確率論とその応用、応用の中では特に数理ファイナンスと呼ばれる分野の研究に取組む。数理ファイナンスの研究対象は現在では非常に多岐にわたっており、自身も他分野の数学を積極的に取り入れるという方向で研究を進めている。
私は確率論とその応用、応用の中では特に数理ファイナンスと呼ばれる分野を専門的に研究しています。数学としての確率論では、時間とともに変化するランダム現象を主に取扱います。それは確率過程と呼ばれるものです。確率過程は大抵の場合ジグザグに動き、微分なんか出来そうにないものなのですが、20世紀に数学は劇的に進歩して、確率過程の微積分ができるようになりました。この理論は通常確率解析学とか、その創始者の名前(伊藤清先生)をとって伊藤解析と呼ばれています。これが私の本来の専攻分野です。
その確率過程の微積分学は様々な分野に応用されていますが、その中でも金融市場の解析への応用が大成功を収めており、今日「数理ファイナンス」という独立した分野のようになっています。この分野が数学者に注目されるようになったのは90年代の初め頃なのですが私自身もそのころからの長い付き合いになります。数理ファイナンスの研究対象は現在では非常に多岐にわたるのですが、私はその中でも特にエキゾチックオプションと呼ばれる複雑な契約の数理的解析、それから「金利の期間構造」の研究に興味をもってきました。エキゾチックオプションの中には、確率過程の隠れた対称性を利用するものがあり、その解析には非常に高度な数学が必要とされます。
また、長期金利、短期金利など、金利には多くの種類がありその背後には高度な数学が隠れています。この場合の「高度な数学」には確率過程の通常の理論以外の、他分野の数学、例えば偏微分方程式論、作用素環論、微分幾何学、表現論などが登場することもあります。その広がりは、元の確率解析学の新しい進歩の方向にも大きな影響を与えており、私自身もそういう方向、つまり他分野の数学をどんどん取り入れるという方向で研究を進めています。またこの爆発な進歩のおかげで、確率解析の新しい応用ができてきています。経済学の他分野への応用のほか、ロボット工学をはじめとする制御工学、遺伝子解析や癌の研究などがあるのですが、そのそれぞれに私自身も少しずつ関わっています。
さきにのべたように、私の研究は非常に多岐にわたっています。それができるのは、私の研究室に蓬原さんのような優秀な大学院生がたくさんいるからです。研究で一番大事な、時間をかけて周辺の研究と比較検討しながら時にそれを取り入れ常に最前線にいるという作業はいつも共同研究をする大学院生にやってもらっています。現時点で私は10以上の研究プロジェクトを同時に走らせていますが、その共同研究の相手は基本的に元院生か現院生です。数学の研究はひとつのテーマをひとりで深く掘り下げていくもの、という伝統的なスタイルとは全く正反対のスタイルかもしれません。しかし今世界中に同じようなスタイルで研究をしている数学者が数多くいます。立命の数理科でもコハツ先生を始めそういう先生方が増えています。これが21世紀の新しい数学者のスタイルなのかもしれません。
数学系の学科を受けることは決めているけど、どの大学にするか決めていないという迷い方をしている人もいると思います。特に関西では選択肢が増えましたから…。立命館の数理科学科のよいところはまず「伝統があること」です。歴史の古さもそうですが、実際に縦のつながりが強いというところはほかの大学にないものです。また、ここ10年間では金融機関に就職している先輩が大変多く(おそらく数学系学科としては日本一)、これは君たち受験生が大学を卒業して社会に出ていく頃に同じ道を目指すことになった場合にとても重要なことになるでしょう。
蓬原さんの研究テーマは、元々金利の期間構造の研究から派生したものです。金利のモデルとして様々なものが提案されている中で「アフィン型」と呼ばれるものが現実とよく合うということがわかってきています。その理由はいろいろあるのですが、私たちはそれをソリトン性に求めました。「KdV方程式のソリトン解の確率論的表現」というテーマは確率解析の中でも非常に注目されている研究分野なのですが、アフィン型金利モデルで出てくる期待値の計算が、ちょうどそれになっているのです。その研究をするためにソリトン理論とその周辺の数学を蓬原さんたちと勉強しているうちに、次第にテーマが拡散し、確率解析と表現論、そして整数論との間の関係それ自身をも研究するようになりました。その最初の成果が「KP方程式のソリトン解の確率論的表現」ですが、その背後には通常の確率解析を素粒子理論的な立場から「超対称」なものに拡張するという現在進行中のプロジェクトがあります。その目標の一つはソリトン解の確率論的表現の枠組みを拡張してリーマンのゼータ関数の確率論的表現を与えることにあります。
数理科学科を受験しようかどうか迷っている、その迷っている理由はいろいろあると思いますが、迷っているということは少なくとも数学が好きだということですよね。まず、数学を専門にすることに関してそれが将来の自分の人生に役に立つかどうかの不安を持っている人がいると思います。研究者や教員以外に数学の知識を活かす道がないというのは不安だということですよね。そういう人には「金融の数学」をおすすめします。金融の最前線では、「研究の内容」のところで書いたように、より高度な数学の力が必要とされています。またそれ以外にも今は新しい時代で「新しい数学」がどんどん出てきていますので数学を活かす機会はどんどん増えてくるはずです。私自身は現時点でも自然科学・社会科学の多くの分野でより高度な数学の知識が必要とされていると思っています。
