「立命館は、月へ、火星へ。」の大型ビジュアルに込められた“研究者のこだわり”
2026年4月より阪急大阪梅田駅構内に掲出されている、「立命館は、月へ、火星へ。」の大型ビジュアル。未来の宇宙探査・開発を担う高度専門人材の育成を目指す立命館大学大学院「宇宙地球フロンティア研究科」(仮称・2028年4月設置予定)のイメージを表現しています。
月面を舞台にした未来の探査拠点を描いた本ビジュアルには、同研究科に着任予定の研究者たちが、専門的な視点から加えた数々の“こだわり”が反映されています。
本記事では、制作過程におけるやりとりから、その一端を紹介します。
地球の“見え方”に宿るリアリティ
本ビジュアルの大きな特徴の一つが、月面から見た地球の描写です。原案では、全体的に白い雲で覆われた地球のグラフィックが使用されていました。
立命館大学 宇宙地球探査研究センター(以下、ESEC)センター長で、宇宙地球フロンティア研究科に着任予定の佐伯和人教授は、当初案の画像が北極(グリーンランド付近)を中央とする北半球を写した画像であると推測。将来的な月面開発が展開されるエリアからの地球の見え方として不自然であることを指摘しました。「待ち合わせなどで多くの人の目にとまる可能性が高い場所だからこそ、『この地球はどこが見えているのか』と考える人が必ず出てくる。宇宙ファンにとっても違和感のないリアルな見え方を追及しつつ、『なぜ』という疑問をもってもらいたい」。そこで、地球の見え方として違和感がなく、かつ多くの方にわかりやすくなるように日本列島の位置が認識できる角度に調整しました。
さらに、地球の昼と夜の境界(明暗境界)についても細かな調整が加えられています。原案では、明暗境界から推定される太陽の位置と、月面上の影の方向にわずかな不整合がありました。そのため、地球の角度を調整することで整合性を確保しました。「地球の明暗境界と月面の影の関係が矛盾してしまうと、天文学的に成立しない風景になってしまいます。そうした細かい点が、このビジュアル全体のリアリティを左右します。そして、地球の見え方にもこだわっています。この月面基地が月のどのあたりにあるかが、わかる人にはわかる。待ち合わせをしながら、考えてくれる人がいると嬉しいですね」と佐伯教授は笑みを浮かべました。
月面の光と影――“成立する風景”へ
月面に描かれたローバー(探査車)や設備の影についても、検証が重ねられました。原案では影がやや弱く、大気がほぼ無い月面特有の光環境の強さが十分に表現されていませんでした。また、将来的に月面開発が想定されるエリアでは、太陽はあまり高く上らず、地表には長い影が伸びると考えられています。そのため、影の長さやコントラストを調整し、より月面らしい印象となるよう修正を行いました。
この点について、ESEC副センター長で同じく宇宙地球フロンティア研究科に着任予定の小林泰三教授は「影の長さや強さは月面らしさを印象づける重要な要素です。強すぎても弱すぎても不自然になるため、バランスが大切です」と指摘。影の方向についても、地球側の明暗境界と矛盾が生じないよう、全体の整合性が確認されています。
ローバーに込めた工学的リアリティ
月面に配置されたローバーについては、工学的視点からの見直しが行われました。
原案では、車輪の向きを変えてローバーの進行方向を制御するステアリング機構について、その取り付け位置がタイヤの中心線からわずかにずれて見える状態でしたが、小林教授は「ローバー開発に携わる者にとっては、こうした細かな違いも気になるポイントになります」と述べ、より自然な配置へと修正されています。
さらに、車輪と車体をつなぐ構造についても、実際のローバーで用いられる構成を踏まえた表現に調整。加えて、非常に細かい月面の砂(レゴリス)にタイヤがわずかに沈み込んでいるように見える工夫も取り入れました。小林教授は「タイヤが少し沈んでいるだけでも、実際に月面を走行しているようなリアリティが生まれます」と、その効果を語ります。
今回のビジュアル制作では、印象的なデザインであることに加え、「宇宙・天文学として成立しているか」「工学的に見て違和感がないか」といった観点が重視されました。佐伯教授が指摘するように、「細かな違和感は、注意深く見た人ほど気づくもの」です。そうした“引っかかり”を丁寧に解消することが、結果としてビジュアル全体の説得力につながっています。
一見するとシンプルな月面の風景の中には、このような専門的な知見と議論が詰め込まれています。阪急大阪梅田駅をご利用の際には、ぜひ足を止め、宇宙地球フロンティア研究科(仮称・設置構想中)に着任予定研究者たちの「専門的知見にもとづくこだわり」にも注目しながらご覧ください。



