助け合いと幸福感から社会の動きを捉え直す ――空き家・地域コミュニティの実践から広がる新しい社会運動研究

  立命館大学の富永京子准教授(産業社会学部)は、空き家や地域コミュニティの実践を手がかりに、新しい社会運動論を模索しています。従来の社会運動論では対立や抗議といった行動が中心的に捉えられてきましたが、富永先生は、こうした見方だけでは、なぜ人々が活動に参加し、関わり続けるのかを十分に説明できないと考えています。そこで、空き家や地域コミュニティの活動を通じて得られる幸福感や、助け合い、互いを支え合う関係性に着目し、社会運動を捉え直す、という研究を進めておられます。

「空き家」と「自治」から見える新しい社会運動像

 空き家や空き施設を市民が利活用し、自ら管理・運営するといった取り組みは、「まちづくり」や「地域活性化」として紹介されることが多い一方、現場では、居住や労働、ケアといった日常的な営みを通じて、人と人との関係が築かれ、自治的なコミュニティが形成されています。富永先生はこの点に着目し、調査を重ねてきました。

 調査を進める中で明らかになってきたのは、人々がこうした活動に関わり続ける理由が、問題への不満や課題意識だけではないという点です。むしろ、誰かの役に立っているという実感や、助け合いの関係、活動を通じて得られる幸福感といった前向きな動機が、継続的な参加を支えていることが浮かび上がってきました。

科研費による国際共同研究で理論化へ

 これらの国内調査で得られた知見を理論的に発展させるため、富永先生は令和7(2025)年度 科研費・国際共同研究加速基金(国際共同研究強化)に申請し、採択されました。

研究課題名
 「幸福感と互酬性に基づく社会運動の理論化:国際共同研究による概念構築」

 本研究では、オーストリア・ウィーン大学のWolfram Manzenreiter 教授と共同で、日本と欧州におけるコミュニティ形成の実践を比較・検討します。

 幸福感や互酬・共助といった感情や関係性を軸に、社会運動への参加や継続をどのように理論化できるのかを探り、従来の枠組みにとらわれない社会運動理論の構築を目指しています。

日工組・鹿島学術振興財団の助成による研究の広がり

 富永先生の研究は、科研費に加え、複数の外部助成によって支えられています。公益財団法人日工組社会安全研究財団の助成では、「若年層の社会的孤立・逸脱を防ぐ自治型地域ネットワークの役割と課題」をテーマに、研究が進められています。

 また、公益財団法人鹿島学術振興財団の研究者海外派遣援助では、「市民主体の空き家活用による自治コミュニティ形成の日欧比較研究」を課題として、日本と欧州における実践を比較しながら、海外での研究活動を進めていく予定です。





 富永先生の研究は、日本社会における市民の実践を単なる事例として紹介するものではありません。幸福感や互酬性を軸に、社会運動の成り立ちを捉え直すことで、欧米中心に発展してきた社会運動論そのものを相対化し、非欧米社会の経験から理論を更新する可能性を示しています。

 今後は、日本での研究から得られた知見を、国際的に発信していくことが期待されています。

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