Voices for future leaders修了生紹介

9期生

熊野 裕司

熊野 裕司Kumano Yuji

株式会社読売広告社 取締役執行役員
株式会社読広クロスコム 代表取締役社長

  • 株式会社読売広告社
    コミュニケーションデザイン統括 執行役員
    コミュニケーションデザイン統括担当補佐
  • 株式会社読売広告社 取締役執行役員
    株式会社読広クロスコム 代表取締役社長

立命館西園寺塾を通じてのご自身の変化や成長について

  1. できるの先にある【変容】を促すための思考訓練
    入塾時、塾長から「すごくビジネスのことを意識されているようだが、西園寺塾はビジネススクールではないからね」とアドバイスされたが、修了して「なるほど」と思った。今迄の自分の知見獲得では、すぐに答えを求めていた。答えを外に求め、著書や講座の先生方の発言や思考を受けうりするに過ぎなかった。これでは、知見を獲得したことにはつながらない。知識を右から左に移すだけ。新たな知識を創り出す人、未来の新たな価値創造を担うリーダーは、まずは情報に頼らない。とことん納得するまで考えたら、ようやく外の世界に目を向け、そこから、様々な情報を手繰り寄せ、自分の思考を精査する。だから、勉強する、知識を高めるのだ。歴史や政治や主義、最近のデジタル技術のような新しい科学技術の進展を知るからこそ、今の状況をもう少し引いて見られるようになる。単なる知識を上書きして、能力やポテンシャルを「強く」し「できる」ことを拡大することだけが塾の目的でなく、「できるの先にある【変容】」を促していくこと、これが西園寺塾の言う「学び」であると認識した。
  2. 徹底的に丸裸にされ【考え勝ったか】を問われる
    まずは、レポートだ。事務局の皆さんからは「自由に思ったことをお書きください」と言っていただいた。でも、どうしても読書感想文のように「こう言っている」「著者はこう思っている」と記述してしまう。自分より若い仲間たちは、著書を意気揚々と解釈し、自分の言葉で、自分の思いを論じていた。著書を解釈したうえで、自分の意見や思ったことを毎週論じるのは、なかなか大変なことだった。提出しなければ、塾生がどう考えたか、論じたか、は知ることはできない。自分のレポートを提出し、塾生のレポートを拝読し、そして講義に参加し、やっとそういう意図・背景だったのか、と新たな視点に気づく。その講義の場でも、自分の意見や解釈が非常に重要であり、講師と対峙していくためには、毎回、考え勝っていなければ講師の真意にはたどり着けないし、講師との対話で、徹底的に丸裸にされる。かなり、自己否定と自己嫌悪の日々であった。考えに考え抜き、考え勝つ、という物事を見つめるうえで一番重要なことを気づかせてくれた。少し、脳や精神が若返り、かつ強靭でしなやかになったかな、と思う。

特に印象に残っている講義・フィールドワーク・出来事はどのようなことでしょうか。また、その理由についてお教えください。

  1. 中島隆博先生「自分の問いを切り出す」
    「できるの先にある【変容】」の訓練であり、西園寺塾の学びの象徴となる講義であった。通常講義での「講義→質疑→グループワーク」とは異なり、中島先生から事前レポートの主旨やその問いの本意を塾生全員それぞれとの対話で進める講義だった。丸裸になっていく。私の提示した問いに対して、「達観が大切だが、その後、自分にどう還ってくるのか?」「その還り方は具体的にどうするのか?」「そもそも、『自分』ってどう捉えている?」と詰問され、その答えが曖昧であったり要領を得ないと、先生は納得してくれない。「具体的には?」と問い詰められ、奥底の考えを追究される。休憩中に、ある塾生から「熊野さんへの先生の質問、きつかったですよね?」と慰められ、自分は「いや、中身がないからだよ」と自虐的にもなった。
    この講義は、事後レポートで「再度、自分の問いを切り出す」ことができた。正直、よいチャンスをもらったと思った。しかも、最後の講義、総決算だ。私は、考えに考え抜いて、先生からえぐられた質問を返す形で、事後レポートを書いた。その評価は、とても嬉しいものだった。今までの講義で、毎回反省、自己否定と自己嫌悪になっていた自分の胸に何かつかえていたものが溶けていった感じがした。まさに、「できるの先の【変容】」を実感した講義であった。
  2. 山口周先生「ニュータイプの時代」
    マーケティングに一番近い講義であったが、今のマーケティングでは解決できないことを具体的に知ることができた。社会課題・産業課題・経営課題、そもそも、何が課題かすらわからない時代において、何を信じて思考し判断すればいいかのヒントを学べた。また、組織の階層における「問題解決の質」と「問題定義・解決のバランス」の変化には、強く賛同できた。
    今、現場と経営の分断がよく叫ばれているが、我々は、このバランスをアップデートさせることができていないのではないか?このアップデートを、特に問題の設定を行うべき「経営」こそが進めなければならない、と感じた。また、リベラルアーツでは、「自分の心が動かなければ他人の心が動くわけがない」が一番原動力になると感じた。人間、いや、自分の「真・善・美」の判断力を磨き上げるということがリベラルアーツである、と整理した。
    また、「ディスカバージャパン」の広告キャンペーン事例は、子供の頃から触れていて、いわゆるタレント広告とは全く違う「主義・主張」を改めて感じることができた。我々、広告業界は、デジタル時代になって、クリエイティビティ=メッセージ・ストーリーの幅がより広がっている。でも、実は、社会に何を問うのか?というメッセージ・ストーリーこそが一番普遍的であり大切である、と再実感できた。リベラルアーツに近い業界にいるのである。「独善的」な思考・発想が必要であることを学んだ講義であった。
  3. 京都フィールドワーク「いけばな体験」
    京都フィールドワークの一環で池坊を訪れ、六角堂・資料館見学、「いけばなに見る世界観」をテーマに、いけばなの表現することやいけばなの美観についてさまざまな視点から考察、「専応口伝」が教える「草木の性質や生育する環境を知ること」「自然の摂理を学ぶこと」など、池坊のいけばなが伝える精神性や考え方について学んだ。次期家元による立花新風体のデモンストレーションが行われた後、我々は「自由花」を体験した。
    次期家元の講義やデモンストレーションを心で感じることができていなかったと猛省。私のいけばなは、正直「自然児」。草花のありのままをありのままに生けただけ。次期家元が、各作品にコメントしていくのだが、評価された塾生の作品を観察してみると、「主役となる花とそれを引き立てる草木や構図や空間のバランス」や「引き算、つまり、いかに少ない草花で、自然のにぎわいと季節」を感じさせることが重要であることが学べた。日本の文化・芸術の奥深さを感じたと同時に、自分自身のクリエイティビティへの過信に気づかせてくれた講義であった。

