水野由香里教授

2022.06.08 TOPICS

RBSは経営リーダーの覚悟と能力を持つ「経営的人材」を育成する-水野由香里教授 ①

 2021年度に着任した水野由香里教授は、「ダ・ヴィンチは、うみだせる。」を信じていると言います。学ぶ気概を持つことが経営リーダーになる第一歩だ、と。そして、水野教授は、その学ぶ気概を持った院生が集まるRBSから、日本のビジネスリーダーを数多く輩出することを目指しています。そうした水野教授が考えるビジネススクールの役割とは、どういうものなのでしょう。

「know-how」だけでは不十分。「know-why」を理解することが大事

 私は、学術畑を歩んできたアカデミア出身、アカデミクス(academics)の教員で、2021年度から立命館大学ビジネススクール(以下、RBS)で教えています。それまでは他大学の経営学部、経営学研究科で教鞭を執っていましたので、専任としての専門職大学院は初めての経験です。
 経営学研究科としての大学院が研究者を育てる場であるのに対し、専門職大学院のビジネススクールは「実学」に比重を置き、経営リーダーとしての覚悟と能力を持つ「経営的人材」を育成する場です。経営的人材に必要な知識、考え方、道具といったものを使いこなせるように教えていくことがビジネススクールの大事な役割です。その点、RBSは、実務家出身のプラクティショナーの教員とアカデミクスの教員がバランス良く在籍し、経営的人材の育成に適した環境で、院生の教育・指導に当たっています。
 その中でアカデミア出身の教員の役割は、実際の現象が、これまで蓄積されてきた学問体系の中でどのように位置付けられ、どのように理解・解釈すべきなのかを教えていくことだと考えています。
 例えば、すぐに使えるフレームワークを知識として徹底的に覚えさせすぐに実践での効果が出るようにしたとしても、そのフレームワークがどういうときに、どういった文脈で、何に注意して使うのかを教えなければ、現象を分析できる人材は育っても、経営的人材は育たないのです。「know-how(ノウ・ハウ)」を教えるだけでは不十分で、大事なのは「know-why(ノウ・ホワイ)」を理解してもらうことが重要なのです。
 フレームワークに限らず「know-why」の部分は、教わるものというより、「自分で考えて知識を使ってみる」ことで少しずつ理解し、体現化していくものなのです。このプロセスをきちんと鍛えていくのが本当のビジネススクールの役割であり、私も力を入れているところです。私の授業では、教科書レベルでは「事業の撤退」という結論を簡単に出す、一見成長が見込めない事業の撤退についての議論を深堀りしてみたり、自然災害やテロ、訴訟など不測の事態に見舞われた際の責任者としての対応などを議論してみたりします。それは、普段においてはなかなか考えないであろう場面における企業の意思決定について議論し、考察を深めていくことが大事なことであると考えているからです。それをケースメソッドの教育手法を使って授業をするのです。面白いのは、同じケース教材を使って同じ設問で議論しても、参加する院生が違うとディスカッションの結論や学びのポイントが異なる場合があるということです。それは、多様なバックグラウンド、多様な価値観を持った院生たちが集まって議論をするから、結果的にそうなるのです。こういったディスカッションを繰り返すことによって、一つの現象をさまざまな視点から見て判断することができ、院生自身の考えの幅も広がっていく、——ここに、ビジネススクールで学ぶことの大きな意味があるのだと思います。

「経営的人材」が数多く育つことが日本の閉塞感を打ち破っていく

 この20〜30年間、日本の社会には閉塞感が漂っていますが、その大きな要因の一つに「経営的人材が圧倒的に足りていない」ことが挙げられると思います。
 「経営する」ということには2つの意味があります。一つは「管理する」という意味、もう一つは「意思決定する」という意味です。「管理」とは、目標の管理とか進捗の管理とか、達成の度合いを評価するということで、「business administration(ビジネス・アドミニストレーション)」と訳すことができます。
 一方の「意思決定」という意味が含まれる「management」とは、これからどうなるかが分からない不確実性の高い状況の中で、いろいろなことを勘案しながらどうやって意思決定して、どうやって実行していくのか、ということを指します。そこには、「意思決定する人」としての覚悟も含まれます。今の日本では、この意思決定という観点の経営が、大きく欠如しているのではないでしょうか。
 覚悟を決めて意思決定して、それを実行する力は、訓練することで鍛えられていくものです。そして、その訓練は、ビジネススクールがやるべき役割だと思うのです。私の授業では、経営的人材としての覚悟を決めるための学術的な知識や理論、多様な視点から考える力を鍛えるために、ケース教材に含まれているさまざまなシチュエーションからの学びを提供し、意思決定する能力を高める訓練を日常的にしてもらっています。意思決定する力を備えた経営的人材が数多く育っていくことが、日本の閉塞的状況を打開していくと思っているからです。
 その意味で、私は、RBSに「5年後10年後の日本のビジネスリーダーを目指す人」に来てほしいと思っています。そして、RBSが一人でも多くの「5年後10年後に日本のビジネスリーダーとして活躍する人」を輩出していくことを、私は目指しているのです。

RBSでの2年間で「経営的人材」としてのクオリティは担保される

 「ダ・ヴィンチは、うみだせる。」は2020年に立命館大学が広告に使ったキャッチコピーですが、私はその通りだと思っています。天才は、「天才になれた」のではなく、ちゃんと訓練して「天才になった」のです。
 それと同じで、経営的人材にしても、将来のビジネスリーダーにしても、生来の資質によってなれる、なれないかが決まっているわけではありません。学ぶ気があれば、訓練を積み重ねて、経営的人材になることはできる——私は、そう信じています。
 「経営的人材になる」とモチベートされてRBSに入ってきた人たちが勉強し、社会で幅広く活躍するようになると、RBSがハイライトされ、「RBSに行けば本当に成長できる学びの場が用意されていて、経営的人材になる訓練を受けられるんだ」と評価されるようになるでしょう。そうなると、モチベートされたもっと多くの人たちが、さらにRBSに集まるようになるはずです。——そんな循環をつくることができれば良いと思っています。
 その点、入学する時点で学ぶことにモチベートされている院生が集まっているRBSには、大きな可能性を感じています。これまでいくつかの社会人大学院や研修機関で教えてきた経験がありますが、授業で深いディスカッションができたという意味で、RBSでは、最も教えがい、やりがいを感じる授業を行うことができています。さらに、RBSでの1年間の授業を経て、マネジメントプログラムの院生のみならず、キャリア形成プログラムの院生も、思考の幅と深さは大きく広がっていることを実感しています。
 どちらのプログラムであれ、院生にとって、RBSでの2年間の勉強は大変だと思います。しかし、その大変な2年間を過ごすことで、「自分は経営的人材としてのクオリティが担保される経験を積んできたのだ」、「この先どんな“修羅場”でも乗り越えていくことができるんだ」という、自信を持ってほしいと思っています。

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