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  • ISSUE 27:
  • 記憶と記録

ヒトの起源はどこに求められるのか

アーキアに記録されている進化の記憶

竹俣 直道生命科学部 准教授

    sdgs07|sdgs09|

地球上のすべての生命は、真核生物とバクテリア(真正細菌)、そして真核生物の起源になったとされるアーキア(古細菌)の3系統に分類される。竹俣直道は最新のゲノム解析技術を駆使して、アーキアの本質を解明する研究に取り組んでいる。

アーキアとはどのような生物なのか

アーキアはバクテリアと同じく、単細胞で核膜を持たない原始的な生物である。その多くは深海や熱水噴出孔、塩分濃度の高い塩湖などの極限環境にいる。アーキアは1977年、アメリカの微生物学者カール・ウーズらによって独立した系統として提唱され、さらに1990年には生物をバクテリア、真核生物、アーキアの3ドメインに分類することが提唱された。

「アーキアに興味を持ったのは、分裂酵母をテーマとする博士論文に執筆めどが付いたタイミングでした。ちょうどその頃、メタゲノム解析によって存在を確認されたアーキアの中から、真核生物に近いものが見つかったという論文が発表され話題になっていたのです。真核生物はヒトを含む複雑な生物のグループであり、そこにアーキアが繋がっているというのは非常に興味深いことです。当時の自分は長大なゲノムDNAが細胞内でどう収納されているかに興味を持っており、このテーマをアーキアで研究してみたら面白いのではないかと思いつきました」

アーキアが見つかったのは約半世紀前で、まだ日が浅い。それでも真核生物の起源としての可能性が指摘されるようになり、様々な研究成果が相次いで発表されている。最近では腸内細菌と同じように、ヒトの体内にいるのではないかと考えられるようにもなってきている。竹俣もアメリカでのポスドク時代に研究室のボスが「何らかの病気を引き起こすアーキアを見つけたら、すごい発見になるぞ」と語っていたのを覚えているという。

「最近では九州豚骨ラーメンの風味に超好熱アーキアが関わっているといった研究論文も出されているようです(※)」

見えてきたヒトへとつながる進化の軌跡

特にアーキアに注目が集まり始めたのは、2015年からだ。この年、後に真核生物に近いといわれるようになるアスガルドアーキアが発見された。実際にゲノムが解析された結果、それまで真核生物にしか存在しないと考えられていた遺伝子のセットを、アスガルドアーキアも数多く備えているのが明らかになった。

「この発見を契機に改めて生物種の系統解析が行われた結果、アーキアのグループの中から真核生物が誕生したのではないかと考えられるようになっていったのです。真核生物には、エネルギー(ATP)を産生する細胞内小器官のミトコンドリアが備わっています。ミトコンドリアはもともとバクテリアの一種でしたが、真核生物の祖先がこれを細胞内に取り込んで共生した結果、ミトコンドリアが生まれたとされています。現在では、アスガルドアーキアないしそれに近いアーキアがこの共生のホストとなったという説が有力視されています」

ただし、仮にアーキアがミトコンドリア(バクテリアの一種)を取り込んだとして、それがいつ頃の話なのか、また偶然なのか必然だったのかはわからない。アーキアから真核生物がいかに誕生したかを理解するためにはアーキア自体の基礎的理解が不可欠だが、アーキアの研究は真核生物やバクテリアの研究に比べて大きく遅れており、まだわからないことばかりだ。竹俣らは、このようなアーキアのゲノム三次元構造を研究する過程で、アーキアの染色体の中には、真核生物と同様AコンパートメントとBコンパートメントと呼ばれる3次元構造が存在することを明らかにした。

「真核生物にはAコンパートメントとBコンパートメントと呼ばれる領域があります。生命の設計図であるゲノムの中の遺伝子は全てが一様に使われているわけではなく、細胞のタイプや状態によってある遺伝子は活発に機能する一方、他の遺伝子の機能は抑えられています。そして真核生物では、活発に機能する遺伝子領域はAコンパートメント、不活発な領域はBコンパートメントという別々の空間領域を占めます。この事実は2009年にHi-Cという分析手法を開発した、エレズ・リーバーマン・エイデンによって明らかにされました。アメリカでポスドクをしていた2019年に、このHi-C手法を使ってSulfolobusというアーキアを分析してみたところ、真核生物と同じようにA・Bコンパートメントを見つけたのです(『Physical and Functional Compartmentalization of Archaeal Chromosomes』https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(19)30955-9)。」

Sulfolobusアーキアのゲノム三次元構造の模式図(Takemata et al., Cell, 2019より引用)

