STORY #3

災害から文化遺産を守りたい
震災で崩壊した仙台城石垣を調査

出石城の石垣を3次元で可視化
保存・復旧に寄与する

深川 良一

理工学部 教授

小林 泰三

理工学部 教授

災害から文化遺産を守りたい
震災で崩壊した仙台城石垣を調査

深川 良一 理工学部 教授

震災後の宮城県で地盤・
土木・建築の被害状況を調査

私たちの研究グループは2003年度にスタートした「21世紀COEプログラム」、2008年度からは「グローバルCOEプログラム」を通じて、20年近くにわたって文化遺産防災をテーマに調査・研究を続けてきました。2011年3月11日の東日本大震災後、土木・地盤工学の専門家として役に立ちたいとの想いから、いち早く現地調査に赴きました。

最初は4月30日~5月3日の4日間、立命館大学都市システム工学科の教員が中心となって宮城県仙台市、名取市、松島市、東松島市を訪れ、被災調査を実施し、各地で多くの被害を把握しました。中でも私たち地盤工学の研究チームが注目したのが、仙台市にある仙台城跡です。地震によって仙台城跡を囲む石垣が多数崩れているだけでなく、付近の道路が全面通行禁止になるなど、市民生活にも影響を及ぼしており、復旧対策が喫緊の課題になっていました。「住民の安全のためにも一刻も早く被害状況を把握したい」という地域の方々の意向を受け、私たちが仙台城跡の石垣周辺の詳細な地盤調査を実施することになりました。

仙台城は、1601年に伊達政宗によって築城されて以降、改築が重ねられてきたことに加え、火災や地震によって幾度か建物・石垣を失うたびに再建・拡張されてきました。石垣も多くは改築されたものですが、一部創建当時のまま残されている箇所も存在しています。

私たちは地盤工学会調査団の一員として6月9日~10日、8月4日~8日、さらに9月5日~7日と数回にわたって現地入りし、仙台城跡本丸北西部の市道仙台城跡線に沿う石垣の被害状況を調査しました。とりわけ詳細に調べたのが、四方の中で最も大きい「E面」と呼ばれる石垣です。高さは6~7m、延長は約60mにもなります。

E面の石垣は市道に面し、その向こうは谷になっています。石垣が崩れている箇所を観察すると、対面する道路にも亀裂や沈下が見られる上に、過去に何度も崩壊を繰り返した形跡がありました。一方で同じE面でも尾根地形の上に築かれた石垣には、一部石が前面にせり出すはらみが見られるものの、大きな崩壊や市道路面の亀裂・沈下は起きていませんでした。なぜそうした違いが生じたのか。崩壊した箇所と崩壊していない箇所の違いを明らかにしようと試みました。

仙台城跡本丸北西部の市道仙台城跡線に沿う石垣の崩壊状況(E面の石垣)
青葉城資料展示館主任学芸員・大沢氏撮影

仙台城跡の石垣崩壊の
原因を探る

まずE面の石垣の中で東日本大震災で崩壊した箇所と、崩壊が生じていないと判断される箇所を抽出。スウェーデン式サウンディング試験(SWS試験)という手法を使ってそれぞれの測線の地盤構造を調べました。

SWS試験は戸建住宅などの小規模構造物の地盤調査手法として広く普及しています。スクリュー状の抵抗体を地中に挿入し、貫入や回転、引き抜きなどの抵抗から土層の硬軟や締まり具合を測ります。本調査では、新型のスウェーデン式サウンディング試験機(NSWS試験)を採用。鉛直方向しか計測できない、硬い地盤には使えないといったSWS試験の弱点を克服し、鉛直方向だけでなく斜め方向にも計測用掘削ビットを貫入でき、また硬い層から軟らかい層への貫入抵抗の変化の計測も可能です。またNSWS試験に加えて3Dレーザスキャナによる3次元測量も実施し、石垣の被害状況を調べました。

崩壊部と非崩壊部の違いを
突き止める

NSWSを使って崩壊が見られた6地点で計測したところ、石垣背後の裏込め土部分では、表層に盛土と思われる比較的緩い地盤が続いており、そのさらに奥、深さ約4mのところに地山と思われる硬い層があることがわかりました。また石垣前面の市道脇の計測地点では、地表面から約5.5mの深さから貫入抵抗が増加し始め、ここに地山の境界があること、それが道路を挟んで対面の谷部に向けて徐々に深くなっていくことが推定されました。

一方崩壊していない箇所では4地点で計測を実施しました。計測の結果、全体的に地山と盛土の境界面が浅いことが分かりました。石垣下端から約6.5mの地点では、地表面から約3mの深さで地山と思われる固い地盤が確認されました。

総括すると、崩壊部は地山表層と思われる硬い地盤が非崩壊部よりも深い位置にあって基盤層の上に厚い盛土層があることがわかりました。その原因は、石垣の前面部が谷地形になっていることにあると考えられます。一方非崩壊部は石垣前面が尾根地形で、比較的浅い位置に硬い地盤があり、盛土層が薄いことが明らかになりました。軟らかい盛土が厚い箇所ほど石垣が大きく崩れていることから、石垣の対面側の地形に起因する盛土の厚さが崩壊に大きく影響したと結論付けました。

