VOICE
技術を経営価値に変える「価値創造工学」で、
未来志向のイノベーションをデザインします。
立命館大学大学院 テクノロジー・マネジメント研究科 教授
慶応義塾大学工学部数理工学科卒業後、鉄鋼系商社(一部上場)の総合職を経て、産業能率大学VM(Value management)センターに研究員として入職。その後、産業能率大学総合研究所教授(2004-2009)を経て、同大学経営学部教授(2009-2010)に就任。この間、早稲田大学理工学研究科後期博士課程にて博士(工学)(2005.3)を修得。早稲田大学大学院創造理工学研究科経営デザイン専攻教授(2010-2015)、同客員教授(2015-2017)、立命館大学大学院本研究科客員教授(2018-2019)を経て、現在、同大学大学院本研究科教授(2019-)に就任し現在に至る。その他に、東北大学大学院工学研究科客員教授(2020-2025)、早稲田大学理工学術院非常勤講師(2017-)、(有)バリューイノベーション研究所取締役・所長(2017-)、公益社団法人日本VE協会参与・バリュー・デザインラボ所長、一般社団法人日本システムデザイン学会理事、NPO法人日本TRIZ協会副理事長、ジオマテック(株)取締役(社外)など歴任。
01 ご自身の研究内容について教えてください
VEやTRIZなどの管理技術を基盤に、「価値創造工学」を探究しています。
これまで私は、VE(価値工学)やTRIZ(発明的問題解決理論)といった管理技術を基盤とする「価値創造工学」をコアな研究分野としてきました。VEとは、製品やサービスの価値を、機能とコストの両面から捉えて最適化する手法です。一方のTRIZは、矛盾を妥協なく解消することでイノベーションを実現するための考え方です。たとえばモーターの性能と騒音の問題では、「音を抑えるために性能を下げる」という妥協的なトレードオフが生じがちです。しかしTRIZが目指すのは、そのどちらも100%実現するラディカルイノベーションのアプローチです。こうした「価値創造工学」の発想を、商品企画・開発マネジメント、イノベーションパターン分析、そして製造業における持続可能なカイゼン活動の理論化と実践への応用に向けて展開してきました。
近年は、「これらの知見を教育にどのように効果的に展開できるか」という観点から、PBL(Project Based Learning)型授業と学生の学習意欲との関係性に強い関心を持っています。かつて企業が社内で行っていたようなアクティブラーニングの継続が難しくなる中、大学の教育現場で企業の課題を題材としながら、いかに実務に根ざした管理技術を意欲的に学習させるか。チーム演習を通じて内発的動機づけを高める教育効果の構造解明が、現在の主要な研究テーマです。また、社会人と学生が一緒に取り組むことで、さらなる創発が生まれ、「その学びがやがて働きがいへとつながっていけば」という想いもあります。
02 MOT(Management of Technology)に携わった経緯について教えてください
実務の中で「技術を経営価値として捉えること」の重要性を実感しました。
大きな転機となったのは、以前勤めていた大手鉄鋼専門商社で、ベンチャー企業と協業して生産性向上を目的とした産業ロボットの提案業務に携わったことです。協業先のベンチャー企業はチャッキング精度(部品を掴む動作の正確さ)など、ロボット自体の性能に比重を置いた提案を行っていました。しかし私は、「顧客である製造現場がその性能を使いこなし、実際に生産性が上がるかどうかが重要」だと考え、生産性向上の定量化に着目したマネジメント視点での提案を試みたのです。結果的に導入には至らなかったものの、提案内容には高い評価を受け、手応えを感じました。
当初はIE(生産工学)に注目していましたが、やがて目的思考に基づくVEへと関心を深めていきました。ミクロな技術や工程から、マクロな製品・サービスの価値へ、そしてMOT分野へ。かつての日本では新幹線やカップ麺、ウォークマンなど、付加価値の高い商品開発が行われてきました。「技術を経営価値として捉える」MOTを導入することで、イノベーションを進めていける日本が再び戻ってくるのではないかという期待がありました。
その後、実務と直結した研究や教材開発に取り組みたいと考え、25歳で大学の経営管理研究所の研究員となりました。企業の受託や教材開発を通じ、日本VE協会との連携や企業事例に基づく実践的な論文・書籍の執筆を行うなど、常に理論と実務を往来してきました。現在もこの経験を基盤として、価値創造工学の観点からMOT教育の開発に取り組んでいます。
03 立命館イノベーションスクールの特徴について教えてください
企業の実課題に挑み、実務と学術の良さを掛け合わせた実践的な学びの場です。
立命館MOTの大きな特徴の一つは、企業の実課題を題材に、実務家を講師として迎えて単位を付与する「プラクティカム(課題解決型長期企業実習)」という授業があることです。通常のPBL型授業では、大学教員が主体となって疑似的なテーマを扱うことが多いですが、プラクティカムでは企業の方が中心となってテーマを設定し、学生が企業の実務により近い部分へ深く入り込んでいきます。技術経営を実務に根ざして体得できるユニークなアクティブラーニングとなっています。
また、本研究科は専門職大学院ではありませんが、通常の授業でも企業ケースを取り入れた実践型授業を提供しています。大学側が主体となって進めていくからこそ良い学びにつながるところもあるため、プラクティカムとPBL授業の両方が可能というのは大きな強みだと思います。同時に、研究系大学院として学術的水準を備えた修士論文の執筆を必須としており、博士課程への進学も視野に入れられる点も特徴だと考えています。
04 立命館イノベーションスクールで学ぶ学生たちに期待することは何ですか?
イノベーションの源泉となる「未来デザイン思考力」を磨いてほしい。
学生の皆さんには、イノベーションスクールとしての基礎的素養である「創造的問題解決力」を身に付けてほしいと願っています。社会や産業を取り巻くマクロ環境の変化を常に意識し、一般消費者が気づく前に近未来の社会が求めている機能や価値観をつかみ取り、未来志向のビジョンを描いていく。そして、それを段階的に実現していく創造力です。こうした「未来デザイン思考力」こそが、イノベーション創発の源泉になると私は考えています。
特に実務経験を持つ社会人の方にとっては、MOTの諸理論を体系的に学ぶことで、ご自身の経験を単なる成功や失敗の記憶に留めることなく、再現性のある思考プロセスへと整理する「抽象化能力」を高めることが期待できます。元々お持ちの高い実務能力に加え、未来志向に基づくデザイン能力を獲得・強化することで、未知の課題やリスクへの対応力が高まり、組織や社会における価値創造への架け橋となる「未来ビジョンを兼ね備えた人材」になり得ると信じています。
私自身もこれまでに『創造的リスクマネジメント』(同友館)や、生成AIの実践的活用にも言及した『製造業のプロダクトマネジメント』(科学情報出版・共著)といった書籍を執筆してきました。過去の検証にとらわれず未来をデザインする視点や、新しい技術を管理技術と補完し合いながら活用する方法など、MOTを学ぶ学生に触れてほしい知見をまとめています。ぜひ手にとって見てください。そしてこの多様な環境で、皆さんと共に未来を構想できることを楽しみにしています。
