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特別講義:能島裕介氏(尼崎市理事) ボランティアマネジメント

去る2021122日に組織マネジメント論の授業において、尼崎市理事であり、特定非営利活動法人ブレーンヒューマニティ顧問の能島裕介氏に、「ボランティア組織のマネジメント」というテーマで特別講義をしていただきました。

能島氏は、1994年、関西学院大学在学中に学友とともに、家庭教師サークル「関学学習指導会」を設立されました。この組織を設立した翌年に、阪神淡路大震災によって被災され、学習指導会のメンバーも震災後、様々な苦労をされたようでした。そして、被災地などでの様子を目の当たりにし、学習活動のみならず、被災した子どもたちが少しでも生き生きと過ごすことができないものかと考え、設立された関学学習指導会のメンバーがボランティアで学習支援やキャンプなどのレクリエーション活動などを被災地の子どもたちを中心に展開されたとのことでした。当時は、200人以上ものボランティアが集まり、活動を進めていたとのことです。その後、大学を卒業し、一旦、就職されたものの、被災後から関学学習指導会が展開していた様々な活動を、持続的な事業化を図るために、法人を設立するということになり、就職した企業の職を辞して、学生が主体となって活動を進める特定非営利活動法人では日本初となるNPO法人Brain Humanityを設立されました。

NPO法人Brain Humanityは、「子どもたちに多様な価値を提供し、子どもたちが多様な選択肢を持つ社会をつくる」ということをミッションに掲げ、現在でも学生を主体とした経営を続けており、950人を超えるボランティアを束ねる大所帯となったようです。ユニークなのは、定款に定められているとのことですが、過半数の理事は学生であり、学生が職員の採用や雇用を担うということです。大学生を主体とする組織であるため、4年間でほとんどの構成員が入れ替わってしまうため、経験に基づく、知識とスキルの蓄積が困難であるという課題を抱えているとのことですが、このような組織特性を踏まえて、NPO法人Brain Humanityでは、組織をマネジメントするにあたり、様々な工夫が凝らされています。例えば、学生主体の組織であるため、事業の構造を理解させるために、毎週、学生理事による定例の役員会が開催され、職員の採用や事務局長の選任といった人事案件から様々な事業企画や予算編成などについて、審議、議決が繰り返されているとのことです。とりわけ、ユニークな取り組みは、「徹底した文書化と記録化」を図り、短期間で組織が刷新されていく組織特性を踏まえて、ルールやマニュアルを作成するに余念がなく、このような文書化や記録化された、ある種、形式知化する作業によって、事業運営や活動の遂行に支障を来さないような工夫を施していることです。事務所には、過去14年間にわたる役員会の議事録を誰もが閲覧可能な状態にしてあり、学生が新規事業の企画や事業運営の手がかりとして活用できるようにしているとのことでした。またアクティビティを志向する学生の気質を踏まえて、彼らのモチベーションを維持するために、活動後の「評価」を重視し、学生の取り組みにどのような意味があったのか、それが子どもたちの成長にどのように貢献していたのかを頻繁にフィードバックするとのことでした。つまり、学生の活動を、認め、讃え、そして報いるという連鎖を繰り返しながら、学生に明確なキャリアパスを示しながら、役割や業務を変化させて、活動に対するモチベーションの維持を図っているとのことでした。


学生を主体としたボランティア組織であるが故に、事業運営や活動を安定的に維持するためには、バックアップ機能を構築する必要があるものの、そのような組織体制を強化することが、逆に学生の主体性や責任感を脆弱にさせてしまうというジレンマも抱えているとのことでした。つまり、「その人にしかできない→自分がいないといけない」という責任感を醸成する一方で、各々の負担が大きくなり、バーンアウトに陥れば、事業運営に支障を来してしまう。そのため、バックアップ機能を構築するようにしているものの、それが逆に、「誰にでもできる→自分がいなくても大丈夫」という役割意識や責任感を低下させてしまうという事態も招いているとおっしゃっていました。学生を主体とした組織であるが故に、学生とどうのように向き合い、支援することが、学生の自律性と主体性を促しながら、責任を持って活動に取り組むのかは、難しい課題だとおっしゃっていました。

あっという間に時間が経ち、前のめりであった学生、とりわけ、課外活動で中核的な役割を果たし始める3回生にとっては、タイムリーな話題であり、多くの学生から質問が寄せられ、大盛況のうちに特別講義は終わりました。


(ニュース)20211217-2