棒の見かけの長さが違うと、感じる重さも変化する? 拡張現実感(AR)技術と隠消現実感(DR)技術で「重さの錯覚」の実証とモデル化に成功
立命館大学グローバル・イノベーション研究機構(R-GIRO)の橋口哲志准教授と、シュトゥットガルト大学 Visualization Research Center (VISUS) の森尚平 (Junior Research Group Leader) らの研究グループは、拡張現実感(Augmented Reality(AR)) ※1および隠消現実感(Diminished Reality(DR)) ※2の技術を用いた物体の見かけの長さを操作し、視覚と触覚の統合が重さを知覚する感覚(重さ知覚)に与える影響を明らかにしました。また、物体の重さの知覚が物体の質量だけでなく、見た目から推定される慣性にも左右されることを定量的に示すことに成功しました。これらの成果は、人間の重さ知覚の機序の理解を深めるとともに、触覚提示デバイスやインタラクティブ体験の設計をより表現力豊かにすることが期待されます。本研究成果は、2025年9月4日に国際学術誌「IEEE Transactions on Visualization and Computer Graphics (TVCG)」に掲載されました。
本件のポイント
- 拡張現実感 (AR) 技術によって棒の長さを視覚的に延長した場合と隠消現実感 (DR) 技術によって短縮した場合で、実際に同一の棒を把持していても感じられる重さが異なることを明らかにした。
- ARとDRを総称するMediated Realityの枠組みから、視覚的に改変した棒をMediated Reality Stickと名付け、知覚される重さの変化が、知覚された重心位置とそこから算出される慣性によって説明できる可能性を示した。
研究の内容
これまでの研究でも、人工現実感 (Virtual Reality(VR)) やARにより実物体の視覚情報を改変すると、その物体の柔らかさ、温度、移動時の抵抗感などが変わって感じられることが示されてきました。しかし、DRによってどのような変化が生じるかは十分に検討されておらず、特にARとDRを同一の枠組みで比較・検証した研究は存在しませんでした。
本研究では、AR・DRの環境で、単一の基準物(棒)を用いた際の重さの知覚に着目しました。ARとDRによる視覚的な改変が重さに与える影響はそれぞれ全く異なったものなのか、それとも連続的に変化するのかを検証しました。参加者を募り、見かけの長さを長くする・短くする・中央部を隠消するなどの視覚的な変更を加えた条件と、長さを変更しない条件とを比較し、感じられる重さと知覚される重心位置を報告してもらいました。その結果、物理的な棒の長さは変化していないのにもかかわらず、見かけが長い棒はより軽く、短い棒はより重たく感じられ、そして中央部を欠いた棒では重さの変化は認められませんでした。さらに、知覚された重心位置と見かけの形状から計算される慣性に基づき、視覚的に変化させた棒の重さがどのように感じられるかを定量的に予測するモデルを構築しました。
社会的な意義
AR・DR技術による単なる視覚刺激の上書きが、人間の重さ知覚に影響を与えることが分かりました。この知見は追加のハードウェアに頼らず身体感覚を設計するための新たな手がかりとなり、エンターテインメントやトレーニングなどへの応用が期待されます。適用範囲の検証は今後の課題ですが、感じられる重さと疲労の関係が明らかになれば、認知的・感覚的な負荷を意図的に調整し、より高負荷な運動の支援や疲労感の低減に寄与するインタラクション設計につながります。
研究者のコメント
今回の研究でAR・DR両方を含めたクロスモーダルインタラクションに関する知見が広がったこと、大変嬉しく思います。過去にはDRに関する研究は特に少なく、本研究が後続研究の礎になることを願っています。
論文情報
- 論文名: Perceived Weight of Mediated Reality Sticks
- 著者:Satoshi Hashiguchi, Yuta Kataoka,Asako Kimura,Shohei Mori
- 発表雑誌:IEEE Transactions on Visualization and Computer Graphics (TVCG)
- 掲載日:2025年9月4日(木)(日本時間)
- DOI:10.1109/TVCG.2025.3591181
- URL: https://mediated-reality.github.io/projects/hashiguchi_tvcg25/
用語解説
- ※1 拡張現実感(AR)現実空間から五感(主に視覚や聴覚)に与えられる情報を、コンピュータ処理で追加する技術の総称
- ※2 隠消現実感(DR)現実空間から五感(主に視覚や聴覚)に与えられる情報を、コンピュータ処理で削除・削減する技術の総称
研究内容についてのお問い合わせ先
- 立命館大学 グローバル・イノベーション研究機構(R-GIRO) 准教授 橋口哲志
- Email:hasiguti@rm2c.ise.ritsumei.ac.jp