高温環境で生き抜くためのメカニズム

生命の遺伝情報はDNA、すなわちATGCの4種類の塩基からなる二重らせん構造に収められている。DNAの塩基配列は、生体を構成する各部品(主にタンパク質)の設計図として機能しており、各設計図は遺伝子と呼ばれる。遺伝子を読み取ってタンパク質を合成する際には、二重らせん構造がいったん解かれて、必要な部分がRNAに写し取られ、それを元にタンパク質がつくられる。このRNAをつくる過程(転写)は、転写因子と呼ばれるタンパク質によって制御されている。

「これら一連のメカニズムは、バクテリアを含めてすべての生物に備わっています。ただ、転写に使われるタンパク質をみると、アーキアと真核生物が似ているのです。もっともヒトの遺伝子の内、タンパク質の設計図として機能しているのは約20,000個ですが、アーキアでは数千個レベルとされていて、それも詳しくはまだわかっていません」

遺伝子の数はともかく、遺伝情報を確実に次の世代に伝えなければ種としての生存が難しくなる。その多くが極限環境に暮らすアーキアは、遺伝情報をどのように保っているのか。遺伝情報を担うDNAは、一般に熱に弱い。高温環境で生きるアーキアは、熱に対してDNAを安定して保たなければならない。そのためアーキアは、DNAの二重らせん構造に特有の分子構造を発達させている。

「真核生物の場合、二重らせん構造は右巻きでそれほどキツく巻かれていません。なぜなら転写する際にはいったんらせん構造を解く必要があるため、強く巻かれていると解きにくくなるからです。このような状態のDNAに熱が加わると、らせん構造がほどけてしまって遺伝情報の読み取りや複製に支障が出たり、最悪の場合は切れてしまったりする。そうなるのを防ぐために、高温環境に住むアーキアは特定の酵素を使ってDNAを強くねじってほどけにくくするのです」

この酵素はリバースジャイレースと呼ばれる。リバースジャイレースは、80℃以上の高温環境で高い増殖能を示す超好熱生物に共通してみられるため、高温環境に耐えるための鍵になる酵素と考えられてきた。ただし、それが実際にどのように機能しているのかは不明だった。この問題を解き明かしたのが竹俣らであり、その研究成果は2025年12月にプレプリント論文『Reverse gyrase and 3D genome architecture suppress hyperthermophile genome instability arising from horizontal gene transfer』として発表されている。

「アーキアの一種であるThermococcus kodakarensisを使い、リバースジャイレースの遺伝子を破壊した細胞を作りました。そして通常温度とより高温の条件でDNAの状態を比較すると、通常温度では大きな変化はみられなかったものの、高温では明らかな異常が観察されたのです」

アーキアのゲノムが教えてくれる新しい世界

リバースジャイレースの研究からは、ほかにも意外な事実が明らかにされている。リバースジャイレースを破壊すると、DNAが全体的に影響を受けるのではなく、特にダメージを受けやすいDNA領域がある。これは進化的にあまり保存されていない遺伝子領域である。

一般的に熱に弱いのは、遺伝子を構成するATGCの中でもATの領域であり、これは以前からよく知られた事実だ。アーキアのリバースジャイレースは、このATの多い領域を重点的に安定化してゲノム全体の破綻を防いでいる。

「アーキアについては、まさに今さまざまな新しい事実が相次いで発見されているところです。逆にいえば、現時点ではわからないことが多すぎる状態ともいえます。アーキアの全体像を塗り絵に例えるなら、まだ塗りつぶせているところはごくわずかでしょう。これから研究を進めて、いろいろな部分を塗っていけるようになれば、ある程度全体のビッグピクチャーを描けるようになると期待しているのですが、まだ先は長そうです」

こう語る竹俣にはもう一点、関心を持っているテーマがある。それは真核生物などほかの生物にはまったくみられない、アーキアに特化してみられる現象の追究である。アーキアとひとくちにいっても、多くの種類があり、それらはまだ機能がまったく解明されていない遺伝子を持っている。

アーキアの多くは高温環境で生きている状況を踏まえるなら、過酷な環境の中で生き延びるためのユニークな遺伝子を持っているケースが想定される。

「そのような遺伝子の中には特殊な機能を果たすものがあり、それを解明できれば、あくまでも可能性のレベルですが、ヒトに対する医療に応用可能な技術や物質が見つかるかもしれません。たとえばコロナ禍のときに活躍した技術であるPCRは、熱に強い丈夫なDNA合成酵素が利用されるようになったことで広く普及しました。このことを考えると、高熱環境で生きているアーキア由来の耐熱性酵素にも新たな応用が期待されます」

真核生物につながる記憶を秘めているアーキアには、ヒトの役に立つ生き物となる可能性も秘められているようだ。

※「昔ながらの九州豚骨ラーメンの風味生成には超好熱アーキアが関与する」
https://doi.org/10.3136/nskkk.NSKKK-D-25-00049

竹俣 直道TAKEMATA Naomichi

生命科学部 准教授
研究テーマ

アーキアゲノムの構造とその機能

専門分野

分子生物学、微生物学