すばる望遠鏡が発見した特異なクエーサー 「バーベキューソース」― 超巨大ブラックホール進化の途中段階か ―
■研究概要
立命館大学理工学部の鳥羽儀樹准教授が所属する、東北大学の研究者を中心とする研究チームは、すばる望遠鏡の超広視野多天体分光器「オーノヒウラPFS」を用いて、これまでにない特異な性質を持つクエーサー(超巨大ブラックホールが明るく輝く天体)を発見しました。「BBQSORS (バーベキューソース)」と名付けられたこの天体は、電波とX線で強く輝く一方で、可視光では通常と異なる特徴を示していました。研究チームは、この天体が、近年ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡 (JWST) によって多数発見された「リトル・レッド・ドット (小さな赤い点)」と呼ばれる天体から、通常のクエーサーへと進化していく途中段階にある可能性を示しました。この発見は、超巨大ブラックホールがどのように成長し、その周囲の環境を変化させながら進化していくのかを理解するうえで、重要な手がかりになると期待されます。
■研究の背景
銀河の中心には、太陽の数百万倍から数十億倍以上の質量をもつ超巨大ブラックホールが存在すると考えられています。ブラックホールが周囲のガスを活発に取り込んで成長しているとき、ガスは強く熱せられて非常に明るく輝きます。このように銀河中心が強く光っている状態を「活動銀河核」と呼び、その中でも特に明るいものを「クエーサー」と呼びます (図1)。
しかし、こうした超巨大ブラックホールがどのように誕生し、母銀河のガスを取り込みながらどのように急速に成長したのかは、現代天文学の大きな謎の一つです。
その謎を考える上で近年注目されているのが、「リトル・レッド・ドット(LRD)」と呼ばれる天体です。LRDは120億年以上前の初期宇宙で、JWSTによって多数発見された、赤く小さく見える天体です。超巨大ブラックホールが活発に成長している姿だと考えられていますが、通常のクエーサーとは異なる特徴を示します。
その一つが、比較的低温のガスが放つ光に似た特徴です。通常のクエーサーは青白く高温な光を放っていますが、LRDは5000度程度のガスが放つ光に近い特徴を示します。研究者たちは、LRDでは銀河中心の超巨大ブラックホールが非常に濃いガスに包まれており、そのガスが中心からの強い光を吸収して、別の波長の光として放ち直している可能性を考えています。
このような「厚いガスに覆われた段階」は、超巨大ブラックホールが急速に成長する初期の姿を知る重要な手がかりになると期待されています。
■研究の内容
今回研究チームが報告した BBQSORS(注1) は、もともと電波で明るいクエーサー候補として見つかっていました。その正体を明らかにする決め手となったのが、すばる望遠鏡の新しい観測装置「オーノヒウラ PFS」です。オーノヒウラPFS は、約2400本の光ファイバーによって、広い天域に散らばる多数の天体の光を同時に調べることができる、すばる望遠鏡のユニークな分光装置です。
さらに、オーノヒウラPFSでは、観測時に空いている光ファイバーを活用して、別の観測対象も同時に観測する「フィラー観測」という仕組みがあります。BBQSORSのデータは、この柔軟な観測方法によって得られました。
PFSによる観測の結果、BBQSORSはブラックホール周辺の高速なガスに特有の光を示しており、約100億光年彼方にあることが分かりました。さらに、その光は、通常のクエーサーと異なり、約1万度のガスが放つ光に似た特徴を持つことも明らかになりました(図2)。
さらに研究チームは、紫外線から赤外線までのさまざまな観測データを組み合わせて解析しました。その結果、BBQSORSは、LRDに似た特徴を持つ一方で、LRDよりも高温のガスに覆われている可能性を示していました。
つまりBBQSORSは、「厚いガスに覆われた若い超巨大ブラックホール」(LRD)が、周囲のガスを吹き払いながら、ブラックホール周辺の強い活動が見える通常のクエーサーへ変化していく途中を見せているのかもしれません(図3)。この解釈が正しければ、BBQSORSは、厚いガスに覆われた段階から通常のクエーサーへと移り変わる過程を捉えた、貴重な候補天体といえます。
今回の成果は、オーノヒウラPFS が多数の天体を効率よく観測できるだけでなく、こうした珍しく重要な天体を見つけ出し、その性質を明らかにできることを示した点でも重要です。また、フィラー観測という柔軟な運用が、想定外の重要な天体の発見につながることも示されました。
■将来の展望
今後、PFS による大規模な観測が進めば、BBQSORS に似た天体がさらに見つかり、超巨大ブラックホールがどのように成長して通常のクエーサーになっていくのか、その進化の流れがより明確になると期待されます。
論文の責任著者の一人である東北大学の市川幸平准教授は「今回の発見は、オーノヒウラPFS のような広視野分光装置が、これまで見過ごされてきた特異なブラックホール成長段階の天体を見つけ出す力を持つことを示しています。今後、同様の天体をさらに探査することで、LRDと通常のクエーサーをつなぐ進化の姿を詳しく検証していきたい」と語ります。
本研究成果は、米国の天体物理学専門誌 『アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ』に2026年6月3日付で掲載されました。
■論文情報
掲載誌:The Astrophysical Journal Letters
掲載日:2026年6月3日付
著者:Yuxing Zhong, Xiaoyang Chen, Kohei Ichikawa, Youwen Kong, Kentaro Aoki, Satoshi Yamada, Tohru Nagao, Daisaburo Kido, Toshihiro Kawaguchi, Yoshiki Matsuoka, Toru Misawa, Shoichiro Mizukoshi, Masafusa Onoue, Ayumi Takahashi, Yoshiki Toba
題名:Blackbody Quasar and Radio Source (BBQSORS): A Candidate of Transitional Little Red Dots with a T ∼ 10^4 K Blackbody Spectrum”
DOI:10.3847/2041-8213/ae633b.
本研究成果は、科学研究費補助金(課題番号: 25K01043)、JST創発的研究支援事業 (JPMJFR2466)、稲盛財団研究助成によるサポートを受けています。
■注釈
(注1)BBQSORSは、「Blackbody Quasar and Radio Source」の略称です。



