学生がアプリを使っている様子

授業が終わった後、「今日、何を学んだっけ?」と曖昧なまま次の時間に流れてしまう──。そんな経験はないだろうか。授業後の「振り返り」は学びの定着に欠かせないとされているが、一人で取り組もうとしても、どうしても表面的な内容になりがちだ。

立命館大学では2025年度秋学期、AIが対話しながら振り返りをサポートするアプリを開発し、「ピア・サポート論」(中島英博教授)の受講生を対象に実証実験を行った。アプリを使った学生たちは、本授業においてどんな変化を感じたのか。その結果をレポートする。

※本取り組みは、2025年8月6日にNTT西日本社と共同で配信したプレスリリース「立命館とNTT西日本、教育向け生成AIの共同開発・活用推進を開始 ~「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実をめざす~」(https://www.ritsumei.ac.jp/profile/pressrelease_detail/?id=1196)に基づき、教育向け生成AIアプリの開発を進めてきたものです。2025年度秋学期の授業において、開発したアプリ(検証版)でユーザー検証を実施し、アンケート調査および分析を行いました。

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この記事のポイント

  • AIが「答える」のではなく「問い返す」設計の振り返り支援アプリを立命館大学で実証実験
  • 「授業理解が深まった」は92.9%、「自分の考えを言語化しやすくなった」は回答者全員(100%)
  • アプリの利用が授業中の意識・取り組み方そのものにも変化をもたらした(肯定回答78.6%)
  • 学期末の総振り返りでも95.3%が「学び全体を一つの流れとして理解できた」と回答
  • 授業外(研究・課外活動・日常学習)での活用意向も75%以上が期待


「AIが問いかける」という設計思想

今回開発されたのは、授業内容をもとに専用設計された、共通のインターフェースを持つ2つの用途のアプリ。設計の核にあるのは、「AIが答えを教えるのではなく、AIとの対話により授業での学びや気づきを整理し、経験として深化・言語化できるよう支援する」という思想だ。

振り返り支援アプリの2つの用途(授業回ごとの振り返り/全14回の総振り返り)

【用途①:授業回ごとの振り返り】
第2回〜第14回の各授業後に使用する。AIが「今日の授業で印象に残ったキーワード、または場面や出来事をいくつかあげてください。」と問いかけ、学生の回答に対して深掘りの質問を重ね、最後に対話内容をまとめて提示してくれる。

【用途②:全14回の総振り返り】
全14回の授業が終わった後に使用する。授業全体の学びを振り返り、授業で獲得したスキルや態度を日常生活の中で積極的に実践できたかをAIとの対話を通じて振り返る。

学生がアプリ内でどのようなやり取りをしたのか、実際の対話画面(用途①:授業回ごとの振り返り)を見てみよう。

アプリ内の対話画面(用途①授業回ごとの振り返り)

AIが学生と対話を重ね、回答を深掘りしていく。最後にAIが、学んだこと・今後意識することを箇条書きでまとめる


「授業の理解が深まった」9割超、「言語化しやすくなった」は全員

アプリを使った学生へのアンケートでは、授業への効果について高い肯定評価が得られた。


アンケート結果グラフ:授業内容の理解・言語化・ミニペーパーの質

授業内容の理解が深まったか
「振り返り支援アプリを利用することで、授業内容の理解がより深まったと思いますか?」という問いに対し、肯定回答は合計92.9%(「とてもそう思う」53.6%+「まあそう思う」39.3%)に達した。

考えを言語化しやすくなったか
「自分の考えを言語化しやすくなったと思いますか?」への肯定回答は100%。「とてもそう思う」53.6%、「まあそう思う」46.4%で、否定・中立の回答はゼロだった。

ミニペーパーの質が向上したか
「ミニペーパーの質が向上したと思いますか?」では96.4%が肯定。「とてもそう思う」が64.3%と、過半数が強い手応えを感じていた。


学生はどう感じたのか

数字の背景にある学生の声を見てみよう。

  • 「自分では振り返れたつもりになっていたが、アプリからの質問を通して振り返りをさらに深められた。順序立てて振り返りが進められたのがよかった」

  • 「学んだことを整理する手助けをアプリにしてもらったおかげで、学んだことの言語化がしやすくなり、授業以外の場においても授業で学んだことを活かせました」

  • 「その時の授業に合わせて質問をしてくれるので、授業を思い浮かべながら振り返ることができた」

特徴的なのは「まとめ機能」への評価だ。対話の終わりにAIが学んだことや今後意識することを整理して示すことで、振り返りがしやすくなり、自分の考えや学びを整理し直す助けになっていたことがうかがえた。

  • 「最後にAIが考えを簡潔にまとめてくれることで自身の考えがまとめやすくなった点が優れていると感じた」
  • 「自分が入力した内容をAIが言語化してくれていたため、思考の整理がしやすかったです」
  • 「チャット履歴で過去の振り返りを見ようとした際、最後のAIのまとめ部分が表示されるので振り返りがしやすかった」


