Voices for future leaders修了生紹介

10期生

秀島 圭

秀島 圭Hideshima Kei

日本航空株式会社
運航本部
運航業務部 部長

  • 日本航空株式会社 運航本部 運航業務部
    業務グループ グループ長
  • 日本航空株式会社 運航本部 運航業務部 部長(2025年4月)

立命館西園寺塾を通じてのご自身の変化や成長について

西園寺塾で自分に突きつけられた現実、それは「あなたはまだまだ狭い世界にいる」という内なる声でした。社会人になってから取り組んできた従来の勉強は、自己実現や仕事に直結するものばかりであり、短期完結型でゴールが予想できるもの。一方で、西園寺塾で取り扱うテーマは、時間軸という奥行き、空間・地理・社会的な広がり、そして行動実践・思考の深さにおいて、すべてが桁違いのスケールです。例えるならば、コントロールが効かず、どこまで伸びるか分からない振り子が縦横無尽に動き回るようでした。一つ一つの講義をうまく消化できず、思考や言葉の整理がつかないまま、次の課題に取り掛からなければならないことも、しばしばありました。毎週のように大きく揺れる振り子の動きを「一回、止めてほしい」と思うこともありました。

そのような中、前期のどこかのタイミングから、予想もしない振り子の動きに身を任せること、講師のお話や同期生の発言に揺さぶられることの心地よさを少しずつですが、感じ始めました。40代半ばで、未知の領域に触れ、学ぶことの楽しさを実感できたことは、西園寺塾を通じて得られた大きな収穫です。私は、学びの楽しさを生み出す源泉は、自分と向き合うことを土台に、他者との関係性から生み出される振り子の振れ幅にあると思います。

特に印象に残っている講義・フィールドワーク・出来事はどのようなことでしょうか。また、その理由についてお教えください。

  1. 2023年7月22日 市原麻衣子先生 講義
    私は年間を通じた西園寺塾でのテーマを「ナラティブ」としましたが、その気づきを得ることができたのは前期の市原先生の講義でした。ナラティブとは「物語、語り、ストーリー、言説」のことで、人間にとっては切っても切れないもの。20世紀以降、世界に提示された民主主義、資本主義、権威主義といった人類にとって壮大なナラティブは、人差し指一本でスマホを検索するような気軽さで、分かりやすくまとめることは到底できません。安全保障、地政学、科学技術や歴史認識問題などをテーマとした後期の講義が進むにつれて、ナラティブの持つ多面性をめぐり、思い悩む時間も増え、それらを「自分自身の言葉」で表現することの難しさを痛感しました。すべての現象には光と影があります。共感と洗脳、伝説と陰謀、被害者と加害者、破壊と平和、英雄と悪人、救いと絶望、愛と無関心、成長と停滞……。大切なのは、難しいことは難しいまま、まずは受け入れること。複雑さの片鱗をどうにか爪の先でひっかくぐらいの感触であったとしても、それは大きな前進になります。
  2. 2024年2月10日 細谷雄一先生
    根拠のない淡い期待で「自分の正義は普遍的で、相手とも、どこかで分かりあえる」と思い込むことは、自己都合的なバイアスを生み出すことになります。分からないことを前提に、俯瞰的かつ相対的に物事を考えること。「自分は絶対ではなく、相手もよく分からない」ということが、すべての思考の発射台になることを細谷先生の講義で学びました。価値判断には批判も伴い、勇気も必要です。西園寺塾の中庸の精神や稲盛さんのフィロソフィ(「対極をあわせもつ」)を持ちながら、「どんなに困難であっても、他者に語りかける」ということを具体的な行動として実践していくことが、細谷先生が伝えたかったメッセージだったのではないでしょうか。私は誰に対して、どんなメッセージを、どのように発信していくべきか。それは西園寺塾修了後の私の大きな宿題となります。
  3. 2024年2月17日 中島隆博先生 講義
    中島先生との対話は「魂の交わり」でした。それは私だけでなく、同席していた10期生全員も同じように感じていたはず。教室全体がまるで時空の異なる空間に浮遊しているような感覚を味わいました。生涯忘れられない日。21名の対話は、21名×1年分の壮大なバトンタッチリレーのようでした。マイクというバトンが渡され、同期生と中島先生から次々に発せられる魂の言葉がエコーのように連鎖し、室内に響き渡る。答えのない問いを正面から受け止め、悩み、もがきながらも必死に言葉を絞り出していく同期の姿は、シンプルに清々しく、瑞々しい。自分の中の内なるエネルゲイヤが着火する。中島先生の最後のメッセージであったviatorとは、辺境を旅し、異質なものと混ざり合い、互いのスイッチを探し、魂の交わりを通じて相互に変容していくこと。西園寺塾の学びに終わりはなく、今後の自分の人生において、常に現在進行形のプロセスが続いていきます。