結果をこの区間を管理する宮城県護国神社に報告するとともに、地盤工学会論文報告集に投稿し論文として採択されました。今回の研究で得られた知見が、全国の文化的価値の高い石垣の防災対策に生かされればと願っています。

崩壊部の地下構造(参考図)

出石城の石垣を3次元で可視化
保存・復旧に寄与する

小林 泰三 理工学部 教授

兵庫県の出石城跡の石垣の
安全性を評価

私たちの研究グループでは、文化遺産防災の観点から特に城郭として築かれた石垣の保存や復旧を目的とした調査・研究に取り組んでいます。2019年からは兵庫県豊岡市の出石重要伝統的建造物群保存地区の防災計画策定プロジェクトに参画。その一環として地区内に現存する出石城石垣の防災対策に向けて調査・研究を行ってきました。中でも私たちの研究グループは、レーザスキャナを使って城郭石垣の3次元測量を実施。そこで得られた3次元データに基づいて築石の安全性と地震時の安定性評価を行いました。

出石城は1604(慶長9)年に小出吉秀によって築かれ、その下で城下町が栄えました。明治時代に大火で城は焼失したものの町並みは被災を免れています。2007年に重要伝統的建造物群保存地区に指定され、現在は観光地として人気を博しています。現在の城跡に天守はなく、創建当時の姿を残すのは辰鼓楼、掘、石垣のみ。2015年に崩落の危険性が高い石垣の一部が解体修理されましたが、それ以外にも、はらみ出しや築石背面の空洞化が進んでいる箇所が多く見られます。本プロジェクトでは、文化財保存・継承と観光客の安全確保の観点から、石垣の適切な保持・保存方法の確立を目指しています。

出石城の稲荷曲輪

3次元モデルで石垣の全貌を
可視化

レーザ搭載ドローンとモバイルレーザスキャナを使って石垣の現状地形を計測。この2つのレーザデータを合成し、石垣の3次元モデルを生成しました。経年による石垣の変状度合いを示す指標である「はらみ出し指数」を3次元的に評価し、築石の抜け落ちや崩壊の危険がある箇所を可視化することに成功しました。

加えて2次元断面モデル(力学モデル)を構築し、3次元データから抽出した任意の断面の耐震性を評価する手法を考案。任意の断面において地震が起こった時に崩れる危険性を力学的に評価しました。これらの結果が、崩壊に備えて注視すべき箇所や早期に修復が必要な個所を判断する一助となればと考えています。

地震や豪雨によって崩壊が危惧されている城郭石垣は全国にまだ多数存在しています。今回の調査・研究で編み出した評価手法を活用し、他の城郭石垣でも調査・解析を行っていくつもりです。

文化的価値の高い石垣の維持・管理をしていくには多くの財源・人材を必要とします。3次元測量を活用し、より安価に安全性を評価する方法を確立することで、こうした課題の解決に寄与したい。自治体や企業などと力を合わせ、貴重な文化遺産の保護に力を尽くしていきます。

レーザ搭載ドローンで取得した3次元地形データ
協力:㈱計測リサーチコンサルタント、㈱ジャパン・インフラ・ウェイマーク

ふたつの観点からの安定性評価

京都の世界遺産・清水寺境内の
斜面をモニタリング
土砂災害の危険性予測に役立てる

世界遺産「古都京都の文化財」の一つに登録されている清水寺において、観光客や参拝客の安全と貴重な文化財を守るため、2004年から斜面防災に取り組んできました。清水寺境内では、この50年の間に何度も土砂災害に見舞われてきました。降雨に伴う斜面崩壊を予測するため、雨量に加えて地盤内の水分量も含めてリアルタイムで測定できるモニタリングシステムを開発。土砂崩れの危険性が高いと判断した14地点に設置し、15年以上にわたって監視を続けています。観測データを解析し、土砂災害の危険度の高い箇所を評価。知見の提供を通じて、斜面安定対策に貢献しています。なお、現在この研究は、理工学部環境都市工学科・藤本将光准教授が主として担当しています。

2013年清水寺音羽の滝横の斜面崩壊に対する復旧工事

深川 良一[写真左]
Fukagawa Ryoichi
理工学部 教授
研究テーマ:地盤と機械系との相互作用、斜面変状検知のためのセンサ開発、斜面安定性評価のためのモニタリングシステム開発、斜面崩壊メカニズムの解明、斜面災害対策工のための数値シミュレーション手法の開発
専門分野:地盤工学

storage研究者データベース

小林 泰三[写真右]
Kobayashi Taizo
理工学部 教授
研究テーマ:ICTを活用した建設施工・維持管理技術、住民の暮らしを守るための斜面防災技術、月・惑星地盤工学の創成と宇宙探査への貢献
専門分野:地盤工学

storage研究者データベース

2022年8月29日更新