当事者意識で地域を変える

2019.04.30 TOPICS

当事者意識で地域を変える ケイカクラボ株式会社 代表取締役 村上勝俊さん(2005年応用人間科学研究科修了)

 子育て世代の父親3 人で立ち上げた団体「MORIOKAコソダテオウエンプロジェクト」が子育て支援のアプリを開発した。団体の代表を務めるのは校友の村上勝俊さん。行政コンサルタントを本業とする傍ら、子育て支援の仕組みづくりに取り組んでいる。

 村上さんは同志社大学文学部で心理学を専攻。その後、立命館大学大学院応用人間科学研究科に入学。在学中は診療所で心理士として、卒業後は認知症専門のデイサービスで介護士として 勤務し、福祉の質向上のための研究を続けていた。現場で働いてみるとサービスの種類・質・賃金などの課題は見えてきたが、国の制度を現場から変えることは予想以上に難しいことがわかったという。「改善には外部からの働きかけが必要」と感じ、福祉を専門としたコンサルタント業に転職。2011 年、第一子誕生と東日本大震災をきっかけに自分が育った街で子どもを育てたい、復興に貢献したいと2013 年、岩手県盛岡市に家族とともに帰郷。2016 年に「ケイカクラボ」を立ち上げ、独立を果たす。

 本業で行政や地方自治体と関わっている村上さんが、常々感じていたのは「必要なところに情報が行き届いていない」ということだった。「子育てに必要な情報、地域に役立つ情報はそれぞれの媒体で発信されているが、子育てで手一杯の母親が、その情報を自ら取りにいくことは時間的にも手間的にも難しいのが実情。ならば、ニーズに合った情報を一カ所に集めたらよいのでは、とアプリを開発しました」。また、アプリで情報を受け取るだけにとどまらず、実際に子育て世代が集い、交流ができる場をつくりたいと「子育て応援サロン」を定期的に開催している。「転勤で移住する家族が多い盛岡市では身近に相談できる相手がおらず、孤立してしまう母親が増えています。それが児童虐待につながるケースも。アプリを入り口に、サロンや行政のイベントを通じて仲間を増やしてほしい」と思いを語る。

 地元の子育て世代の母親に、アプリで発信する情報収集の協力をしてもらっているが‘母親の視点’には目を見張るものがあるという。「公園やお店などを実際に利用し、リポートしてもらうコーナーがあるのですが、そこで報告されるのは『この公園は新幹線が通る様子を見ることができるから電車好きの子におすすめ!』『子どもに合わせて食事を細かく刻んでくれてうれしかった』『お店に綿あめ機が置いてあって、子どもたちと一緒に楽しく遊べた』といった感動体験。一方、僕ら父親は『車は何台置けるか』『子ども用トイレはあるか』『近くにコンビニエンスストアはあるか』といったスペックの情報に偏りがちです。子どもの気持ちに寄り添い、子どもの目線で物事を考えられるのは母親の強みだと実感しました。このプロジェクトに関わり、より感じるのは父親・母親で得意・不得意分野があるということ。それぞれの視点を生かし、アプリコンテンツの充実を図っています」。

 村上さんが独立したのはワーク・ライフ・バランスを重視した結果だ。「子育てにもっと関わりたいと思って。子どもの世話が忙しい時間帯は一緒にいて、子どもたちが寝てから仕事をするというような、もっと自由なライフスタイルを実現させたかったのです。もちろん、ほかの理由もありますが、家族との時間を大切にしたかったのが大きな理由です」と語る。自分の子どもに愛情が芽生えるにつれ、周りの子どもたちもかわいく思えるようになったと村上さん。「子どもたちにとってより良い環境にするためには、まず、親が子育てを楽しめる環境、子どもたちを育てやすい環境にすることだと思います。つまり、親の笑顔が子どもたちの笑顔につながっているということ。今、自分たちが問題と感じていることも、子どもが大きくなるにつれ問題でなくなり、新しい問題が見えてくるはず。だからこそ当事者であるうちに、できることをやり切りたい」と意気込む。MORIOKAコソダテオウエンプロジェクトにおける今後の課題は、自走で持続可能なサービスを提供することだという。「現在のアプリ利用者は約1,000 人。子育て世代や企業をもっと巻き込んで、盛岡市が『子ども・子育て支援が地域文化のまち』となるように貢献したいと思います」。

出典元:校友会報「りつめい」No.275(2019年1月号)
写真撮影:伊藤隆宗
撮影協力:村上さんご一家

PROFILE

村上勝俊さん
2005年大学院応用人間科学研究科修了
ケイカクラボ株式会社 代表取締役
MORIOKA コソダテオウエンプロジェクト 代表

2003年同志社大学文学部卒業。2005年立命館大学大学院応用人間科学研究科修了。第一子誕生と東日本大震災をきっかけに2013年に岩手県盛岡市に帰郷し、2016 年に行政コンサルタント業の「ケイカクラボ」を立ち上げる。MORIOKAコソダテオウエンプロジェクト代表兼務。

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