授業の受け方そのものが変わった

より注目したいのは、アプリの利用が授業中の意識そのものを変えたという声だ。「振り返りがあるから、授業中に集中しよう」という逆方向の作用が起きている。

  • 「次意識することをまとめてくれていたのでそれを意識して次の授業を受けるようにしていた」
  • 「振り返るという機会があるために、より授業を有意義なものにするという意識ができたように思う」
  • 「以前は授業に対する考えや意見が先行して的外れな振り返りをすることもあったが、振り返り支援アプリで最初に授業自体の振り返りをすることで、飛躍した学習から丁寧な学習へと変化が生じたと考えている」

さらに、学びの波及効果を感じた学生もいた。

  • 「他の学芸員課程の授業でもこの授業で学んだことがパッと出てくるようになり、他の授業で学んだことが思い出せるという経験があまりなかったことからも、このアプリの有効性が感じられました」


学期末の「総振り返り」にも手応え

全14回の学びを統合する用途②でも、高い評価が得られた。「授業全体の学びや成長を一つの流れとして理解できたと思いますか?」への肯定回答は95.3%だった。


授業総振り返りアンケート結果グラフ
Q:「授業総振り返りアプリ」を使うことで、授業全体の学びや成長を一つの流れとして理解できたと思いますか?(用途②協力者アンケート回答者21名)

  • 「一つのセメスターが3ヶ月強あることで、最終レポートで授業の総振り返りをする際に思い出したりまとめるのに困難を感じるので、アプリが導いてくれるのはありがたかったです」
  • 「各回の内容を求めた際に、すぐに提示してくれるのはとても優れていると感じた。最終的なまとめも授業全体を振り返るうえで便利で思考の整理に役立った。」


正直な課題も

全体として肯定的な評価が多い一方、改善を求める声も寄せられた。

「同じような質問を繰り返すことがあった」「深掘りの質に物足りなさを感じた」といったAIの応答への指摘、「Enterキーを押すと誤送信されてしまう」「改行ができない」といった入力操作の不便さなど、対話体験の質に関わる課題が確認されている。

また、アプリの意図が学生に十分に伝わらない場面があったことも課題として挙げられる。本アプリは、ミニペーパーやレポートにそのままコピペできる文章を作ることを目的としたものではない。授業においても、担当教員から繰り返し説明をしていたが、一部の学生には、そのまま使える文章を得るためのアプリとして利用していたログが見られた。この点は、今後の運用設計において丁寧な導入説明が必要であることを示唆している。

これらは今後の開発に向けた重要なフィードバックだ。


「授業以外でも使いたい」──75%以上が期待

授業外での利用意向についても、用途①で75.0%、用途②で81.0%が肯定的に回答した。「レポートや課題の整理」「研究の振り返り」「部活での反省記録」など、多様な活用場面が想像されている。

今回の実証実験を通じて、AIとの対話による振り返り支援が「授業理解の深化」と「言語化支援」において一定の効果を持つことが示された。授業の統合局面における"学びの統合・言語化の伴走支援ツール"として、本アプリを位置づけ展開していくことが妥当であると考えている。


アプリ開発の裏側――大学職員の挑戦

今回の取り組みでは、教員と開発会社の間に立ち、教員が授業で大切にされている考えを、生成AIアプリの対話として形にしていく役割を担いました。具体的には、教員との打ち合わせ内容やシラバスをもとに、自然言語によるシステムプロンプトを作成、AIの問いかけや深掘りの度合いなどを調整していきました。特に意識したことは、授業内容の確認にとどまらず、授業中のグループ活動や議論、実践を通じて得た気づきまで振り返れるようにすることです。

この授業では、第2回〜12回は講義とグループワークを通じて知識や手法を学ぶ回であるのに対し、第13・14回は学んだことを使ってピア・サポートを実践する回でした。そのため、AIの問いかけが同じではうまく機能しません。第2回〜12回では、キーワードや場面から学びを振り返れるようにし、第13・14回では「提供側」「参加側」の立場に応じて経験をたどりながら振り返れるようにするなど、AIの対話の入口や流れを設計し分けました。

また、開発段階では、問いかけは1応答につき1つに絞り、AIが学生の考えを勝手に解釈したりしないよう制御するなど、あくまで「学生の考えを引き出す伴走者」として機能するよう調整しました。授業開始後も、学生の利用ログを確認し、想定外の使われ方に対処しつづけることで、授業の目的に沿った使い方がなされるよう改善を重ねました。

今回の実証実験を通じて、生成AIの教育活用では、機能そのもの以上に、授業の意図に合わせて対話を設計し、運用のなかで育てていくことが重要だと実感しました。

立命館大学教学推進課 落合弘望


実施概要

対象授業 ピア・サポート論(中島英博教授)2クラス
対象期間 2025年度秋学期
対象者 受講登録者200名のうち実証実験協力同意者(アプリ①71名、アプリ②38名)
アンケート回答者 アプリ①28名、アプリ②21名

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