Voices for future leaders修了生紹介

9期生

大竹 理英

大竹 理英Otake Rie

サッポロ不動産開発株式会社
恵比寿事業本部 AM統括部 企画部 部長

  • サッポロビール株式会社
    マーケティング本部 酒類戦略部 
    事業企画グループリーダー
  • サッポロ不動産開発株式会社
    恵比寿事業本部 AM統括部 企画部 部長

立命館西園寺塾を通じてのご自身の変化や成長について

「西園寺塾は、私の人生を変えた」と思います。西園寺塾に入る前と今とでは、仕事に対する考え方も、世界や地球、人間に対する捉え方も大きく変わりました。最も変わったと思う点を二つ挙げます。
一つ目は、これまで見てこなかった問題、特に軍事問題や国際関係を直視したということです。2022年2月にロシアがウクライナに侵攻し、私たちは戦後初めて、大国間の大規模な戦争を経験しています。核戦争の脅威がこれほどまでに高まったことはありません。そのさなかに、西園寺塾で、外交交渉の要諦について、戦争の歴史について、ロシアや中国の考え方について学ぶことができたことは、大きな意味がありました。それまでの私は、戦争などすべきではない、という忌避の気持ちが強く、どのようにして平和を維持すべきかをリアルに考えることができていませんでした。しかし、西園寺塾での学びを通して、改めて日米同盟の重要性や軍事的な抑止力の意味が理解できました。平和というのは、ただ不戦主義を掲げて願っていれば維持できるものではないということを痛感しました。そして、それぞれの国が主張する背景を理解したうえで行動しなければならないと学びました。

二つ目は、リーダーとしてビジョンを示すことの重要性、そして自らが変わる必要性に気づいたということです。今でも印象に残っているのは、IKEAの身障者用の家具アクセサリーの動画でした。IKEAは、「すべての人がお気に入りの家具に囲まれている」というビジョンを掲げたからこそ、現状の問題に気付くことができました。私たちがありたい社会を構想する力こそが求められているのだということを痛感しました。
「どうやって会社を変えていったらいいのか」という私の問いかけに対して、山口周先生がおっしゃった言葉が忘れられません。「まず自分が変わりなさい。そうすれば、あなたの部署が変わっていく。時間軸を長くとって、20年、30年かけて変えていくんだと思えば、成功と失敗の捉え方も変わります」。その言葉に、はっとさせられました。一足飛びに会社全体を変えようと考えるのではなく、まずは、自分が変わることで、自分の小さなチームを変えていく、それによって会社全体を変え、究極的には、社会にインパクトを与えられるようになろうと決意しました。
変化の背景には、既に取締役として会社経営を担う仲間、経営幹部として期待されている仲間たちに西園寺塾で出会ったことが大きく影響しています。仲間たちとともに学ぶなかで、リーダーとしての自覚が生まれたのだと思います。

