核廃絶をめぐる世代を超えた対話—未来を見据えたシンポジウムを開催
2025年9月29日(月)、立命館大学国際平和ミュージアムと毎日新聞社の共催により、「ノーベル平和賞から核廃絶へ - 被爆者とともに私たちは何ができるか -」が開催されました。会場となった衣笠キャンパス創思館カンファレンスルームには、学生や市民など約60人が参加し、登壇者たちのプレゼンテーションに熱心に耳を傾けていました。
本シンポジウムは、日本原水爆被害者団体協議会(以下、「日本被団協」)がノーベル平和賞を受賞してから約1年、そして国連創設80周年・核時代80年という節目の年に、被爆者の凄惨な体験談に直接触れながら、私たちが果たすべき役割を問い直す機会として企画されました。
基調講演では、日本被団協・代表理事の金本弘氏が登壇。自身の被爆体験を語り、熱線や爆風、放射線被害に加え、街を覆った焼け焦げの匂いの記憶を鮮明に描写しました。近年、姉の手記を通じて、自らを救ったのが実父であったことを知ったエピソードを紹介。そのうえで、「人間は、時に悪をなすこともあるが、命を救う存在にもなり得る」と語り、生き残った者として証言を続ける覚悟を改めて示しました。
2017年の「核兵器廃絶国際キャンペーン」(通称「ICAN」)によるノーベル平和賞受賞については、「語る場を広げたことが最大の意義だった」と振り返りつつ、日本政府が核兵器禁止条約に参加していない現状に強い危機感を表明。その上で、「証言を聞いたあなたが次の証言者になってほしい」と呼びかけました。
続くパネルセッションでは、金本氏に加えて研究者・実践者・学生の3名が登壇し、国際平和ミュージアム館長の君島東彦教授(国際関係学部)の司会で、それぞれの立場から核廃絶へのアプローチを語り合いました。
長崎大学核兵器廃絶研究センターの河合公明氏は、国際法の視点から核抑止の問題点を指摘。「核抑止は、うまくいくことを願うだけの不確実な仕組みにすぎず、破綻すれば市民が犠牲になる」と述べ、核兵器が存在するだけで被害を生む現実に目を向ける必要性を訴えました。さらに、核兵器禁止条約(通称「TPNW」)の意義と課題を整理し、「TPNWは『現実論』の制度であり、どう育てていくかが重要である」と語りました。
一般社団法人かたわら代表理事の高橋悠太氏は、13歳で街頭署名活動に参加した経験を原点に、現在は平和を仕事にする社会起業家として活動。中高生向けの平和学習プログラム「タイムトラベラー」や、国連総会でのユース発言などを通じて、「聞き手」から「問いを立てる主体」へと変化することの重要性を強調しました。被爆者の記憶を世界の記憶へと継承する取り組みの意義を語り、「いい問いを引き出すことが私の仕事」と述べました。
立命館大学国際関係学部4回生で国際平和ミュージアム学生スタッフの倉本芽美さんは、SNS発信や議員・自治体への働きかけ、国際会議への参加など、学生としての具体的な取り組みを紹介。「核兵器の問題を自分の生活圏に引き寄せて考えることが大切」と語り、若者が主催者として場をつくり、問いを発することの意義を力強く伝えました。「できる人が、できる時に、できることをする」という姿勢が、持続可能な活動の鍵であると述べました。
最後に金本氏は、被爆者の残された時間の切実さに触れながら、証言の継承と政策転換を同時に進めるため、世代や立場を超えた連帯を呼びかけました。
本シンポジウムは、被爆体験という原点から現代の安全保障を問い直し、メディア・教育・研究・市民社会・若者が協働しながら、核兵器のない世界への現実的な道筋を描く貴重な機会となりました。



