「硫黄で呼吸する微生物」の謎を解く酵素を発見~通常は「終了」を示す遺伝子暗号から見つけた、未知のセレン酵素の機能を解明~
立命館大学生命科学部の三原久明教授/RARAフェロー、松村浩由教授/RARAアソシエイトフェローらの共同研究グループは、細菌「G.sulfurreducens※1」から、微生物が元素状硫黄※2を利用してエネルギーを得る「硫黄呼吸※3」に必要な未知の酵素「MccSep」を発見しました。さらに、この酵素が通常はタンパク質合成の終了を示す遺伝子暗号「UGA ストップコドン」を読み替えることで作られていることを明らかにしました。
本件のポイント
- 通常は「タンパク質合成の終了」を意味する遺伝子暗号「UGA ストップコドン」を手がかりに、これまで知られていなかった酵素「MccSep」を発見。
- MccSepが、微生物が元素状硫黄を利用してエネルギーを得る「硫黄呼吸」に必要な酵素であることを明らかにした。
- MccSepとよく似たタンパク質が、海洋、淡水、地下水、海底熱水噴出孔などの水圏を中心とする多様な環境細菌に広く分布することを確認。
研究成果の概要
本研究グループは、通常はタンパク質合成の終了を指示する遺伝子暗号「UGA ストップコドン」を、セレノシステイン※4を指定する暗号として読み替える※5ことで、未知のセレン酵素「MccSep」が合成されることを発見しました。さらに、X線結晶構造解析、生化学的解析、遺伝学的解析を組み合わせることで、MccSepが元素状硫黄を利用してエネルギーを得る「硫黄呼吸」に必要な酵素として機能し、硫黄を還元するメカニズムを明らかにしました。
本成果は、長年仕組みが不明だった硫黄還元細菌の「硫黄呼吸」を支える酵素を明らかにするとともに、通常のゲノム解析では「終止」と判定され、見落とされてきた領域にも、生命活動に重要な機能を持つタンパク質が隠れていることを示した成果です。本研究成果は、米国科学振興協会(AAAS)が発行する国際学術誌『Science Advances』に8月27日付で掲載されました。
図1 MccSep発見の経緯 通常は翻訳終了を指示するUGAコドンをセレノシステインとして読み替えることで、セレン酵素MccSepが作られる。
詳細は、以下のプレスリリースをご覧ください。
https://www.ritsumei.ac.jp/profile/pressrelease_detail/?id=1324
三原教授のコメント
この研究の出発点は、2007年に「ストップコドンのなかに、まだ知られていないアミノ酸やタンパク質が隠れているのではないか」と考えたことでした。その探索で見つかったMccSepは、セレノシステインと複数のヘムを併せ持つ、これまで見たことのないタンパク質でした。当初はその珍しい構成に注目していましたが、研究を進めるなかで、MccSepの由来細菌であるG. sulfurreducensが元素状硫黄を利用して呼吸することに着目し、長年不明だった硫黄還元の仕組みにたどり着きました。
現在は、2007年当時とは比較にならないほど多くの微生物ゲノムが蓄積されています。ゲノム中の「止まれ」という暗号を別の視点で読み解くことで、まだ多くの未知の生命機能が見つかると期待しています。
用語説明
- ※1 Geobacter sulfurreducens:酸素のない環境で生育する嫌気性細菌。鉄などの金属を還元する能力でよく知られていますが、元素状硫黄を還元して呼吸する能力も持ちます。
- ※2 元素状硫黄:硫黄原子だけからなる物質。S8分子が最も安定。黄色い固体として知られ、火山、温泉、海底熱水域、堆積物などに存在します。水に溶けにくい性質があります。
- ※3 硫黄呼吸:酸素の代わりに元素状硫黄などを最終電子受容体として利用し、エネルギーを得る微生物の呼吸。元素状硫黄を利用する場合、主に硫化水素が生成します。
- ※4 セレノシステイン:セレンを含むアミノ酸で、「21番目のアミノ酸」と呼ばれます。通常はストップコドンであるUGAが、特殊な翻訳機構によってセレノシステインとして読み替えられます。
- ※5 ストップコドンの読み替え:ストップコドンは通常、タンパク質合成を終了させる暗号です。しかし、特定のmRNA構造や翻訳因子が働くと、UGAはセレノシステインを指定する暗号として読み替えられます。