今後の夢や目標を教えてください。

私は航空輸送産業に携わっておりますが、西園寺塾での学びを通じて、改めて航空輸送の意義を自分自身に問いかけています。人々が、あらゆる壁を越えて移動し、地域・自然・人と触れ合い、交流することで、人々が幸福と感じる世界を作り上げていきたいです。もともと、稲盛和夫さんの哲学・フィロソフィの真髄に近づくことが、私の入塾志望の一つの大きな動機でした。やや大げさな言い方かもしれませんが、残りの人生の中で何をすべきなのか、また企業活動を通じてどのような社会貢献を果たしていくべきなのか。これらを自問自答しながら、西園寺塾で得た塾生や先生とのつながりをさらに深めていきたいと思います。

未来の西園寺塾 塾生にメッセージをお願いします。

戸惑うこともあると思いますが、たくさん悩んで、たくさんもがいてください。自分自身が苦しんで考え抜き、絞り出した言葉を伝えることで、初めて相手からも同じレベルの熱量を引き出すことができるのだと思います。真剣で魂のこもった「本気」にこそ人は反応し、異質なもの同士が混ざることで高度な化学変化を起こします。多種多様なナラティブを持つ西園寺塾の同期生との関わりが、私にそのことを気づかせてくれました。

そして、ぜひ学びのテーマを決めてください。何でも構いません。自由に発想してください。テーマという軸があると、講義と講義の間につながりができ、より深い学びを得ることができます。先生の発する言葉が、必ずあなたの胸に突き刺さるタイミングがあります。自分にどのように当てはめられるのか最初は分からないし、まったく別の世界の話だと思うかもしれません。しかし時間が経つと見えてくるものもあります。結論を急がずに、焦らずじっくりと自分のテーマを探してください。つらくなっても、その時には伴走する同期生の存在が皆さんを勇気づけてくれます。

ちょっと疲れたり、困ったりしたら、集まれる場所。
困っていなくても、集まれる場所。
その原点であり拠り所が西園寺塾です。

西園寺塾を修了して10か月たった今、感じていること、考えていること

西園寺塾での学びや同期生の存在は、自分自身の思考回路、仕事や生活への向き合い方、自身の発する言葉、そして人生設計のあらゆる場面に影響を与えており、修了後の時間が経つにつれて、その影響力は日に日に増しています。もはや西園寺塾がない自分の人生は想像もつきません。1期生からの偉大なる先輩方への尊敬の念を胸に抱きつつ、これからの西園寺塾の伝統を新たに創っていく責任を感じています。そして、何よりも10年目という節目の年に塾生として仲間に入れていただき、素晴らしい同期生と出会えたことに、ただただ感謝しています。いろいろと言葉を並べましたが、私はただ「西園寺塾が好きだ」ということを言いたかっただけなのかもしれません。

最後に、先日、西園寺裕夫名誉顧問が理事長を務める五井平和財団の「PEACE TO PEACE」フォーラムに参加させていただいた際に、印象に残った登壇者の言葉を紹介します。

“If you want to go fast, go alone,
If you want to go far, go together”

これは、西園寺塾の学びの本質を突く言葉だと直感的に思いました。目的地に一足飛びする高速プライベートジェット機ではなく、あらゆる問いや悩みを受け入れ、優雅に、力強く、上層に浮かぶ飛行船。西園寺塾という母船は、果てることのない学びへの意欲と友情をプロペラにして、小さな自己実現や目先の企業利益、過去のしがらみなどの障壁を躊躇なく飛び越える。塾生それぞれが果たすべき高い使命を乗せ、その先の未来が放つ最大の輝きに向けて、これからも飛行を続けていきます。