雅信 氏

 松川雅信氏の研究の大要は『儒教儀礼と近世日本社会-闇斎学派の『家礼』実践』に集約される。日本の儒者の学派で最大の門人を擁した山崎闇斎学派の教学内容とその機能の分析を企図している。氏は闇斎学が重視した儒教儀礼(家礼)が近世日本社会の秩序形成の要であった家秩序を補強するものであったことに着目し、その相関性を解き明かすことに注力している。それに向けて、これまでの類書以上に門人も含めた同学派の教説内容の詳細 な読み込みがなされていることは評価に値する。これから本格的な研究の深化を期待したい。

立命館白川静記念東洋文字文化賞選考委員会

委員長 芳村弘道(立命館大学白川静記念東洋文字文化研究所長)
委員 下中美都(株式会社平凡社代表取締役社長)
大形 徹(立命館大学衣笠総合研究機構 教授)
加地伸行(立命館大学衣笠総合研究機構 研究顧問)
杉橋隆夫(立命館大学衣笠総合研究機構 研究顧問)
萩原正樹(立命館大学文学部 教授)
上野隆三(立命館大学文学部 教授)
 ※順不同
第14回

第14回「白川静記念東洋文字文化研究賞」は募集の結果、「該当者なし」となりました。

第13回

第13回「立命館白川静記念東洋文字文化賞」は以下の2件に贈ることを決定し、2019年6月22日、 立命館大学衣笠キャンパス 平井嘉一郎記念図書館カンファレンスルームにて表彰式を行いました。

表彰式の写真

立命館白川静記念東洋文字文化賞教育普及賞

受賞者 岡村 秀典(京都大学 人文科学研究所 教授、附属アジア人文情報学研究センター長)
対象業績 『鏡が語る古代史』ほか
副賞 賞金 30万円

立命館白川静記念東洋文字文化賞教育普及賞

受賞者 黄 庭頎(佛光大学 中国文学 助理教授)
対象業績 『従述祖至楊己―両周「器主日」開篇銘文研究』ほか
副賞 賞金 20万円

授賞理由

(1)立命館白川静記念東洋文字文化賞教育普及賞 岡村 秀典 氏

 岡村氏は大学院の修士論文以来、中国古代の鏡の研究を行われ、京都大学人文科学研究所在籍後2005年から2011年までの六年間、共同研究「中国古鏡の研究」を主宰し、その成果の一端を「後漢鏡銘の研究」として2011年の『東方学報』京都第八六冊に示された。 こうした長年の研究の蓄積を土台にして、2017年に岩波新書『鏡が語る古代史』を公刊された。日本における中国の古鏡の研究は、従来、鏡の背面に鋳造された紋様・図像の研究が主流であったが、岡村氏は前漢から三国魏におよぶ鏡の韻文形式の銘文に注目し、これを正確かつ詳細に解読して、男女の愛情をうたう抒情詩というべきもの、 また儒家思想や陰陽五行思想・神仙思想・神話を背景にもつものなどがあり、漢代の鏡はまさに時代と人々の心情を映し出していると解説されている。また鏡の制作者すなわち鏡工に関しても新たな見解を加えておられる。官営の工房から独立し、独自の意匠や銘文に工夫を加えた鏡工の広がりと歴史的な関係についても目配りの行き届いた説明がなされている。『鏡が語る古代史』は、中国、日本、朝鮮半島から出土した古鏡という考古学資料が駆使され、一般の読者に向けての懇切かつ平易な解説が施されており、それに導かれ、中国古代の歴史・社会・思想・文学のみならず、卑弥呼の鏡との関連から日本古代史にもおよぶ豊かな知見が得られる好著となっている。岡村氏による古鏡の銘文研究の優れた成果が示された本書は、まことに東洋文字文化の豊饒な世界を広く知らしめる著書であると高く評価できる。

