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  • ISSUE 21:
  • 脱炭素

バイオ炭を活用したカーボンマイナスで脱炭素社会の実現を目指す

カーボンマイナスを実現するビジネス・エコシステムをデザイン

依田 祐一経営学部 教授

    sdgs13|

立命館大学に「日本バイオ炭研究センター」が設立され、バイオ炭を活用したカーボンマイナスの社会実装に向けた取り組みが本格始動した。依田祐一は、経営学の知見を活かし、社会実装の全体イメージとしてプラットフォーム及びビジネス・エコシステムを設計。脱炭素社会の実現に寄与すべく、取り組みを推進している。

バイオ炭を活用したカーボンマイナスを社会実装

2022年11月、バイオ炭を活用して地球温暖化防止に役立つカーボンマイナスを社会実装するための拠点として「日本バイオ炭研究センター」が開設された。ここからバイオ炭によるカーボンマイナスのプラットフォーム及びエコシステムを構築及び推進する取り組みが、本格的に動き出した。

地表上のCO₂を減らすためにはCO₂排出量を低減するだけでなく、地表上のCO₂を除去する必要がある。バイオ炭は空気中のCO₂を長期にわたって固定化できることから、炭素除去に資する有効な方法として「2019年改良IPCC(気候変動に関する政府間パネル)ガイドライン」にも認められている。2020年9月には「バイオ炭の農地施用」が、日本政府が認証するJ-クレジット制度の対象になり、温室効果ガスの削減量や吸収量を環境価値として取引できるカーボンクレジットとして認められた。「これも追い風となり、いよいよバイオ炭の社会実装を進めることになりました」と、同センターの副研究センター長を務める依田祐一は明かした。

ビジネス・エコシステムをデザインし、社会実装の全体像を可視化

依田は社会実装の全体像として、バイオマス資源から生成されるバイオ炭及びJ-クレジットなどの流通を促すことにより、脱炭素社会を目指すプラットフォームおよびビジネス・エコシステムを設計した。「プラットフォームとは、新たな価値創造の基盤を指します。その本質には、経済学で言う正の外部性である市場を介さずに互いが影響し合い、正の効果を生むネットワーク効果と、多様な主体の結合による価値の創発があります。またビジネス・エコシステムとは、生物学のエコシステム(生態系)のコンセプトを経営学に取り込んで生まれた概念で、価値創造システムであり、全体的な戦略観と考えることができます」。依田はこうした経営学におけるプラットフォーム戦略とビジネス・エコシステム戦略を援用し、抽象的なモデルを描いた。

なぜこうしたモデルを示す必要があるのか。依田はその意義を「エコシステム全体と参加者それぞれが担う役割を可視化することにある」と説明する。「それによって価値創造システムの全体像と戦略観を参加者全員で共有することが可能になります。人の認知には限界があり、自らの取り組みが及ぼす影響をすべて見通すことは困難な場合があり、モデルがあれば、自分の役割を認識し、また誰と関わる必要があるのかを把握できます。これにより参加者は互いに連携を深め、各取り組みを拡張していけるわけです。また他組織がこのモデルを参考にして社会実装を推進する場合の見本にもなり、日本全体でバイオ炭によるカーボンマイナスに貢献する可能性が生まれます」

組織化と情報化を進め、エコシステムの拡張を目指す

依田が描いたビジネス・エコシステムは、プラットフォームを介してバイオ炭の提供サイドと活用サイドに分けられる。提供サイドには、生産サイド(バイオ炭生産販売者)と貯留サイド(バイオ炭を施用する農家・農業法人など)を設定する。生産サイドで未利用のバイオマス資源を原料に、製炭やバイオマス発電の副産物としてバイオ炭を生産し、それを貯留サイドの農家や農業法人が農地に施用し、炭素貯留を行う。ここでカーボンマイナスを実現する。

一方の活用サイドには、カーボンオフセット活用サイド(企業・団体など)とブランド活用サイド(環境保全農作物を使う飲食業・小売業や食品製造業者)を置く。カーボンオフセット活用サイドでは企業・団体が炭素クレジットを購入し、自社のカーボンオフセットに利用する。「『環境を守る』事業を志向する企業が増えてきたことに加え、金融市場でもESG投資が増加するなど、サステイナブルな企業であることが重視されるようになっています。さらにカーボンプライシング等の脱炭素を促進する政策、将来的にカーボンニュートラルな製品の価値が上がっていくことも予想され、今後カーボンオフセットのニーズがますます高まっていくと考えています」と言う。またブランド活用サイドでは、土壌改良機能もあるバイオ炭を施用した農地で生産した農産物をブランド化し、飲食業や小売業を通じて消費者に提供する。

さらにビジネス・エコシステムをより機能化するために、各参加者をつなぎ、エコシステムの成長を促進するプラットフォームを設定。バイオ炭の品質証明や炭素クレジットのサポートや仲介、カーボンマイナス量の定量化とデータベース化、環境保全農作物ブランド管理などを担う仕組みを設計した。

「モデルを構築したら、社会実装に向けて重要になるのが、組織化です」と依田。産官学民と連携し、2022年12月に日本バイオ炭コンソーシアムを設立。研究センターが推進役となって企業・団体、農家などと連携し、各役割を担う参加者の組織化を進めていると語った。

さらにビジネス・エコシステムを効果的に推進していく上で不可欠なのが、デジタル技術を活用した情報システム化だという。「バイオ炭の農地施用によるカーボンマイナス量を緻密に定量化し、データベースに蓄積します。それだけでなくバイオ炭をどこで誰が生産し、どの農地に施用したのか、またその炭素クレジットの購入先までトレーサビリティシステムも構築し、それをWEB上に可視化します。デジタル技術を駆使したDXをテコにGX(Green transformation)を推進するのです」

依田の描くモデルのユニークな点は、それがローカルなビジネス・エコシステムであるところだ。バイオ炭の生産から施用、農産物の消費は地域・農業振興の観点からも、またCO₂排出などの環境面や経済面からも地域での実装が望ましい。それでいて炭素クレジットを通じてグローバルにも価値の共有ができる可能性を秘めている。「地域特性に応じた地域モデルをつくって全国に水平展開するとともに、生産された農産物やクレジットを活用する参加者のマーケティング活動を通じてグローバルに展開していくことも見据えています」と依田。脱炭素社会実現を目指し、プラットフォーム及びビジネス・エコシステムのさらなる拡張を進めていく。

カーボンマイナス・エコシステム

関連サイト

依田 祐一YODA Yuichi

経営学部 教授
研究テーマ

1.企業変革における情報システムのマネジメントに関する研究 -ISのフレキシビリティと戦略的拡張性-、2. バイオ炭の貯留によるカーボンマイナス・プラットフォームとビジネスエコシステムの社会実装、3.顧客価値を創造するビジネスシステムとそれを支える情報システムのマネジメントに係る研究

専門分野

経営学、情報学フロンティア「ウェブ情報学・サービス情報学」