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VOICE

36年の生産技術の実務経験を土台に、
再現性ある「理論」の実践を目指します。

田中 邦明 たなか くにあき

立命館大学大学院 テクノロジー・マネジメント研究科 教授

関西大学大学院工学研究科博士前期課程修了後、オムロン(株)に入社。ものづくり革新本部生産技術センタ長など一貫して生産技術関連部門でのマネジメントを担当した後、マレーシアの生産会社、中国の設備製作会社の責任者を歴任し、2018年10月に定年退職。立命館大学大学院テクノロジー・マネジメント研究科客員教授(2018-2019)を経て、2020年4月からテクノロジー・マネジメント研究科教授。現在、一般社団法人 Lean MONOZUKURI Network Japan理事、システムラボ京都(株)代表。また、オムロン(株)在籍中に、同志社大学経営大学院ビジネス研究科専門職学位課程修了(MBA)、法政大学大学院システムデザイン研究科博士後期課程修了。一般社団法人日本機械学会フェロー。

01 ご自身の研究内容について教えてください

「需要同期生産」から「サプライチェーンレジリエンス」まで、生産関連技術を追究しています。

私は定年退職まで36年間、一般企業に在籍し、一貫して生産技術関連の業務に従事してきました。特に注力したのが、「需要同期生産」の実現です。例えば、ICやコンデンサーなどの電子部品を基板に実装する工程では、市販の高額な設備を使用して大量生産を行うのが一般的ですが、多品種少量生産においては日に十数回もの段取り替えが必要となり、市販の設備は適しません。そこで、効率的に段取り替えが行える安価な実装設備を独自開発し、後工程となる人手中心の組立工程と同期させることで多品種少量製品を高効率に生産できる生産システムのイノベーションに取り組みました。

現在は研究の対象を広げ、主に「サプライチェーンレジリエンス」に関する研究を行っています。コロナ禍では、部品供給が途絶え工場が何日も停止するといった問題が表面化しました。これまで製造業は在庫を「絶対悪」としてスリム化を進めてきましたが、災害等のリスクに対して脆弱になるというジレンマを抱えています。サプライチェーン全体を可視化し、効率と冗長性、柔軟性のバランスをどのように保つべきかを研究しています。

また、タイやインドネシアなどの新興国における製造技術人材の育成にも携わっています。日本のシステムをただ移転するだけでなく、「なぜそうするのか」という原理原則から考える力を養う支援を行っています。長年培った経験やノウハウを、企業や国境を越えて広範囲に社会へ還元したいと考えたことが、教員の道を選ぶきっかけとなりました。

02 MOT(Management of Technology)に携わった経緯について教えてください

個々人の経験に頼らなくても、不確実な時代を乗り越えていける理論を求めて。

企業に在籍していた頃、私は世の中に先駆けた不確実性の高い開発業務やマネジメントに携わっていました。思うような成果が出ず、常に成果を出し続ける先輩の管理職に成功の秘訣を尋ねたところ、その答えは「カン・コツ・経験+度胸(3KD)」というものでした。経験豊富な方の言葉として納得したものの、技術革新が進みビジネスが複雑化していく今となっては、個人の経験やスキルだけで乗り切るには限界があるとも感じるようになりました。

これまでの経験が通用しない状況に置かれても成功確率を上げていくためには、何らかの法則や根拠となる「理論」が必要です。そう考えたことが、MOT(技術経営)との出会いにつながりました。MOT教育の本質は、「再現性(理論・分析)と現場適応性(判断・実行)を最適化していく力」を追求することにあります。先行研究などで理論化された共通の土台(コモン)をしっかりと理解し、そこから自身の現場に向けた課題設定(モジュール)を行っていく。そして最終的にその現場にマッチした具体的な解(オプション)を導き出していく。このような力を高めていくために、私の長年の実務経験を活かして、学生の皆さんの理論の解釈、理解をサポートしていきたいと考えています。

03 立命館イノベーションスクールの特徴について教えてください

「技術と経営の統合」を実践し、多様な知がぶつかり合う関西屈指の教育機関です。

立命館イノベーションスクールの最大の特徴は、技術と経営の統合教育に重点を置いたプログラムがバランスよく設置されていることです。経営管理の基礎と理系的思考を学ぶコア科目群をはじめ、実務に役立つ専門性を高める科目群、さらに「未来先導系科目群(フューチャープレナーシップ)」を通して新しい価値を創造する力が身につく体系が整えられており、関西を代表するMOT教育の拠点となっています。

特徴的な実践の場として「プラクティカム(課題解決型長期企業実習)」があります。これは実際の企業課題に学生が数カ月かけて取り組むプロジェクトで、学生がMOTの理論を用いて分析・提案を行うと、企業の担当者の方から「今まで経験則でやっていたことが、理論化されて腑に落ちた」と喜ばれることもあります。理論を実践の場で試し手応えを得ることは、実務経験の少ない若い学生や留学生にとって非常に貴重な機会となっています。

社会人、ストレートマスター、留学生という多様な人材が共に学ぶ環境も大きな魅力です。ディスカッションの場では社会人学生がファシリテーターとなり、自身の経験をロジカルに言語化していきます。実務経験のない留学生やストレートマスターにとって非常に勉強になりますし、逆に社会人自身も他国の文化や若い世代の視点から新たな気づきを得られるという、素晴らしい「化学反応」が起きています。

ゼミには留学生も多く在籍していますが、私が教員として大切にしているのは、学生たちの背景を「とにかく理解する」ことです。言語や文化の壁があっても、発言の裏にあるロジックや意図を深く読み解き、正面から向き合うことで質の高い学びの場を創り出したいと考えています。

04 立命館イノベーションスクールで学ぶ学生たちに期待することは何ですか?

チームを牽引するリーダーに求められる「人間力」を磨き続けてほしい。

MOTで学ぶ皆さんに、社会人・学生を問わず最も伸ばしてほしい力があります。それは「人間力」です。イノベーションの推進であれマネジメントの実践であれ、実行主体は結局のところ「人」です。大きなビジョンや夢を実現するにはチーム活動が不可欠であり、そのチームを牽引するリーダーには、「この人についていきたい」「一緒に仕事をしたい」と思わせる人間的な魅力や包容力が求められます。

私自身、企業に在籍していた頃、あるトップの言葉に涙が出るほど心を動かされた経験があります。知識や理論は重要ですが、それを実際に社会で動かしていくのは、その人自身の説得力や熱意に他なりません。だからこそ、常に自分自身の人間力を磨き続けることを意識してほしいと願っています。

特に実務経験を持つ社会人の方にとって、MOTはご自身の経験を「整理・棚卸し」する絶好の場です。これまでの実務経験を原理原則や関連理論で裏付けることで、自身の行動や判断に確固たる自信が生まれ、未来の現場での成功確率を飛躍的に高めることができます。立命館イノベーションスクールで得た確かな理論と、皆さんが磨き上げた人間力を掛け合わせ、次代の社会を牽引するリーダーとして羽ばたいてくれることを期待しています。