(2)立命館白川静記念東洋文字文化賞奨励賞 黄 庭頎 氏

  黄庭頑氏は、甲骨・金文から戦国・秦漢の竹簡に及ぶ出土資料を対象に研究を進める気鋭の研究者である。今回、受賞の対象となった論文「従述祖至揚己ー雨周「器主日」開篇銘文研究」は、銘文の始まりが「器主日く」すなわち「青銅器の制作主が言うには」という形式をもつ西周・東周 (春秋・戦国期)の金文を詳細に分析した研究である。西周期では祖先の功績を先ず述べ、ついで器主みずからの職務や事跡が祖先の功績に則ったものであると位置付け、一族の栄光の永続を願うという構成であったが、東周になると次第に器主自身の功績のみを誇る内容に変化してゆくことを明らかにし、この事象には両周間における宗法制度、社会構造、思想の変遷が反映していると論じておられる。本論文は金文の形式論に止まらず、周代の歴史と思想に関する研究としても優れている。また青銅器文化は政治秩序の変革の影響を受けて変容したという白川静博士の見解や欧米の研究者による出土文献のテキスト論も吸収した重厚な論文となっている点も高く評価できる。 また「日本漢学家白川静的金文研究及其影響」は、白川博士の金文研究の目標が金文を歴史資料 としてとらえることにあり、殷周の連続性に着目した所論は殷代の国家構造に関する研究の先駆となったこと、『金文通釈』が日本の殷周史研究の基礎となったことなど、主に歴史学の方面での貢献を評価されている。日本や海外における古文字学と先秦史の研究動向を視野に入れるとともに、白川博士の研究に対する従来の評価を充分に把握し、的確かつ公平な論評を行っておられる。 この二篇の論文は、黄庭頑氏の古文字の研究とその研究史に関する優れた業績として高く評価しうるもので、氏の今後の研究の発展が大いに期待できる。
 同氏の業績は、白川賞優秀賞に相当すると評価する。

立命館白川静記念東洋文字文化賞選考委員会

委員長 杉橋隆夫(立命館大学白川静記念東洋文字文化研究所長)
委員 加地伸行(衣笠総合研究機構特別研究フェロー)
下中美都(株式会社平凡社代表取締役社長)
上野隆三(立命館大学文学部教授)
芳村弘道(立命館大学文学部教授)
大形 徹(衣笠総合研究機構 客員教授)
萩原正樹(立命館大学文学部教授)
 ※順不同
第12回

第12回「立命館白川静記念東洋文字文化賞」は以下の2件に贈ることを決定し、2018年5月26日、 立命館大学衣笠キャンパス 平井嘉一郎記念図書館カンファレンスルームにて表彰式を行いました。

表彰式の写真

立命館白川静記念東洋文字文化賞優秀賞

受賞者 上野 誠(奈良大学文学部教授)
対象業績 『万葉集から古代を読み解く』ほか
副賞 賞金 30万円
受賞者 松井 太(大阪大学大学院文学研究科教授)
対象業績 『敦煌石窟多言語資料集成』ほか
副賞 賞金 30万円

授賞理由

(1)立命館白川静記念東洋文字文化賞優秀賞 上野 誠 氏

 上野氏は、民俗学的解析を方法とし、その調査・研究を通して培った祭祀・芸能の具体的様相を観察する目をもって、 『万葉集』を対象とし、万葉文化論を構想し、その文化の具体相を解明することに成功した。
 例えば、歌を書くとはどういうことか、歌集を作るとはどういうことか、『万葉集』とはどういうものか、等について具体例を示し、 巧みな比喩や図式化などによって明快に展開している。その際、考古学界における、近年の発掘や研究成果をも背景としてその実体が具体的に詳細に論述されている。
 また、日本人の、外国文化である漢字を用いての多様な使い方・書きかたについて、それを辺境文化の創造性と評価し、思想面においても追求している。 すなわち、九州の太宰府に到着した[知]が、短歌体の中に凝縮されていると仮定し、万葉讃酒歌十三種の死生観は、『荘子』『列子』を淵源とする、 戴逵(中国・東晋時代の知識人)の分命論に近いとする解析は傾聴に値する。
 さらに、六朝文学に親しんだ日本の文人官僚は、壬申の乱の出発点となった吉野を、天子と仙人とが出逢う神仙世界すなわち南山とし、 そこに七賢人が遊ぶと見立てて詩が作られたと説くところは、上野氏ならではの優れた考察である。
 上野氏には、大量の研究業績があり、右に紹介した研究は、その一部にすぎない。
 同氏の業績は、白川賞優秀賞に相当すると評価する。

