「<i>kando</i>の心理学」を世界に発信 欧米研究との比較から「感動とは何か」にアプローチ<br>ヤマハ発動機との共同研究「感動(KANDO)を科学する」の成果第一弾を発表

2022.11.21 NEWS

「kandoの心理学」を世界に発信 欧米研究との比較から「感動とは何か」にアプローチ
ヤマハ発動機との共同研究「感動(KANDO)を科学する」の成果第一弾を発表

スポーツ健康科学部の伊坂忠夫教授を代表とする研究チームは、2021 年にヤマハ発動機株式会社とともに開始した大型共同研究、「感動(KANDO)を科学する」の成果第一弾として、日本で行われてきた感動研究を概観し、欧米の類似概念と比較するレビュー論文を発表しました。本論文は、2022年10月17日に、科学雑誌「Frontiers in Psychology」のポジティブ心理学部門に掲載されました。

【本件のポイント】

  • 「感動」をあえて英訳せずkandoと表現し、日本国内で行われてきた感動研究を概観(レビュー)しました。国内外の読者に向けて、アジア的概念である感動について、心理学的研究をまとめました。
  • 従来欧米でなされてきた類似概念の多くは、人との結びつきに関するものが多くを占めていましたが、本研究では音楽聴取など、必ずしも強いストーリー性を持たない対象についての感動も紹介しました。
  • 今後の研究動向として、感動が生起するメカニズムと同時に、感動によって引き起こされる人の機能にも注目する必要があることを示しました。

立命館大学は、“感動の意味・感動の機能とは何か”をメインテーマとした大型共同研究、「感動(KANDO)を科学する」を2021年8月にヤマハ発動機株式会社とともに開始しました。以降、感動(KANDO)の解明・社会実装に向け、双方拠点を行き来しながら、感動の明確化・数値化・可視化・ブランド化についての研究を行っています。

欧米圏では、感動に対応するような概念として、being moved(心が動かされた)などの動詞の受動態で表されるものや、awe(たとえば、荘厳な景色から強大な力を感じるときの感情)など、より対象を絞ったものが調べられてきました。近年、人やモノなどの事柄に対して強い結びつきを感じたときに生じる社会的感情としてKama muta (カーマ・ムタ)という概念も提案されています。しかし、これらの概念が、われわれ日本語母語話者が「感動」と呼ぶ概念と一致するものなのかは曖昧にされたままでした。本論文では、「感動」が、欧米で使われている類似のことば以上に広い意味を包含している可能性を示しました。

研究成果の概要

生まれたばかりの子を胸に抱いたとき、スポーツ選手がゴールを決めたとき、美しい音楽を聴いたときなど、私たちはさまざまな場面で感動を経験します。この論文では、日本の研究者がこれまで実施してきた「感動」に関する文献をレビューし、欧米を中心に調べられてきた類似の概念と比較しました。これまでの研究によると、感動が生起するときには、その過程で「情動」と「身体反応」の変化が引き起こされることが示されています。また、共感性が高いなど、特定の個人特性を持っている人は、感動の程度が強い可能性も示されています。欧米の研究では、being moved(心が動かされる)が経験された後、寄付行動などの向社会的行動が生じることが示されていますが、これが純粋に感動体験によるものかどうかはさらなる科学的な研究が必要だと考えられます。今後の研究では、「感動」に関連する出来事や反応を幅広く収集し、「感動とは何か」という問いに対する答えを探究していく必要があります。
※本論文は共同研究における心理研究グループリーダーの正田悠助教(立命館大学スポーツ健康科学部)を中心に、一橋大学安田晶子講師および金沢大学上宮愛講師らにより執筆されました。

伊坂 忠夫教授のコメント

日常の中での何気ないやり取り、言葉かけ、風景において我々は感動を経験します。また、我々は音楽、スポーツでの飛び抜けたパフォーマンス、それぞれのレベルでの大きな挑戦、特別なライフイベントにおける感動体験により、人生に大きなエネルギー、活力が与えられることを経験しています。今後の研究で「感動」のメカニズムを詳細に解明し、ヤマハ発動機株式会社との共同研究の成果を発信するとともに、社会実装につなげ、ウエルビーイングの実現に向けて貢献して参ります。

正田 悠助教のコメント

東京オリンピックのスローガンが「感動で、私たちは一つに」であったことは記憶に新しいですが、この英訳が「United by Emotion」(直訳すると、「感情で一つになる」)であったことも話題になりました。わたしたちは「感動」に対する適切な英語訳を未だ持ち合わせていないことを象徴するニュースであったと思います。これを機会に、海外のみなさまに「kando」を知っていただく機会になればと思っています。

論文情報

  • 論文名:A Review of Psychological Research on Kando as an Inclusive Concept of Moving Experiences
  • 著者:Shoko Yasuda, Haruka Shoda, Ai Uemiya, Tadao Isaka
  • 発表雑誌:Frontiers in Psychology (Positive Psychology Section)
  • 掲載日:2022 年10 月17 日(月)
  • D O I:10.3389/fpsyg.2022.974220
  • U R L:https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpsyg.2022.974220/

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