産業廃棄物の資源化によるサーキュラーエコノミーの推進に貢献 シリコン廃棄物の活用を見据えた新しい還元プロセスの実証に成功
立命館大学理工学部の山末英嗣教授らの研究チームは、黄リン(白リン)※1製造において従来の高温炭素還元法を革新しました。半導体製造の過程で発生するシリコンスラッジ(微細な粉末状のシリコン廃棄物)※2を還元剤として用いることで、1273K(約1000℃)で91.4%の揮発率を達成し、従来法に比べて約400℃の低温化と副生成物の排除に成功しました。これにより、エネルギー消費を大幅に削減し、純度の高い黄リンを選択的に生成できることが示されました。本研究成果は、国際学術誌“ACS Sustainable Chemistry & Engineering”に掲載されています。
本件のポイント
- 黄リン製造における劇的なプロセス温度の低温化と、高純度な生成物の選択物回収に成功
- 廃棄物であるシリコンスラッジを価値ある還元剤に変える―“「廃棄物」を「資源」へ”
研究の背景
世界のリン需要は増加していますが、その原料であるリン鉱石や黄リンの供給は特定の国に偏在しており、地政学的リスクによる供給不安が常に存在しています。特に、半導体製造や医薬品、リチウムイオン電池の電解液に不可欠な「黄リン」は、従来の乾式製造法において1500℃以上の高温加熱が必要であり、大量のエネルギー消費とCO₂排出が深刻な課題となっていました。さらに、従来の炭素を用いた還元法(Carbothermic reduction)では、不純物の生成を抑えるために適切な温度制御が必須であり、これが脱炭素化を阻む大きな障壁となっていました。一方で、半導体産業からはシリコンウエハの切断工程で大量のシリコンスラッジ(廃棄シリコン)が発生し、また、使用済み対応電池から回収される廃棄シリコンも有効なリサイクル手法の確立が急務となっていました。
研究の内容
研究チームは、半導体製造過程で発生するシリコンスラッジが、従来の還元剤である炭素(コークスなど)よりも高い還元能力を持つことに着目しました。実験では、リン鉱石の代わりとなるリン酸塩を用い、シリコンスラッジの模擬材として純シリコンを混合し、加熱実験を行いました。その結果、以下の成果が得られました。
- 劇的な低温化の実現:従来の炭素還元では約1773K(1500℃)以上が必要とされていた反応が、本手法(シリコン還元法:Silicothermic reduction)では1273K(1000℃)で進行し、91.4%という高い揮発率で黄リンを回収できることを実証しました。約400℃の低温化は、製造エネルギーの大幅な削減を意味します。
- 高純度な生成物の選択的回収:SRセンターによるX線吸収微細構造(XAFS)解析※3の結果、従来法の中温域(873–1273K)で問題となっていた有機リン化合物などの有害な副生成物が検出されず、極めて純度の高い黄リンが選択的に生成されていることが確認されました。
社会的な意義
本研究成果は、環境、資源、経済のトリレンマを解決する画期的な技術として、産業廃棄物の資源化によるサーキュラーエコノミーの推進、CO₂排出ゼロ化、そしてリン供給の安定化に貢献し得る可能性があります。
- 「廃棄物」を「資源」へ:処理に困っていたシリコンスラッジを価値ある還元剤に変えることで、真のサーキュラーエコノミー(循環型経済)を実現します。
- 脱炭素社会への貢献:化石燃料由来のコークスを使わず、かつプロセス温度を大幅に下げることで、CO₂排出量を抜本的に削減できる可能性があります。
- 経済安全保障の強化:半導体産業などの国内廃棄物を活用し、輸入に依存している重要鉱物(黄リン)を国内で製造・リサイクルする道筋をつけることで、日本の資源自律性を高め、産業競争力の維持・強化に直結します。
研究者のコメント
リンは生命にも産業にも不可欠な元素ですが、その枯渇と偏在、そして製造時の環境負荷は人類共通の課題です。本研究は、これまで厄介者扱いされていた産業廃棄物(シリコンスラッジ)が、実はこのリン製造の課題を解決する『鍵』になることを示しました。数千年来変わらなかったリン製造の歴史を塗り替えるこのプロセスは、資源循環と脱炭素を両立させる切り札になると確信しています。今後は実用化に向けたスケールアップ研究を進め、持続可能な社会の実現に貢献したいと考えています。
論文情報
- 論文名:A Promising Silicothermic Route for Low-Temperature, Byproduct-Free Production of White Phosphorus Using Silicon Waste
- 著者:Shunsuke Kashiwakura, Ami Okamoto, Shoki Kosai, Masaru Takizawa, Eiji Yamasue
- 発表雑誌:ACS Sustainable Chemistry & Engineering
- 掲載日:2025年12月11日(木)
- DOI:https://doi.org/10.1021/acssuschemeng.5c07921
- URL:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acssuschemeng.5c07921
用語説明
- ※1 黄リン(白リン)
リンの同素体の一つ。化学式P₄で表される。反応性が高く、半導体エッチング剤、農薬、医薬品などの原料として広く産業利用されている重要な物質。空気中で自然発火するため水中保存される。 - ※2 シリコンスラッジ
シリコンインゴットをウエハ状に切断(スライス)する際に発生する切削屑。シリコンと切削油などが混ざった泥状の廃棄物で、高純度なシリコンを含んでいるにもかかわらず、再利用が難しく埋立処分などがなされてきた。 - ※3 X線吸収微細構造(XAFS)解析
物質にX線を照射し、その吸収スペクトルを解析することで、特定の原子周辺の局所的な構造や化学状態を調べる分析手法。



