VOICE
データから価値を生み出し、
経営の意思決定を支える技術を磨きます。

立命館大学大学院 テクノロジー・マネジメント研究科 准教授
明治大学大学院商学研究科修了(修士(商学))後、国費外国人留学生として早稲田大学大学院創造理工学研究科博士後期課程に進学し、博士(経営工学)を取得。早稲田大学創造理工学部経営システム工学科助手、青山学院大学理工学部経営システム工学科助教、株式会社トーラス技術部データサイエンティストを経て現職。
01 ご自身の研究内容について教えてください
データ活用による経営課題の解決支援に取り組んでいます。

私の研究は、情報数理応用および経営情報学の視点から、データを活用して経営課題を解決する「応用志向」のアプローチを提案しています。具体的には、POSデータやECサイトの購買ログ、SNSの投稿テキストや画像といった多様な情報を分析対象とし、マーケティング戦略や顧客行動分析に活用可能なパターンの抽出を目指しています。
たとえば、SNS上のレビューやコメントなどのテキストデータから消費者インサイトを抽出し、新商品が市場に普及するまでの過程など、製品に対する評価や需要の変化を予測するモデルの開発を行っています。また、POSデータを用いて顧客セグメントを動的に分類し、個別最適化された販促施策を提案する研究も進めています。使用する手法としては、機械学習や自然言語処理、テキストマイニング、多変量解析などです。プログラミング言語はRやPythonを用いています。
こうした研究は、マーケティングだけでなく業務改善やリスクマネジメントなど、広く経営システム工学への応用が期待されます。企業との共同研究や実データを用いたプロジェクトを通じて、実務に直結した「実学」としての数理的知見を深めています。
02
MOT(Management of Technology)に携わった経緯について
教えてください
より現場に近いスタンスで、技術と経営を橋渡ししたいと考えたのがきっかけです。

もともと経営工学の分野で、最適化理論や生産管理、品質工学などを学び、システムとしての企業運営に関心を持っていました。しかし、理論やシミュレーションだけでは計画通りに進まないことも少なくありませんでした。「なぜうまくいかないのか」を言語化し、改善策を提案するためには、現実のデータを基にした実証研究が必要だと感じたのです。
この課題意識からデータサイエンスの手法を用いて、経営現象を可視化・数値化し、経営を支援する研究に取り組むようになりました。ただ、データにも限りがあります。限定的な条件のもとでなら分析や予測も可能ですが、実際の現場は非常に複雑です。ひとつのモデルだけではカバーできません。できるだけ動的に現場の変化に応じながらモデルを改善していくことが求められます。特に製造業やサービス業において、業務改善、人手不足、需要予測など、実務に直結するテーマを扱うには、技術と経営を橋渡しするためにも、より現場に近いMOTの必要性を感じました。
MOTはまさに、テクノロジーとマネジメントを統合的に捉え、企業の価値創造を支援する領域です。経営工学の論理的フレームと、データサイエンスの実証的アプローチを融合させることで、より実効性の高い技術経営が実現できると考えています。
03 立命館イノベーションスクールの特徴について教えてください
実データと多様な視点が交差する、実学としての知を育む環境です。

立命館イノベーションスクールの最大の特長は、社会やビジネスの現場と密接に結びついた「実学」としての教育・研究を重視している点です。特に、ビジネスアナリティクスやマーケティングデータ分析、自然言語処理、機械学習といった最先端の手法を用いながら、企業と連携して実データを扱う研究・教育が行われている点は他大学と比べて非常に実践的です。たとえば、POSデータやECサイトの閲覧履歴、SNSのテキストなどの実データを使って、学生たちが自らの仮説を立て、分析・検証し、最終的に提案としてまとめあげる授業を行っています。
私の講義は「PBL(Project-Based Learning)」形式で進めていて、前半は理論的な基礎を学び、後半は実データを用いてチームで分析に取り組みます。各チームに同じデータを提供していても、そこから情報をどう取り出すかというのは、それぞれのアイデア次第です。最終的には、「データコンペ」のような発表会を行い、互いの成果を共有し、議論を深めていきます。
異なる専門性や文化的背景を持つ学生が混在する点も、立命館イノベーションスクールの特徴です。たとえば、留学生は、国際的な視点からデータの意味やビジネスモデルの違いを提示し、議論に多様性を与えます。日本市場と海外市場の消費行動の違いに着目した研究なども行われています。一方、社会人学生は実務経験を背景に、現場の課題やデータの扱いに関する現実的な視点を持ち込み、技術と現場のギャップを埋める役割を果たしています。それぞれが異なる視点を持ち寄ることで、ユニークで豊かな学びが実現しています。
04
立命館イノベーションスクールで学ぶ学生たちに
期待することは何ですか?
機動性ある「個」の能力を伸ばし、実績を積み上げてほしい。

立命館イノベーションスクールで学ぶ学生には、「個」の能力をどこまで伸ばせるかに挑戦してほしいです。組織力を高めることは依然として重要ですが、現代は組織に埋もれるのではなく「個」の力を発揮する時代だと思います。テクノロジーがコモディティ化し、新商品やサービスの開発に多大なリソースを投下する必要がなくなりつつあるため、さまざまなネットワークやチャネルを活用できる個人が機動性を発揮できる時代です。このような時代では、言われたことをこなすだけの人材の価値は下がり、さまざまな能力やスキルを身につけた能動的に動く個人が必要とされます。これからの社会で求められるのは自分でアイデアを出しそれを実行に移す能力なのです。
また能力を伸ばすと同時に、それを裏付ける成果や実績も意識しなければなりません。今はグローバル化によって自身の能力を発揮できる場がますます広がっています。日本だけで完結せず、世界を視野に入れてどんどんチャレンジし、実績や成果を積み上げることが重要です。
組織力やコミュニケーション能力ももちろん重要ですが、これからの「個」の時代では、どれだけ個人で戦えるかがたいへん重要です。個人の知的活動によって生み出されたイノベーティブなアイデアが次世代の産業やテクノロジーを創出していきます。立命館イノベーションスクールで学ぶことで、独創性をはじめとする「個」の能力を伸ばし、実績を積み上げてください。
取材日:2025年7月