(2)立命館白川静記念東洋文字文化賞優秀賞 松井 太 氏

 松井氏は、敦煌を研究対象の中心とする。敦煌は多種多様な言語の重層地域であり、その研究は非常に困難である、 その多言語・多文字史料の内、松井氏はウイグルを中心にして、モンゴル・チベット・漢語の諸言語に精通し、大量の現地出土文献の調査・研究を蓄積してきた。
 その研究中、特に評価したのは、敦煌石窟群に遺る多くの銘文資料の読解を進め、史料としての確定に貢献した点である。
 松井氏は、多種類の言語・文字理解の上に立ち、先行研究諸文献を消化しつつ、特記すべきは、保存状態の良くない銘文の実地調査・研究に果敢に取り組み、 個別の正確な読解成果を生み出している。このような地道な作業の価値は非常に高い。
 さらにもう一つ、高く評価すべきものがある。それは、研究の世界性である。百年以上にわたって、世界の研究者が行ってきた敦煌の文字資料現地調査は、 近年、当然なことながら、現地中国の研究者らの業績がいちじるしい。
 しかし、松井氏の成果にはそれらを凌駕するものが多く、一文字たりとも見逃すまいとする厳密な注意力と、 先行研究手法に基づく成果とは、世界における研究水準を高めることに寄与するところ大である。
 同氏の業績は、白川賞優秀賞に相当すると評価する。

立命館白川静記念東洋文字文化賞選考委員会

委員長 杉橋隆夫(立命館大学白川静記念東洋文字文化研究所長)
委員 加地伸行(白川静記念東洋文字文化研究所 研究顧問)
下中美都(株式会社平凡社代表取締役社長)
上野隆三(立命館大学文学部教授)
芳村弘道(立命館大学文学部教授)
萩原正樹(立命館大学文学部教授)
 ※順不同
第11回

第11回「立命館白川静記念東洋文字文化賞」は以下の2件に贈ることを決定し、2017年4月22日、立命館大学衣笠キャンパス 平井嘉一郎記念図書館カンファレンスルームにて表彰式を行いました。

表彰式の写真

立命館白川静記念東洋文字文化賞優秀賞

受賞者 笹原宏之(早稲田大学社会科学総合学術院教授)
対象業績 国字の研究
副賞 賞金 30万円

立命館白川静記念東洋文字文化賞奨励賞

受賞者 成田健太郎(東京大学附属図書館アジア研究図書館上廣倫理財団寄附研究部門特任研究員)
対象業績 『中国中古の書学理論』および王羲之・顔真卿関連の論考
副賞 賞金 20万円

授賞理由

(1)立命館白川静記念東洋文字文化賞優秀賞 笹原宏之 氏

対象業績は、国字に関する日本語学界初の体系的な研究書で、学術的に極めて高い水準にあり、これを超える研究成果は発表されていません。これらは、日本語学界における国字に関する誤解等を修正するもので、漢和辞典等の記述をより精緻なものにすることに貢献するものです。今後、さらに国字研究を発展することが期待されます。

(2)立命館白川静記念東洋文字文化賞奨励賞 成田健太郎 氏

対象業績は、唐の張懐瓘による書論『書断』をベースとしながら、「勢」「訣」「風格」「筆勢」など、これまであまり取り上げられなかった視点から、深みのある考察を行っています。考察は、独創的かつスタンダードになりうる内容であり、今後、文字学・書道史を学ぶものにとって必読書となると思われます。

立命館白川静記念東洋文字文化賞選考委員会

委員長 杉橋隆夫(立命館大学白川静記念東洋文字文化研究所長)
委員 加地伸行(衣笠総合研究機構特別研究フェロー)
下中美都(株式会社平凡社代表取締役社長)
上野隆三(立命館大学文学部教授)
芳村弘道(立命館大学文学部教授)
萩原正樹(立命館大学文学部教授)
 ※順不同
第10回

第10回「立命館白川静記念東洋文字文化賞」は以下の3件に贈ることを決定し、2016年10月15日、立命館大学衣笠キャンパス 平井嘉一郎記念図書館カンファレンスルームにて表彰式を行いました。