特に印象に残っている講義・フィールドワーク・出来事はどのようなことでしょうか。また、その理由についてお教えください。

  1. 細谷雄一先生の講義
    どれも印象に残っていますが、最も印象に残っている講義として、細谷雄一先生の「歴史認識とは何か」を挙げたいと思います。特に、先生の「あなたたちが生きている間に、核戦争を経験することになるだろう」という言葉には、大きなショックを受けました。
    課題図書には、国際社会から孤立してアジア太平洋戦争に進んでいく日本の歴史が克明に描かれており、これまで知らなかった「世界から見た日本」を初めて学び、驚くことばかりでした。また、権力の分散とセクショナリズムが日米開戦を招いてしまった事実からは、企業経営にも通ずる意思決定の重要性を痛感しました。
    私たちが入塾したのは2022年5月、まさに、ロシアによるウクライナ侵攻の3か月後でした。国際平和とは何かを考えざるを得ない状況下で、細谷先生をはじめ、川島真先生、小泉悠先生、薮中三十二先生、鈴木一人先生、木村幹先生という大変豪華な講師陣に、多様な視点から国際政治を学ぶことができたことは、本当に幸せだったと思います。
  2. 中川毅先生の講義
    二つ目に、中川毅先生の「古気候学が照らす過去と未来 ―『想定外』の時代をどう生きるか ―」を挙げたいと思います。中川先生の講義で特に印象的だったのは、先生の研究への強い熱意と好奇心でした。約1万年前に農耕が生まれたのは、地球の気候が安定化したからであるというお話にはわくわくしました。中川先生が地球の古気候を追究するだけでなく、気候と人類の歴史とのかかわりについて深い関心を寄せていることに驚きました。その一週前の松井孝典先生の講義においても、松井先生は地球の起源について研究するにとどまらず、生物の起源、文明と農耕の起源を解き明かそうとしていました。
    地球とは、生命とは、人類とは何なのか、どうして人類はこのような発展の歴史をたどってきたのかという問いは究極の問いであり、分野は異なれど、すべての研究者が追究しようとしているのだと気づきました。そしてその先にあるのは、地球や生命に対する畏怖の念、大事にしなければならないという強い愛だと思います。西園寺塾でサイエンスの講義を受講したことで、地球の大切さ、生命の尊さを改めて痛感しました。
  3. 奈良・京都へのフィールドワーク
    三つ目には、奈良・京都へのフィールドワークを挙げたいと思います。奈良フィールドワークの旅程表を見た時の第一印象は、「修学旅行で行ったことがある(知っている)なぁ」というものでした。しかし、それは、完全な誤解でした。
    東大寺の前で見かけたのは、「こっちだぞー」と叫ぶ先生に急かされて、足早に歩いていく修学旅行生たち。数十年前の私を見ているようでした。それに比べ、今回の私たちがどれほど贅沢だったことか。日本史の専門家である本郷真紹先生の熱のこもった解説を聴き、まるで初めて遭遇したかのように感動しました。
    特に印象に残っているのは、法隆寺における解説でした。「もともと、お寺においては、仏舎利を奉安するためのストゥーパこそが最も大事であり、初期のお寺では、塔が中心に置かれている。初期の仏教は、偶像崇拝を固く禁じていた。その後、ガンダーラ美術の影響を受けて、仏像が作られるようになってから、仏像を安置するための金堂が、寺院のなかで重要となっていく」と。寺院の始まりを初めて知るとともに、キリスト教と同様に、禁じられていたはずの偶像崇拝が広がっていくという共通点に気づき、非常に面白いと思いました。
    奈良・京都のフィールドワークの意味は、自分が理解していたと思っていたことは、実は何も理解していなかったのだ、ということをガツンと分からせてくださったということにあります。西園寺塾の開講と同時にこのような衝撃を受けたことで、西園寺塾におけるその後の学びと吸収に、素直につながっていったような気がします。

今後の夢や目標を教えてください。

西園寺塾での学びをきっかけに、私は、決めてくれる誰かを待つのではなく、自分が行動しなければならないと考えるようになりました。

折しも、西園寺塾の受講の最中に、サッポロビールからサッポロ不動産開発に異動しました。どこまで自分が関わって良いものか、悩むことも多いのですが、おかしいと思うことには、はっきり声を上げ、会社を良くしていくために、これまで見過ごされてきたことにもしっかりと直面しなければならないと思っています。山口周先生や大田嘉仁先生にアドバイスをいただいた通り、「まずは自分の部署から」着実に変えていきたいと思っています。

未来の西園寺塾 塾生にメッセージをお願いします。

「西園寺塾とは、いったい何だろう」と考えていた時に、こんな文章に出会いました。

入門書とは、「一冊でわかる」といった類いのものではなく、文字通り門を入った向こう側に広がる知の世界へと読者を誘うための本である。言い換えれば、読者にとって「終わり」ではなく、「始まり」となる本のことである。

『中東政治入門』末近 浩太【著】ちくま新書より抜粋

これを読んだ時に「ああ、まさに西園寺塾のことだな」と思いました。西園寺塾でのカリキュラムは、これですべてが分かる、とか、何かをマスターするというものではありません。そうではなく、その先に広がる知の世界を垣間見させてくれることで、その豊かな世界へと私たちを誘ってくれるものだと思います。すなわち、西園寺塾は、「終わり」ではなく、「始まり」なのです。

西園寺塾の受講を通して、きっとあなたの人生観が変わることと思います。新しい世界が開けます。毎週の講義に向けて仕事との両立は大変だと思いますが、頑張ってください。いつかOBOG会で皆さんにお会いできるのが楽しみです。