本研究のポイント

  • 2台のMRI装置を用いて対話中の2者の脳活動を同時に計測する「ハイパースキャニングfMRI注1」を用い、「話し手」と「聞き手」という二つの役割における脳内メカニズムを調べた。
  • 脳活動の解析により、話し手と聞き手に共通して活動するコアネットワークを同定するとともに、話し手・聞き手の役割ごとに特徴的に活動する領域を明らかにした。
  • さらに、コア領域間の影響関係を解析した結果、脳領域間の連携の仕方が話し手と聞き手で動的に切り替わっていることが示された。また、こうした領域間の連携は、伝達する情報量によっても変化した。
  • 本研究は、「見たものを言葉にする過程」と「言葉からイメージを構築する過程」が、共通する神経基盤の上で相補的に機能していることを示すものであり、視覚・言語・認知制御の各システムが協調して働く、人間の柔軟なコミュニケーションの神経基盤を理解するための新たな枠組みを提供するものである。

研究概要

 名古屋大学大学院情報学研究科の沈 鈺蕾(シェン ユーレイ)博士後期課程学生(研究当時)と田邊 宏樹 教授の研究グループは、理化学研究所 脳神経科学研究センターの小池 耕彦ユニットリーダー、生理学研究所および立命館大学総合科学技術研究機構の定藤 規弘教授らとの共同研究により、対話している二人の脳活動を同時に計測することで、自分が見たものを言葉で相手に伝える時と、その言葉からイメージを思い浮かべる時の脳の働きの一端を明らかにしました。
 これまで、「話す」と「イメージする」という過程に関わる脳領域はそれぞれ個別に研究されてきており、実際の対話の中で、それらの脳領域がどのように連携して働くのかについては十分に分かっていませんでした。
 そこで本研究では、2台のMRIを接続し、リアルタイムの会話中における「話し手」と「聞き手」の脳活動を同時に計測しました。対話課題を遂行中の両者の脳活動を比較した結果、役割ごとに特徴的に活動する脳領域に加えて、両方の役割で共通して活動するコア領域(下前頭回、頭頂間溝、紡錘状回顔領域)の存在が明らかとなりました。さらに、これらのコア領域同士の影響関係を解析したところ、脳領域間の連携の仕方が話し手と聞き手で動的に切り替わっていることが示されました。これは、視覚・言語・認知制御に関わる脳システムが、コミュニケーションの役割に応じて柔軟に再構成されることを示唆しています。
 本研究は、人と人との自然なコミュニケーションを支える脳の仕組みの理解を深めるものであり、視覚と言語の橋渡しに困難を伴うさまざまな疾患の理解や、ヒトのコミュニケーションを支援するブレイン・コンピュータ・インタフェースの開発への応用が期待されます。本研究成果は、2026年5月12日(日本時間)付で、国際学術雑誌『Human Brain Mapping』に掲載されました。

図1 図1 ハイパースキャニングfMRI実験のイメージ図

詳細は、以下のプレスリリースをご覧ください。
https://www.ritsumei.ac.jp/profile/pressrelease_detail/?id=1309

定藤教授のコメント

 「ことばを使ってわかり合う」とは、自分の経験を、相手の頭の中で再構成してもらう試みです。本研究では、話し手が自分の見た顔をことばで伝え、聞き手がそのことばをもとに顔を思い浮かべる状況での脳活動を、2台のMRIで同時に計測しました。その結果、言語化と視覚化には、下前頭回、紡錘状回顔領域、頭頂間溝からなる共通ネットワークが関与し、話し手と聞き手では領域間の影響の向きが柔軟に切り替わることがわかりました。これは、コミュニケーションが単なる情報伝達ではなく、言語・視覚・注意制御のネットワークを相互に働かせながら、自分と相手の内的モデルを近づけていく能動的な過程であることを示すものです。この成果を、人が人を理解する脳の仕組みの解明と、その支援技術の発展につなげていきたいと思います。

用語説明

  • 注1) ハイパースキャニングfMRI
    2台(またはそれ以上)のMRI装置を用いて、相互作用している複数の参加者の脳活動を同時に計測する手法。リアルタイムの社会的相互作用を行っている最中の脳活動を研究することができる。本研究では、2者間の脳活動同期そのものではなく、コミュニケーション中に各個人の脳内で生じる処理過程に焦点を当てて解析を行った。

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