表彰式の写真

立命館白川静記念東洋文字文化賞大賞

受賞者 上島有(摂南大学名誉教授)
対象業績 ユネスコ記憶遺産として登録された国宝、
『東寺百合文書』の整理・研究
副賞 賞金 50万円

立命館白川静記念東洋文字文化賞教育普及賞

受賞者 冨谷至(京都大学人文科学研究所教授)
対象業績 簡牘、出土文献の知識の普及
副賞 賞金 30万円

立命館白川静記念東洋文字文化賞奨励賞

受賞者 武内康則(京都大学白眉センター助教)
対象業績 契丹語、契丹文字の研究
副賞 賞金 20万円

授賞理由

(1)立命館白川静記念東洋文字文化賞大賞 上島有 氏

上島氏は、京都府立総合資料館所蔵の「東寺百合文書」の整理とその研究に長く従事され、日本の中世古文書学・中世歴史研究に多くの業績を打ち立て、多大な貢献を果たされている。同氏は、これまでに『東寺・東寺文書の研究』(思文閣出版、1998)をもって第21回角川源義賞、また密教学芸賞を受け、斯界に赫赫たる名声をすでに馳せておられるが、90歳をこえてなお大著『中世アーカイブズ学序説』を世に問われ、古文書学に新しい方法を提唱する旺盛な研究を示された。長年に亘る古文書研究は、広く日本の学問世界のみならず、文字学においても敬意を表すべきものであると、高く評価する。

(2)立命館白川静記念東洋文字文化賞教育普及賞 冨谷至 氏

冨谷氏の主著『木簡・竹簡の語る中国古代――書記の文化史』刊行の2003年当時、出土文献についての専門書は少なく、また体系的に論じる書はほとんどなかった。同書は、専門的な内容を含みながら、一般向けにわかりやすく解説され、難しい言葉にはルビや説明をつけるなどして読み易い。題名にある木簡・竹簡だけではなく紙以前の甲骨から紙への移行までを追って書かれており、多くの人への簡牘、出土文献の知識の普及という点においては大変優れた書籍である。 簡牘の内容が中国西北辺境の漢代の行政文書と限定的ではあるが、これまでに無かった辞典であり、文字学のみならず行政史の研究の上でも高い価値を有するものである。

(3)立命館白川静記念東洋文字文化賞奨励賞 武内康則 氏

武内氏は、契丹小字中の漢語軟口蓋音の音写を扱い、契丹語の軟口蓋音の1部を解明した。また、漢語史書における漢字による音写で記録された契丹語に着目し、契丹語の音声特徴、特に音素配列に関する重要な特徴を明らかにした。同氏の研究は一見オーソドックスな分析であるが、漢語音韻学・契丹文字、特に小字の構造・モンゴル諸語の音韻に精通し、データの丹念な検証なくしてはなしえないものといえる。契丹文字は使用された期間は短いものの、その研究はモンゴル諸語の古層、遼・契丹族の歴史と文化、疑似漢字の類型といった様々な研究に寄与する。若手ながら有意義な多くの論考を持つ研究は今後も
斯界に貢献できるものと期待できる。

立命館白川静記念東洋文字文化賞選考委員会

委員長 杉橋隆夫(立命館大学白川静記念東洋文字文化研究所長)
委員 加地伸行(衣笠総合研究機構特別研究フェロー)
下中美都(株式会社平凡社代表取締役社長)
上野隆三(立命館大学文学部教授)
芳村弘道(立命館大学文学部教授)
 ※順不同
第9回

第9回「立命館白川静記念東洋文字文化賞」は以下の2件に贈ることを決定し、2015年3月8日、立命館大学衣笠キャンパス敬学館210教室にて表彰式を行いました。

表彰式の写真

立命館白川静記念東洋文字文化賞優秀賞

受賞者 金成恩(大韓民国全南大学校教授)
対象業績 日韓近代翻訳比較研究
副賞 賞金 30万円

立命館白川静記念東洋文字文化賞奨励賞

受賞者 張宇衛(台湾中央研究院語言学研究所研究員)
対象業績 甲骨文研究
副賞 賞金 20万円

授賞理由

(1)立命館白川静記念東洋文字文化賞優秀賞 金成恩 氏

キリスト教関係文献に対する日本語訳や朝鮮語訳、また日本人の今田束著『実用解剖学』(明治20年・1887年)の朝鮮語訳等についての詳細にして綿密な分析を通じて、東北アジア共通の漢字漢文から東北アジア諸国の近代語や語彙・文法体系がどのように再編されていったかという問題意識の下、東北アジアにおける近代知の形成に漢字漢文を通じての翻訳ルートが重要な要因として作用したことを明らかにしようとして成功している勝れた業績に対して、新設の白川賞優秀賞に値すると評価した。

