Voices for future leaders修了生紹介

9期生

末次 貴英

末次 貴英Suetsugu Takahide

アミタホールディングス株式会社 
代表取締役社長 兼 CIOO

  • アミタホールディングス株式会社 取締役
  • アミタホールディングス株式会社 代表取締役社長 兼 CIOO

立命館西園寺塾を通じてのご自身の変化や成長について

西園寺塾での学びを通じた最大の変化は、物事の捉え方、考え方に深い洞察が生まれたことだと思います。資本主義のいまと未来、アジアや世界の宗教・歴史・政治、宇宙や地球の科学、東洋哲学、茶道・華道・能楽など、多様な分野の良書であり難書と悶々と格闘し、第一線で活躍される講師陣から知恵を盗む機会を虎視眈々と狙い、単純な正解のない問いに対して未熟な自分と徹底的に向き合い、着飾ることなく塾生たちとぶつかり合う濃密な日々。これまで表面的かつ断片的にしか捉えられていなかった事象や知識に時間的な奥行きと空間的な広がりが生まれ、背景や意図への理解が深まっていきました。講義を重ねるうちに多様な知識の関連性に気づき、共通する原理原則とは何かと考えることが増えました。時代や社会の見え方、仕事への向き合い方、人としての在り方など、先入観や固定概念で凝り固まっていたものが、良い意味で裏切られ、脱色され、代謝していく時間は新鮮で清々しいものでした。
私が入塾した2022年は、ロシア軍によるウクライナ侵攻、それに端を発したグローバルサプライチェーンの混乱、資源や食糧価格の高騰など、新しい時代への突入を象徴するような1年だったと思います。私が入塾を志望した理由は、このような時代においても大量の情報のなかで右往左往することなく未来を切り拓くためには、表層的なスキルや知識ではなく、深い教養が必要と考えたためでした。悩みもがきながら教養を深め、本質的な人間力とは何かを見つめなおす場、それこそが、まさに西園寺塾でした。
折しも、2023年3月に、アミタホールディングス株式会社の代表取締役社長に就任することになり、西園寺塾修了のタイミングで私自身としても大きな節目を迎えることになりました。西園寺塾での学びは、これから私に求められる経営観の土台と輪郭を築くことを助けてくれました。そして、講師陣や塾生との対話の中でいただいた多くの言葉たちは、今も私に思考を深める問いを投げかけ、前に進み続ける勇気を与え続けてくれています。少し大袈裟な言い方かもしれませんが、深い洞察のなかで、これまで築いてきた人生観、仕事観を見つめ直し、再構築する機会と進むべき方向性を得ることができたと思います。

特に印象に残っている講義・フィールドワーク・出来事はどのようなことでしょうか。また、その理由についてお教えください。

様々な場面が記憶に残っていますが、私自身の気づきと合わせていくつか記載させていただきます。

  1. 知識から学問・教養へ(奈良&京都フィールドワーク)
    フィールドワークの存在は非常に大きなものでした。屋内での講義や書物からの学びとは異なり、現場に出向き、西園寺塾に参加しなければ行けない場所、見ることができないもの、聞くことができない話に数多く出会いました。神社仏閣を周り、茶道・華道・能楽に触れるなかで、飛鳥・奈良時代から続く歴史の流れに五感で触れ、その奥深さや意味を知り、これまでに味わったことのない想像力が引き出されました。また、フィールドワーク中は、本郷真紹教授につきっきりでご解説いただきました。豪快で雄大な先生のお話を通じて、これまで単なる知識としてしか捉えられていなかった歴史が、どれほど自由で発想豊かな学問であるかということを知りました。私たちは初日の開講式の後、そのまま奈良のフィールドワークへ向かいましたが、知識が頭から心や腹に移っていくような感覚を覚えた印象的な1日目となり、これから9カ月の間でどんな学びに出会うのだろうと胸が躍りました。
  2. 自分が信じてきたことを疑う勇気
    講義は、自分が培ってきたものとの葛藤と対話だと思います。金丸泰輔氏の講義では、「交遊抄」を書くという経験を通して、自分の社会人生活を客観的に振り返る良い機会となりました。社会人になってから、誰に出会い、何を感じてきたのか。いつの間にか交友関係も狭くなり、遊び心を失っていないか。説明や言い訳ばかりが上手になり、相手の心を掴むような言葉を発せられなくなっているのではないか。自分の人生の一部を言葉にするなかで、感情や言葉を生み出し構築する時間は苦しかったですが、記憶に残る有意義な時間でした。また、山口周氏の講義では、経験・論理・事例・予測に基づく意思決定が通用しなくなっていること、そして世の中で当たり前に起きていることに違和感や疑問を持っているかが問われました。課題の解決策ばかりを考えがちですが、そもそも意味のある課題を設定できるかどうかが重要であり、これが経営者の重要な仕事であることを学びました。
  3. 他人の頭を使って考えること
    中島隆博教授の講義では、たった一人で黙々と考えるのではなく、他者の思考力や想像力を自分のなかに取り入れることの重要性を学びました。そもそも他者の影響を日々受けながら自分自身が形成されている(自分のなかの他者の存在)という当たり前の事実に無自覚になってはいけないということだと思います。また、悪は凡庸であり、思考を停めてしまうと、その暴力性が増幅してしまう。考え続けるということは決して楽なことではないが、一緒に考えてくれる他者や環境があれば、きっと歩みは止まらない。そして、一生をかけて共に悩み考え続けてくれる仲間に西園寺塾で出会うことができました。

今後の夢や目標を教えてください。

西園寺塾で、学ぶことの意味や喜び、そして思考し続けることの意義深さを知りました。この経験を指針として、「無知は罪なり、知は空虚なり、英知持つもの英雄なり」という哲学者ソクラテスの言葉を胸に刻み込み、高まり続ける社会不安を乗り越えて、未来への夢や希望を形にする事業づくりに挑み続けたいと思います。また、中島隆博氏との対話の中でいただいた「知識は未来に引き継ぐことで知恵や英知になる」という言葉を忘れず、仲間と共に考え続けることを体現していきたいと思います。

未来の西園寺塾 塾生にメッセージをお願いします。

西園寺塾は、知識やスキルを獲得することではなく、自分の考え方を根本的に見つめなおし、心を育てるプログラムだと思います。目まぐるしく移り変わり、通り過ぎていく日々のなかで、時間を捻出し思考することは容易なことではありませんが、生きる根幹を問い直して再構築する、本当に貴重な機会をつくってくれます。そして、塾生と過ごす濃密な時間は、あなたの人生を彩る新しい物語を生んでくれると思います。様々な情景が色あせることなく心に浮かび上がる、一生忘れ得ぬ9カ月となります。勇気を持って一歩を踏み出し、同じような景色を見て時間を生きたあなたと出会い、語り合える日を心から楽しみにしています。