発表のポイント

  • 約100億光年彼方にある遠方銀河の中心で、活動銀河核(AGN)の明るさが約20年間という短い期間に20分の1にまで急激に減少した非常に稀な現象を発見
  • 可視光から赤外線までの多波長・長期間データの解析により、減光の原因が超巨大ブラックホールへのガス流入(質量降着率)の急激な低下である可能性が高いことを示した
  • 超巨大ブラックホールの活動が数年という短時間スケールで大きく変化しうることを示唆し、従来理論の再検討を迫る成果

研究概要

 千葉工業大学天文学研究センターの諸隈 智貴主席研究員、富山大学大学院理工学研究科の川口 俊宏教授、国立天文台の越田 進太郎PFS NAOJ Manager、立命館大学理工学部の鳥羽 儀樹准教授らの研究グループは、赤方偏移1.8(約100億光年先)に存在する活動銀河核(*1)が、約20年間という短い期間に、可視光の明るさを約20分の1まで減少させた極めて珍しい現象を発見しました。スローン・デジタル・スカイ・サーベイ(SDSS)とすばる望遠鏡Hyper Suprime-Cam(HSC)による観測データの比較をきっかけに、多波長・長期間にわたる観測データを詳細に解析した結果、超巨大ブラックホールへのガス供給が急激に弱まったことが、この大きな減光の主因であると考えられます。

研究の背景

 多くの銀河の中心には、太陽の数億倍から数十億倍の質量をもつ超巨大ブラックホールが存在すると考えられています。その中でも、周囲から大量のガスを取り込んでいるブラックホールの周囲には、降着円盤と呼ばれる構造が形成されます。この降着円盤では、ガスが摩擦によって加熱され、数万度もの高温に達し、強い放射を放ちます。このように銀河中心が非常に明るく輝く天体は「活動銀河核(AGN)」と呼ばれ、X線から紫外線・可視光、さらには電波に至るまで、幅広い波長で観測されます(*2)。
 AGNの活動を通じて、超巨大ブラックホールの質量は時間とともに増大していきますが、現在の宇宙に見られる超巨大ブラックホールの質量や、AGNにおけるブラックホールへの典型的な質量降着率を考慮すると、AGNとして明るく輝く期間は、その銀河の一生の中でもごくわずかな時間に限られることがわかっています。言い換えれば、現在AGNとして観測されている天体も、過去にはAGNとして活動していなかった時期があり、また将来のある時点でAGNとしての活動を終えることになります。
 しかし、こうした活動状態は数十万年から数千万年と非常に長く続き、人間の一生や個々の観測プロジェクトの期間内で、超巨大ブラックホールの活動が劇的に変化する様子を直接捉えることは困難であると考えられてきました。

 一方、近年では、空の広い領域を観測する大規模撮像サーベイ観測が、可視光天文学における重要な潮流の一つとなっています。さらに、数十万天体にも及ぶAGNが同定され、超巨大ブラックホールの活動状態が大きく変化する現象を捉えられる可能性が、現実的なものとなってきました。例えば、10万個の活動銀河核を10年間にわたって観測し続けることは、1個の活動銀河核を100万年もの間にわたって観測することと大雑把に言って同等であり、活動銀河核としての活動期間と同程度になります。本研究ではこの点に着目し、過去の大規模サーベイデータと最新の観測データを比較することで、比較的短い時間スケールで活動状態が大きく変化するAGNの存在に迫ることを目的としています。
 通常、AGNの明るさの変化は数十パーセント程度にとどまりますが、活動状態が劇的に変化する場合には、数倍から数十倍にも及ぶ大きな明るさの変動が起こると期待されます。本研究では、こうした大きな明るさの変動を示すAGNを探索し、それらを詳細に調べることで、活動性が急激に変化しつつある天体を同定しようとするものです。

研究の内容

 千葉工業大学・天文学研究センターの諸隈智貴主席研究員を中心とするポツダム大学(ドイツ)・富山大学・カナリア天体物理学研究所(スペイン)・国立天文台・立命館大学などの研究者からなる研究チームは、約100億光年(赤方偏移z≈1.8)先の銀河中心で、活動銀河核の可視光輝度が約20年の間に約1/20に低下したことを、2000年代初頭のSDSS観測と最近のすばる望遠鏡HSC観測の比較から明らかにしました。この減光は、観測装置の違い等では説明できず、天体そのものの変化によるものです。この種の活動銀河核の明るさの変動の典型的な値と比較すると、この20分の1という変化は非常に大きく、何か特別な現象を捉えたと考えられます。

図1 図1:本天体(黄色矢印)のSDSS画像(左;2002年頃取得)とすばる望遠鏡HSC画像(右;2018年頃取得)。いずれも可視光のデータを用いた3色合成画像。HSC画像の方が高感度なため、多くの暗い天体が検出されている。それら周りの天体と比較すると、本天体が大きな減光を示していることがわかる。