(2)立命館白川静記念東洋文字文化賞奨励賞 張宇衛 氏

甲骨文研究において、形態よりも音韻を通じての分析に重点を置いているのが特徴で、一定の新しい解釈を創出しており、従来と異なる勝れた読みかたに成功している。 また、甲骨文の断片をつなぎあわせる作業(綴文)に取り組み、16例の報告を出しており、古代文字学の研究者として堅実な能力を備えており、将来に期待できることに対して、白川賞奨励賞に値すると評価する。

立命館白川静記念東洋文字文化賞選考委員会

委員長 杉橋隆夫(立命館大学白川静記念東洋文字文化研究所長)
委員 加地伸行(衣笠総合研究機構特別研究フェロー)
下中美都(株式会社平凡社代表取締役社長)
上野隆三(立命館大学文学部教授)
萩原正樹(立命館大学文学部教授)
※順不同
第8回

第8回立命館白川静賞の選考は2013年9月に行われましたが、「該当者なし」との結果となりました。

第7回

第7回「立命館白川静記念東洋文字文化賞」は以下の1件に贈ることを決定し、2013年6月6日、立命館大学衣笠キャンパス末川記念会館にて表彰式と故白川静・立命館大学名誉教授への名誉漢字教育士認定証追贈式を行いました。

表彰式の写真

立命館白川静記念東洋文字文化賞教育普及賞

受賞者 張莉(同志社女子大学現代社会学部准教授)
対象業績 白川静文字学的精華
副賞 賞金 30万円

授賞理由

(1)立命館白川静記念東洋文字文化賞教育普及賞  張莉 氏

対象となる業績の1つである『白川静文字学的精華』は白川静先生の業績(釈史、釈文)を中心に中国語に翻訳し、紹介した上で、客観的な立場から解説している。翻訳の精度も高く、白川文字学の普及という側面において顕著な業績であることが認められる。

立命館白川静記念東洋文字文化賞選考委員会

委員長 加地伸行(衣笠総合研究機構特別研究フェロー)
委員 上野隆三(立命館大学教授)
下中美都(株式会社平凡社取締役)
萩原正樹(立命館大学教授)
芳村弘道(立命館大学教授)
※五十音順
第6回

第6回「立命館白川静記念東洋文字文化賞」は以下の3件に贈ることを決定し、2012年7月6・7日にて表彰式を行いました。

左から蘇氷氏(受賞者)、山元宣宏氏(受賞者)、加地伸行研究所長

左から蘇氷氏(受賞者)、山元宣宏氏(受賞者)、加地伸行研究所長

表彰式の写真

福井県立嶺北養護学校(受賞団体)

立命館白川静記念東洋文字文化賞教育普及賞

受賞者 蘇氷(北海道文教大学外国語学部教授)
対象業績 『常用字解』の中国語版出版
副賞 賞金 30万円

立命館白川静記念東洋文字文化賞奨励賞

受賞者 山元宣宏(宮崎大学教育文化学部専任講師)
対象業績 秦漢時代の書体の諸相に関する研究
副賞 賞金 20万円

立命館白川静記念東洋文字文化賞教育普及賞特別賞

受賞者 福井県立嶺北養護学校(団体)
対象業績 福井県立嶺北養護学校における「書」作品制作
副賞 賞金 20万円

授賞理由

(1)立命館白川静記念東洋文字文化賞教育普及賞  蘇氷 氏

白川文字学の一般的普及を目的とした『常用字解』を正確に中国語に翻訳し、かつ「導読」1章を設けて白川静の学問を深い尊敬の念をもって世に紹介した本書を白川学の普及における業績として高く評価した。

(2)立命館白川静記念東洋文字文化賞教育奨励賞 山元宣宏 氏

書体はその形式上からの研究が普通であるが、山元氏は中国思想史上の今古文論争の政治性を深く追求し、隷書とは、古文学派が今文学派の文字を貶めた呼称とする新鮮な説を提起した。広い視野と緻密な論証とは将来の研究の大いなる飛躍を示して余りありこれを高く評価した。

(3)立命館白川静記念東洋文字文化賞教育普及賞特別賞 
福井県立嶺北養護学校(団体)

