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ゲスト講義実施報告(編集者・ライター 早川タダノリ様)
「日本文化・社会論」(担当教員:山口智美先生)の授業にて、編集者・ライターの早川タダノリ様をゲスト講師としてお招きし、講義を行っていただきました。
テーマは「『いただきます』と日本文化」。
冒頭では「日本人は清潔好き」「日本人は礼儀正しい」といった日本文化にまつわる定型的な言説が取り上げられました。これらはいわゆる「日本文化論」としてさまざまな書籍や記事で語られることが多いのですが、早川先生はそれらが「日本」や「日本人」という広範な主語で語られる点(いわゆる「主語がデカイ」問題)、そして多くが明確な根拠を欠いていることを指摘されました。
続いて、そうした日本文化論の代表的な事例として、誰もが知り「食育」などの文脈でもしばしば言及される「いただきます」の慣習が取り上げられました。
「いただきます」の起源については、縄文時代にまでさかのぼるとする説などさまざまな言説が存在しますが、歴史的な研究に基づいて検証すると、実際にこの表現が全国的に普及したのは戦後のことだということです。この事例を通じて、早川先生は「創られた伝統」がいかにして生まれ、そこにどのような論者のメッセージや価値観が込められるのかを分析しました。ただ単に「伝統は作られたものだ」と指摘するだけでは不十分であり、それがどのような意図や主張とともに流布されているのかを読み解く姿勢が重要であると結論づけられました。
日常的で誰もが親しんでいる「いただきます」という慣習を題材としながら、日本文化論が陥りがちな一般化の危うさや、伝統とされるものが構築されたものである事例など、具体的かつ丁寧に考察する本講義は、学生にとっても非常にわかりやすく、これまでの自身の思い込みや受け取ってきた「常識」を見直す契機となる、大変刺激的な学びの機会となりました。