数学系の学科を受けることは決めているけど、どの大学にするか決めていないという迷い方をしている人もいると思います。特に関西では選択肢が増えましたから…。立命館の数理科学科のよいところはまず「伝統があること」です。歴史の古さもそうですが、実際に縦のつながりが強いというところはほかの大学にないものです。また、ここ10年間では金融機関に就職している先輩が大変多く(おそらく数学系学科としては日本一)、これは君たち受験生が大学を卒業して社会に出ていく頃に同じ道を目指すことになった場合にとても重要なことになるでしょう。
立命館の数理科学科はつい最近まで情報数理コースという名前で経済学と数理ファイナンスを学ぶ特別のコースを開設していました。それで、経済系の学部か数学系の学科かを迷って、両方を学べる立命館を選んだという先輩が結構います。今は、コース分けをすることなく、すべての学生が数理ファイナンスを中心とした履修をすることができるようになっていますので同じ迷い方をしている人はぜひ立命館を選んでください。他大学の数理系学科で同様のカリキュラムを持っているところは依然として少ないです。
もうひとつの立命館のよいところは、面倒見がよいということです。大学の数学というものは高校までの数学とはかなり違うのですが、新入生の多くはそれに戸惑います。残念ながらそれで数学を嫌いになってしまう学生も多くいるのですが、立命館ではついていけなくなった学生をフォローしたり、やる気がある学生をより伸ばしたりするようなシステムがいろいろと整備されています。学生と教員の距離も近く、アットホームな雰囲気があります。気軽に数学の話をしあえるということはとても大事なことです。そういう付き合いをしている中で、一流の研究者になっていく人もいます。蓬原さんもそうですが、私が共同研究をしている元・現院生の多くとは、学部1回生のころからの付き合いです。
「大学で勉強・研究する数学」は高校までの数学とはかなり違うのですがもっともっと面白いものです。ぜひ私たちと数学を研究してみませんか?
二つあります。研究分野の幅の広さが第一の理由です。私は、確率論の他にも興味のある分野(整数論)があり、 最初の研究室配属の希望を提出する際にとても悩みました。そこで、不躾ではありましたが、私は赤堀先生に「赤堀研究室(確率論)か、整数論系の研究室か迷っている」と相談してみました。すると、赤堀先生から「両分野をすればいいのでは?」と、お言葉をいただき、私の悩みは解消され、今では赤堀先生のもとで、多分野に渡る研究をすることができています。
また、赤堀先生は、とても面倒見の良い先生であるということが第二の理由です。赤堀先生もおっしゃっているように、立命館大学の数理科学科では、多方面からのバックアップシステムがあります。特に、指導の細やかさは赤堀研究室のみならず、数理科学科全体の特徴だと思います。
理工学研究科 総合理工学専攻
博士課程後期課程 3回生
私は確率論を専門的に研究しています。確率と聞くと、例えばコインを投げた時に、表と裏の出る確率が1/2となる、というようなことを思い出すでしょう。確率論は、この偶然に起きる現象を数学的に厳密に説明し、数学的な応用を考える数学の分野の中の一つです。
その中で私は確率論にそのほかの分野の手法も織り交ぜて、赤堀先生たちとともに、確率面積(これはWiener2次汎関数)とKP(Kadomtsev-Petviashvili)方程式のソリトン解との関係性を決定しました。タウ関数を解析すれば、テータ関数(これをMellin変換するとゼータ関数が得られる)について理解ができると考えていますが、これまでは代数的なアプローチを主に使っていましたがそれでは十分な結果が得られていません。現在は、もっと深い結果を得るために代数幾何学についての基本的な勉強をしています。
ありきたりな答えになると思いますが、わからなかったことがわかった時、とても楽しいと感じます。今日までに身につけていなかった知識を身につけるために勉強し始める時には、とても戸惑います。また、初めて触れる数学を研究に応用できるようになるまでには、たくさんの時間を費やします。むしろ理解すること自体にたくさんの時間を使いますが、時間をかけて必要な知識を得ることができたとき、それまでのモヤモヤした気持ちが解消され、爽快な気分を味わうことができます。
さらに、赤堀先生との日々の研究から新しい結果(今までに知られていなかった事実)をきちんと得られたとき、それまでの時間の1秒1秒が無駄ではなく、大切な時間だったと思うことができるとともに、今日まで知られていなかったことを“つくる”楽しさも感じます。そしてまた新たな気持ちで、今まで以上に進歩した新しいことに取り組んでいくことができます。
佐藤グラスマン多様体がWiener空間上で実現されると、期待値をとる前の「ランダムなゼータ関数」というものが定義され、その「ランダムな零点」の期待値を計算することで本来のゼータ関数の零点の評価が可能になります。もしリーマンのゼータ関数に対してこの手法が適用できて、零点の分布が完全にわかれば、これはまだ示されていないことの解決にとって大きな前進となるでしょう。
将来は、①Wiener2次汎関数のなす空間の中に佐藤グラスマン多様体を実現し、②Wiener2次汎関数のあるクラスに属する確率変数をランダムなテータ関数と思い、③その確率変数の分布を解析する、ということができれば、と思っています。