立命館大学文学部の矢野健一特別任用教授と、同総合科学技術研究機構の熊谷道夫上席研究員は、2025年8月10日から12日にかけて、遠隔操作型無人潜水機(以下、「ROV」)を用いた「葛籠尾崎 (つづらおざき)湖底遺跡」(滋賀県長浜市)の湖底調査を行い、水深約65m地点に集積している土器6点の近接画像撮影に成功しました。

本件のポイント

・琵琶湖底の水深約65m地点「葛籠尾崎湖底遺跡」に集積する、土器6点の近接画像の撮影に成功

・同遺跡で初めて、1地点に多数集積する同時落下とみて良い、同時代の同形同大の土器を確認

・同遺跡の成因として、集積状況から船の積荷がそのまま水没した可能性が高い

「葛籠尾崎湖底遺跡」の土器4点集積状況画像
「葛籠尾崎湖底遺跡」の土器4点集積状況画像 (水深65.3m北緯35°26.346″東経136°9.0065″)
ROVで撮影(いであ株式会社所有機)

研究成果の概要

 調査地点は、2018年7月に熊谷教授(当時)が自律型潜水機(以下、「AUV」)で上方から撮影した湖底画像約2万点をもとに、土器と推定される物体が確認できた地点から選びました。東京大学生産技術研究所の杉松治美特任研究員のご協力により、同研究所のGAPS(音響測位装置)を使用して、土器と推定される物体が水没している地点にROVを到達させて探索した結果、「葛籠尾崎湖底遺跡」で初めて、同時代の同形同大の土器が 1 箇所に多数集積している状態を確認・撮影しました。矢野教授らは、船の積荷がそのまま水没した可能性が高いとみています。

土器発見地点の地形図
土器発見地点の地形図

研究の背景

 「葛籠尾崎湖底遺跡」は、昭和初期から土器が多数水没していることで知られていましたが、成因は、特定されていませんでした。水没の原因としては、次の 5 つの仮説が考えられおり、定まっていませんでした。(1)水位上昇による湖辺集落の水没、(2)祭祀や葬送のための土器の意図的水没、(3)葛籠尾崎に一時的に滞在した際の土器の湖岸への廃棄、(4)1185 年文治地震による遺跡水没、(5)船の転覆による積荷の落下。
 2015 年にも、立命館グローバル・イノベーション研究機構の川村貞夫特別招聘研究教授との調査で、2 枚重なるように水没している土師器皿の画像を取得しています。その際は、調査が、比較的、岸辺に近い水深 28.9m の浅い場所であったことから、湖岸で使用後に、重ねて廃棄された土師器皿が食べ物残滓により固着して2枚同時に水没した可能性を否定できなかった経緯がありました。

研究の内容

 今回の近接画像は、埋没要因として、同時落下とみて良い同形同大の土器が1地点に集積するような状況が新たに確認され、積荷としてまとめられていた土器が同時に落下したことを強く示唆しています。
 他地点で確認されている土師器甕の中には、今回の発見と同時期、あるいは近い時期の土師器甕もあり、これらは同様に、事故による落下の可能性が高いと考えられます。

社会的な意義

 湖底調査により未解明の歴史が明らかになることを、多くの人が知る契機となり、琵琶湖のみならず、他の湖沼の考古学的調査の重要性が、改めて見直されると考えます。日本の湖や、日本列島周囲の海底には、未だ多くの歴史資料が埋没しており、今後、水中考古学調査がさらに進めば、新たな日本の歴史が明らかになることを証明する研究として、海洋国家日本における、水中考古学の重要性および意義を、広く周知できます。

研究者のコメント

 立命館大学 文学部 矢野健一 特別任用教授
 今回の土器集積発見により、湖底の水没状況の確認が、葛籠尾崎湖底遺跡成因解明に役立つことが明らかになりました。調査では、須恵器・土師器等の椀・皿・長頸壺を含めて合計 8 地点で確認しています。ROVをはじめとする水中ロボットを利用した今後の湖底遺跡調査に期待したいと思います。

関連情報

▼立命館学術成果リポジトリ 矢野・川村・島田・熊谷2019「水中ロボットを利用した葛籠尾崎湖底遺跡調査の成果とその意義」環太平洋文明研究3,77-90頁
https://ritsumei.repo.nii.ac.jp/records/15516

▼2017年12月26日配信リリース「水中ロボット調査によって琵琶湖の湖底から古代の土器を発見」
https://www.ritsumei.ac.jp/news/detail/?id=948

研究助成

 日本学術振興会の科学研究費(基盤研究B)「AUVとROVを併用した水中遺跡ロボット調査法の確立と葛籠尾崎湖底遺跡成因の解明」(研究代表者 矢野健一)の支援により実施しました。

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