 研究チームはこの異常な減光に着目し、スペイン・カナリア諸島にあるGTC望遠鏡(Gran Telescopio de Canarias;口径10m)による追観測を皮切りに、すばる望遠鏡(口径8.2m)やケック望遠鏡(口径10m)による可視光・近赤外線観測や電波望遠鏡での観測を新たに実施しました。さらに、X線・赤外線の過去の観測アーカイブデータや、約70年前に撮影された天体写真乾板データなども含め、異なる波長帯・異なる時代にまたがる多波長・長期間データを総合的に解析しました。
 その結果、可視光および赤外線の明るさの変化は、超巨大ブラックホールの周囲に存在する降着円盤からの放射が著しく弱まったことに起因することがわかりました。降着円盤における質量降着率、すなわち超巨大ブラックホールに流れ込むガスの量が、この天体の存在する時代における時間にして約7年間(*3)のうちに約50分の1にまで急激に低下したと推定されたのです(*4)。降着円盤の手前にある、塵を多く含んだ雲が視線上を通過し、降着円盤からの光を遮った可能性も検討しましたが、可視光から赤外線までの広い波長域における減光の特徴を同時に説明することはできず、この仮説は不適当であることがわかりました。以上の結果から、超巨大ブラックホール周囲の物理状態そのものが急激に変化し、ガス供給が大幅に弱まった可能性が高いと結論づけられました。

図2 図2:明るい時期(左)と暗くなった時期(右)との天体の想像図の比較。上が銀河全体、下が中心部の超巨大ブラックホールまわりの拡大図。明るい時期は超巨大ブラックホール(中心部の黒い領域)周りの降着円盤(青白い部分)やその周辺のダスト等で構成されるトーラス状の構造が明るく輝いているのに対して、超巨大ブラックホールへのガス流入が少なくなると、全体が暗くなる。

 本成果は、2025年11月4日に日本天文学会の国際学術雑誌『Publications of the Astronomical Society of Japan(PASJ)』に掲載されました。また、図1を含む複数の図がPASJ誌2025年12月号の表紙にも使用されました。

将来の展望

 今回の発見は、超巨大ブラックホールの活動が数年という比較的短い時間スケールで劇的に変化しうることを示しており、従来のブラックホール成長モデルやAGN進化理論に重要な制約を与えるものです。従来、活動銀河核における超巨大ブラックホールへの質量降着は数万年以上の長い時間をかけてゆっくり変わると考えられてきましたが、その常識を覆す結果です。研究を主導した千葉工業大学・天文学研究センター・諸隈主席研究員は次のように述べています。

「これほど短期間の間に大きく明るさが変化する活動銀河核が存在し、その減光の原因が超巨大ブラックホールへの質量降着の大きな変化であることがわかったのは非常に興味深いことです。今後、すばる望遠鏡HSCのような広視野観測装置のデータを用いて、同様の天体をさらに見つけ、超巨大ブラックホールの活動がどのように止まったり再開したりするのかを明らかにしていきたいと考えています」

また、共著者で、主に理論的な解釈部分を担当した富山大学・川口俊宏教授は次のように述べています。「従来の標準的な理論では説明できない速い変化を示している天体であり、新しいモデルを構築する際の試金石になります。どういう状況設定であれば、この天体の観測データを理論的に説明できるのか、調べていきます」

 広い領域を一度に観測できる「サーベイ観測」は、近年の天文学の重要な潮流です。今回の成果は、異なる時代・波長のデータを組み合わせることで、長期間にわたる銀河中心の活動変化をとらえられることを示しました。今後、すばる望遠鏡HSCに加えてLSSTサーベイやEuclid・Roman宇宙望遠鏡などの広視野・高感度のサーベイ観測データを用いることで、同様の「活動の休止状態にある銀河核」が数多く見つかれば、銀河とブラックホールの進化の関係を理解するうえで、重要な手がかりになると期待されます。これらの天体を統計的に調べることで、超巨大ブラックホールへのガス供給がどのような条件で止まり、また再開するのか、その物理的メカニズムの解明が進むと考えられます。さらに、本研究で示された急激な変化を説明できる新しい理論モデルの構築も今後の重要な課題です。

論文情報

  • 論文題目:A possible shutting-down event of mass accretion in an active galactic nucleus at z~1.8
  • 著者:Tomoki Morokuma,Malte Schramm,Toshihiro Kawaguchi,Josefa Becerra González,Jose Antonio Acosta-Pulido,Nieves Castro-Rodríguez,Kana Morokuma-Matsui,Shintaro Koshida,Junko Furusawa,Hisanori Furusawa,Tsuyoshi Terai,Fumi Yoshida,Kotaro Niinuma,Yoshiki Toba
  • 掲載誌:Publications of the Astronomical Society of Japan(PASJ)
  • URL:https://academic.oup.com/pasj/article/77/6/1350/8313806

本研究成果は、科学研究費補助金(課題番号:16H01088、17K05389、20H00179、21H00066、22H01266、23K22537、23K25913、24K00684、24H00027、25K07370)、公益財団法人山田科学振興財団、公益財団法人住友財団(課題番号:2200605)によるサポートを受けています。

*注

  • *1
    活動銀河核(AGN):銀河の中心で、超巨大ブラックホールが周囲のガスを取り込みながら強い光を放つ領域のこと。
  • *2
    活動銀河核は多波長で明るい:可視光、赤外線、X線など幅広い波長で放射しており、それぞれ異なる領域(降着円盤、塵、コロナなど)を反映している。
  • *3
    観測期間は約20年間ですが、この天体は赤方偏移1.8に存在するため、宇宙の膨張による時間の延びの効果を考慮すると、この天体においては20/(1+1.8)~7年間の時間の経過に相当します。
  • *4
    観測される明るさは、活動銀河核の明るさと銀河の明るさを合計したものになります。複数の観測時期における、可視光線から赤外線までの多波長のデータを解析することで、本研究ではこれら2つの明るさの分離に成功し、活動銀河核の明るさは50倍暗くなったことを導き出しました。

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