今後の夢や目標を教えてください。

  1. 経営の立場に立って役に立つ思考訓練
    修了式で西園寺裕夫名誉顧問から、「長期的な観点から世界を見てください。そして、自身の生き方を見つめ、天命を正しく理解し、それに向けて努力をしてほしいと考えています。塾で得た学びは、すぐに仕事の役に立たないかもしれません。しかし、より責任の重い立場になられた時に活きる学びになると確信しています」と、力強いエールをいただいた。確かに、その通りだ。私が課題としている厳しいビジネス環境のなか、当社および自分がどう存在意義を再定義し、日本や世界のなかでどういった価値を創造していけばよいか?当社および自分の未来を創造していくためには今までの固定概念での「ものの見方」「ビジネスの考え方」では限界が来ているのではないか?日本やアジアの風土と歴史・伝統文化・価値観という自分のビジネスでは到底考えることのなかった新たな知見や視点は、こういった「答えのない未来」に対する問いを切り出す力を醸成してくれる。今回、こういった知見を少しではあるが学んだと思う。もっともっと、未来を切り開く力を研ぎ澄ましていきたい。
  2. 私にとっては、すぐ必要になる知見となった
    私は、(株)読売広告社 取締役執行役員、そして今回、(株)読広クロスコム代表取締役社長に就任した。読売広告社グループは、「GAME CHANGE PARTNER」を掲げ、ビジネスと社会のサステナブルな成長のためにともに変化へ挑戦するパートナーとしてビジネス変革に舵を切っている。グループ子会社である読広クロスコムも、変革に果敢に挑むべきである。変革期とは、これまで通用していた考え方ややり方が通用しなくなる時期である。事業は社会の変化によって陳腐化し、その実効性を失ってしまう。したがって、事業そのもののモデルチェンジが必要である。旧タイプのままでいれば、船で言うと、嵐にのまれるか、機能不備で沈没するかのどちらかである。いつの間にか潮目が変わり、気がつかないところで、今の漕ぎ方が不適切なものになり、思わぬ方向へと漂流してしまう。私は、自分のミッションが事業を新しい次元に進化させることであると意識している。「答えのない未来」に対する問いを切り出す力、未来を切り開く力を研ぎ澄まし、変革していく博報堂DYグループ、読売広告社グループの一翼を担いたい、と考えている。

未来の西園寺塾 塾生にメッセージをお願いします。

西園寺塾は、約1年間、正味9カ月の講義。相当ハードな塾と覚悟してください。「講師が指定した参考文献、副読本を読み込んで、2~3ページ程度の事前レポートを提出」→「講義と塾生との議論」→「講義後、塾生が感じたこと・学んだことを事後レポートとして提出」という「毎週無限ループ」になります。忙しい業務のなかで、この課題をこなしていかなければならないので、セルフマネジメントを試されます。

ただし、このサイクルをこなしていくことで、今まで勝手に先入観で捉えていた物事や社会の事象とは違う風景が少しずつ見えてきます。ビジネスに近視眼的になっていた自分に「待った」をかけてくれる学びを得ることができます。さらには、塾生や講師との懇親会というフランクな環境での更なる議論も、非常に重要な学びです。酒を酌み交わしながら、塾生はもちろん、著名な講師と懇親できる場を与えてくれるのも、西園寺塾の大きな魅力です。

55歳の私は9期生最年長でしたが、「西園寺塾に早い遅いはない」と感じました。現業のど真ん中で実際に活躍されている幹部候補生の塾生からは、非常にしなやかな思考を学ぶことができましたし、また、年齢関係なく同じ学びをする同窓として、とても頼もしく感じることができました。また、経営層に近い私は、実際に経営する際の心構えや思考・学びのスタンスをアップデートすることができました。どの年齢の方でも、新たな価値創造を担うリーダーとして実際に役立つ学びができると思います。