日本の世代別の家庭系食品ロス構造とその温室効果ガス排出構造を解明
立命館大学理工学部環境都市工学科の重富陽介准教授、長崎大学環境科学部4回生(当時)の石神あすか、東京大学大学院工学系研究科のYin Long准教授、九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所のAndrew Chapman准教授の研究チームは、これまでの各種国内統計と環境システム分析手法により、日本の家庭から発生する食品ロス(食べられるのに捨てられている食品廃棄物)と、それによって発生するCO2などの温室効果ガス排出量について解析しました。その結果、どの世代の、どんな食生活によって、潜在的にどれぐらいの食品ロスと温室効果ガスが発生しているのかを、世界で初めて明示することに成功しました。本研究成果は、2024年10月21日(月)18時(日本時間)に国際ジャーナルの「Nature Communications」(2023年度インパクトファクター14.7)に掲載されました。
【本件のポイント】
- 世帯主年齢階級(以降、世代)別の世帯ごとの家庭系食品ロスとそのサプライチェーンで発生する温室効果ガスの排出構造を、各種統計に基づいて世界で初めて明示した
- 上の世代の世帯ほど一人あたり食品ロス量が増加傾向にあり、最も若い29歳以下と最も高齢な70歳以上の世帯を比べると、約2.8倍の差があった
- このままの食生活とロスの割合が続くと、今後の少子高齢化による人口減少が起きても家庭系食品ロスは微減に留まるため、年代ごとの食生活の違いに着目した、より踏み込んだ対策が重要である
研究の背景
国連によると、世界中で生産された食料の約1/3は消費されずに廃棄されていると報告されています。また、廃棄された食品がそれまでの過程で発生させた温室効果ガス排出量(CO2やメタンガス等の地球を温暖化させる物質)は世界全体で日本の年間同ガス排出量をはるかに上回ると見積もられており、食べ物の無駄をなくすことは、地球温暖化対策にも貢献すると考えられています。
日本では、まだ食べられるのに捨てられている食品廃棄物は「食品ロス」と呼ばれています。食品ロスは食品の生産時や輸送時、販売時など、様々な場所と段階で発生しますが、家庭からの発生量は全体の50%近くを占めています。しかしながら、このような家庭系食品ロスの傾向は、日本も含む先進国で多く見られるものの、その詳細な構造や発生要因は世界でもほとんど明らかになっていませんでした。
そこで本研究では、これまでに行ってきた著者らの先行研究とライフサイクル分析(LCA)をもとに、日本の家庭を対象とした食品ロスとその食品の原料から卸売までの過程で発生した温室効果ガスの構造を、世帯主の属性別の世帯による食生活の差異に着目して解析する手法を新たに開発しました。
本研究の内容
環境省や農林水産省、総務省、文部科学省、国立社会保障・人口問題研究所が公表する人々の食生活、食品ロス、人口動態に係る各種統計、および産業総合研究所と国立環境研究所が公表するライフサイクル環境負荷データベースにおいて、共通して取得しうる最新値を用いた結果、2015年の家庭系食品ロスとそれに係る温室効果ガスの構造は、図1のように推計されました。家庭系食品ロスとなった主な発生源は、キャベツを中心とする野菜やバナナなどの果物で、これらが全体の半数近くを占めました。関連する温室効果ガスの主な発生源は、野菜類に続いて調理食品、魚介類、肉類が入り、詳細を見ると惣菜類や牛肉、食パン以外のパンが目立ちました。
続いて世代(29歳以下:20s、30歳代:30s、40歳代:40s、50歳代:50s、60歳代:60s、70歳以上:70s)別の平均一人あたり家庭系食品ロス発生量を解析すると、上の世代ほど多くなる傾向が見られました(図2)。最も食品ロス発生量の高い70歳以上と低い29歳以下は、それぞれ16.6kg/人と46.0kg/人と見積もられ、3倍弱の差となりました。これは、高齢世帯のほうが比較的外食の頻度が少ないことだけでなく、傷みやすかったり過剰除去になりがちだったりして食品ロスとなりやすい食品群を購入していることが原因として考えられます。発生要因について調べると、高齢世帯は過剰除去によるロスが多く、若年世帯は食べ残しのロスが多い特徴がみられました。平均一人あたり温室効果ガスについても食品ロスと同様の傾向がみられましたが、最大の排出世帯は60歳代となりました(約90kg-CO2e*/人)。さらに、これらの傾向と人口・世帯数の将来推計の統計から家庭系食品ロスと温室効果ガスを推測すると、少子高齢化を反映して同食品ロスは2020年以降2040年まで減少する傾向が見られたものの、総人口の減少率ほどではありませんでした。これは現時点で家庭からの食品ロスが多い高齢世帯が今後さらに増加していくことに起因し、政府が掲げる2030年までの削減目標値に達するためには、さらなるロス対策の必要性が示唆されました。
以上のことから、家庭系食品ロスを効果的に減らすためには、世代ごとの食生活の違いに注目した対策を検討することが重要であることが明らかとなりました。特に、この先も進行する少子高齢化は、人口減少による家庭系食品ロスの減少を鈍化させる可能性があります。これまでのように食べ物の大切さを伝える食育だけでなく、食品ロスを避けるための可食部や調理の工夫の知識や実践の情報提供、食品ロスの出にくい高齢世帯のニーズに合った調理食品の開発なども、あわせて推進されていくことがSDGsの一環としても強く望まれます。
研究助成
本研究は文部科学省科研費21H03673・24K03149、および人間文化研究機構総合地球環境学研究所「人・社会・自然をつないでめぐる窒素の持続可能な利用に向けて」プロジェクト(Sustai-N-ableプロジェクト No.14210156)をもとに実施しました。
論文情報
- 論文名: Curbing household food waste and associated climate change impacts in an ageing society
- 著者: Yosuke Shigetomi(立命館大学, 総合地球環境学研究所), Asuka Ishigami(長崎大学), Yin Long(東京大学大学院工学研究科), Andrew Chapman(九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所)
- 発表雑誌: Nature Communications
- 掲載日: 2024年10月21日(月)18:00(日本時間)
- DOI: 10.1038/s41467-024-51553-w