障がいのある生徒への教育方法として、甲骨文・金文の絵画的性格を活用し、国語の書道ならびに芸術的感動を一体化した教育を実施されており、大きな成果を挙げている。この勝れた教育例は、全国の障がい児教育に普及する可能性が大きく、これを高く評価した。

立命館白川静記念東洋文字文化賞選考委員会

委員長 加地伸行(立命館大学白川静記念東洋文字文化研究所長)
委員 上野隆三(立命館大学教授)
下中美都(株式会社平凡社取締役)
芳村弘道(立命館大学教授)
※五十音順
第5回

第5回「立命館白川静記念東洋文字文化賞」は以下の2件に贈ることを決定し、2011年5月21日、立命館大学衣笠キャンパス以学館ホールにて表彰式を行いました。

立命館白川静記念東洋文字文化賞教育普及賞

受賞者 森岡隆(筑波大学大学院人間総合科学研究科教授)
対象業績 書道史研究
副賞 賞金 30万円

立命館白川静記念東洋文字文化賞教育普及賞

受賞者 書論研究会(代表:杉村邦彦)
対象業績 学術機関誌『書論』の刊行を通じて、書論や書に関する諸文献の研究
副賞 賞金 30万円

授賞理由

(1)立命館白川静記念東洋文字文化賞教育普及賞  森岡隆 氏

多年にわたる書道史研究による、文字や書法についての豊かな学識に基づき、日本における出土木簡の文に、左から右へ、すなわち左書きがあることを実証し、それは2幅対・3幅対のシンメトリーに発するものと推論し、そのシンメトリーの発想や思考は、甲骨文や金文にまで遡れるのではないか、とした、日本古代の出土資料に対する独創的解明を中心とする漢字文化の研究に関するすぐれた業績を高く評価した。

(2)立命館白川静記念東洋文字文化賞教育普及賞 書論研究会

京都教育大学名誉教授、杉村邦彦会長を中心に、学術機関誌『書論』の刊行を通じて、書論や書に関する諸文献の研究を着実に行ない、その成果は中国・台湾・韓国等においても極めて高い評価を得てきた。その多年にわたる、書を通じての漢字文化の普及に努めたすぐれた業績を高く評価した。

立命館白川静記念東洋文字文化賞選考委員会

委員長 加地伸行(立命館大学白川静記念東洋文字文化研究所長)
委員 上野隆三(立命館大学教授)
下中美都(株式会社平凡社取締役)
芳村弘道(立命館大学教授)
※五十音順
第4回
表彰式の写真

第4回「立命館白川静記念東洋文字文化賞」は以下の2件に贈ることを決定し、2010年6月6日、立命館大学衣笠キャンパス以学館ホールにて表彰式を行いました。

立命館白川静記念東洋文字文化賞教育普及賞

受賞者 久米雅雄(大阪芸術大学客員教授)
対象業績 印章研究
副賞 賞金 30万円

立命館白川静記念東洋文字文化賞奨励賞

受賞者 岡墻裕剛(北海道大学大学院文学研究科専門研究員)
対象業績 『文字のしるべ』(B・Hチェンバレ著)の文献学的研究
副賞 賞金 20万円

授賞理由

(1)立命館白川静記念東洋文字文化賞教育普及賞  久米雅雄 氏

従来の印章研究が印影や拓影を重んじた平面的研究に偏る学派と、実物の古印を重視する学派とがあるが、その2学派の手法に対して久米雅雄氏は、ともに批判的に検討し、考古学的手法を導入した。すなわち、発掘によって層位学的に時代差を把握すること、ならびに実物印の形式を区分し形式ごとの時代的変遷を把握すること、この2方法によって相対的編年を行い、各時代の鈕式と文字書体の特徴を明らかにし、印ならびに印影の作製時代を体系的に推定することに成功した。印章の文字書体を中心とする漢字文化の研究に関するすぐれた業績を高く評価した。

(2)立命館白川静記念東洋文字文化賞奨励賞 岡墻裕剛 氏

明治時代初期において、B・Hチェンバレンが著わした『文字のしるべ』の文献学的研究を行ない、『日本基本漢字』・「漢字用例」・公的漢字 表等との比較を通して同書の特徴と傾向とを明らかにし、かつ現存する同書29冊における書き込みの様態を精密に調査し、漢字学習の実態について精密な検討を行った。これは、日本近代における漢字普及度の実態や、国語教育史の研究において、従来になかった視点であり、この 『文字のしるべ』研究を基礎にして、研究のさらなる展開が大きく期待されると高く評価した。

立命館白川静記念東洋文字文化賞選考委員会

委員長 加地伸行(立命館大学白川静記念東洋文字文化研究所長)
委員 上野隆三(立命館大学教授)
木村一信(立命館大学教授・文学部長)
下中美都(株式会社平凡社取締役)
※五十音順
第3回

第3回立命館白川静賞の選考は2008年11月に行われましたが、「該当者なし」との結果となりました。

第2回

第2回「立命館白川静記念東洋文字文化賞」は以下の2件に贈ることを決定し、2007年9月28日、立命館大学朱雀キャンパス中川会館にて表彰式を行いました。

受賞者 日本漢字教育振興協會(代表 理事長 土屋秀宇)
対象業績 幼児・児童への漢字教育活動
副賞 賞金 50万円
受賞者 エヴゲーニィ・イヴァーノヴィチ・クチャーノフ
Евгений Иванович Кычанов
ロシア科学アカデミー東方学研究所
荒川慎太郎
東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所准教授
対象業績 『タングート(西夏)語辞典』
СЛОВАРЬ ТАНГУТСКОГО(СИ СЯ)ЯЗЫКА;
Тангутско-русско-англо-китайский словарь
副賞 賞金 50万円

授賞理由

(1)日本漢字教育振興協會

「漢字は、かなに比べて難しいので、かなの後に漢字を学習させる」という一般的な認識があると思われるが、日本漢字教育振興協會が行っている石井式に基づく方法は、幼児の視覚認識力に着目し、むしろ早期からの漢字学習を奨励し、さらに昔から伝えられている物語を仲立ちにして無理なく漢字を読むことができるようにする等、優れた内容を実践している。さらに漢字を覚えることだけではなく、「読み検定」の実施等、漢字・言葉を通した知識全般の拡大および情操教育に発展させていること、また長年の継続的活動そしてその活動が広がっているという実績を評価した。

(2)E.I.クチャーノフ 氏と荒川慎太郎 氏

古代語である西夏語の研究は、現在使用する者がいなくなったからこそ、学問的にも高い価値を有し、その困難さには計り知れないものがある。そしてこの分野に対して地道な資料収集と分析に取り組むことによって、辞典を完成した。西夏語・文字と中国語・漢字との対照表は古くから存在するが、これは字典(もじてん)ではなく辞典(ことばてん)であることが汎用性を非常に高めている。今後日本・中国・台湾を始めとする世界の西夏語・西夏文字の研究、さらには東洋史の研究に資することが期待される。

総括

第1回の推薦事項は、白川文字学および現代の漢字文化に関するものがほとんどでしたが、第2回はそれらに加え、古代漢字や漢字以外の東洋文字を対象とする推薦が有りました。「東洋文字文化」の概念および本賞の趣旨が、広く認知されるようになった結果であると認識しております。優れた業績が多数寄せられ、選考は昨年以上に難航しました。
本賞では先ほど申し上げた通り、3つの領域に基づく審議を行うこととしました。これは、本賞が白川文字学だけにとどまらず、広く東洋文字文化の分野における業績を対象とすることを示しています。
第3回の募集要項は追って発表いたしますが、本賞の制定が日本社会・文化の継承と発展、東アジアの平和と繁栄のための一助となることを願い、多数の推薦が有ることを期待します。

立命館白川静記念東洋文字文化賞選考委員会

委員長 高杉巴彦(立命館大学白川静記念東洋文字文化研究所副所長、学校法人立命館常務理事)
委員 上野隆三(立命館大学教授)
加地伸行(大阪大学名誉教授、同志社大学専任フェロー)
木村一信(立命館大学教授・文学部長)
下中美都(株式会社平凡社取締役)
本郷真紹(学校法人立命館初等・中等教育担当常務理事)
※五十音順

選考委員会は、締め切りの2007年2月末日までに各団体から推薦のあったものを審議しました。委員会では、まず本賞の設立趣旨に基づき、推薦のあった候補を以下の3つの領域に基づいて業績を評価・審議することが決定されました。

①故・白川静博士(当時、名誉研究所長)の学問の継承・発展を目的としたもの。
②東洋文字文化の研究・調査にかかわるもの。
③東洋文字文化の教育・普及にかかわるもの。

この決定に基づき推薦された候補の業績を分類し、全会一致で上記2件を表彰することを決定しました。

第1回

第1回「立命館白川静記念東洋文字文化賞」は以下の2件に贈ることを決定し、2006年6月3日、立命館大学末川記念会館にて表彰式を行いました。

表彰式の写真
受賞者 沈慶昊(韓国・高麗大学教授)
対象業績 ハンジャ ペッカジ イヤギ』(ハンジャ ペッカジ イヤギ),2005年 韓国・牡牛座
(白川静著『漢字百話』中公文庫2002年/中公新書1978年の韓国語翻訳版)
副賞 賞金 50万円
受賞者 漢字字体規範データベース編纂委員会
(代表 石塚晴通 北海道大学名誉教授)
対象業績 「漢字字体規範データベース」(URL http://joao-roiz.jp/HNG/)
副賞 賞金 50万円

授賞理由

(1)沈慶昊 氏

ハンジャ ペッカジ イヤギ』は、韓国での刊行後新聞各紙で直ちに書評が出され、注目を浴びた。自国語の表記法についてハングル専用と漢字併用との間で方法を模索している韓国において、漢字の諸問題や今日的課題を問う本書が刊行された意義は大きい。今後も白川の他の著作にとどまらず、日本での漢字研究の成果を韓国に紹介し、また韓国での研究成果を日本に紹介・比較研究を行うなど、日韓間の漢字研究の架け橋的役割を担うことを期待する。

(2)漢字字体規範データベース編纂委員会

大量の写本を丁寧に集め、膨大な時間をかけて資料を完成させる地道な努力をし、「字体・書体辞典」のような異体字や字体の集積とは別に「字体のゆれ」を把握するという、まさに日本的な着眼を行い、さらに中国だけではなく日本のものも収集し、編年化している。またこのデータベースを無料で公開しており、研究者に限らず書道家等の活動にも寄与することが期待される。選考委員会時点での公開内容は、整備・点検の終了された16文献(異なり字種3,638字種、総用例136,390字)のものですが、その後2006年4月に32文献(異なり字種4,037字種、総用例228,976字)のものに拡大している。韓国資料等も含めた全67文献、40万用例の資料が存在するということであり、それらの一日も早いデータベース化と、字体規範に関する研究を更に深められることを期待する。

総括

第1回と言うことで広報活動も十分ではなかったため、本賞がどこまで認知を得、その趣旨にご賛同いただけるのかを危惧していましたが、幸いなことに多数の推薦を得ることができました。残念ながら最終的に受賞には至りませんでしたが、優れた内容のものが多数有り、東洋文字文化に関する長年の活動が地道に行われてきたことや、日本国内で外国人が漢字を理解する必要性が有り、そのために様々な試みや工夫がなされてきたことを改めて感じております。

本賞では上述の通り3つの領域に基づく審議を行うこととしました。これは、本賞がいわゆる白川文字学だけにとどまらず、広く東洋文字文化の分野における業績を対象とすることを示しています。第2回の募集要項は追って発表しますが、多数の推薦が有ることを期待しています。

立命館白川静記念東洋文字文化賞選考委員会

委員長 高杉巴彦(学校法人立命館総務担当常務理事)
委員 上野隆三(立命館大学教授)
加地伸行(大阪大学名誉教授、同志社大学専任フェロー)
木村一信(立命館大学教授・文学部長)
下中美都(株式会社平凡社取締役)
本郷真紹(学校法人立命館初等・中等教育担当常務理事)

選考委員会は、締め切りの2006年2月末日までに各団体から推薦のあったものを審議しました。委員会では、まず本賞の設立趣旨に基づき、推薦のあった候補を以下の3つの領域に基づいて業績を評価・審議することが決定されました。

①白川静名誉所長の学問の継承・発展を目的としたもの。
②東洋文字文化の研究・調査にかかわるもの。
③東洋文字文化の教育・普及にかかわるもの。

この決定に基づき推薦された候補の業績を分類し、全会一致で上記2件を表彰することを決定しました。

立命館白川静記念東洋文字文化賞
選考委員会