立命館大学薬学部の土肥寿文教授らの研究グループは、植物や微生物などの生物が作り出す化合物「天然物」に含まれる分子の化学構造(骨格)を、別の構造へ直接変換する新しい化学反応を開発しました。生体内で働くハロゲン化酵素の仕組みから着想を得て、従来は難しかった分子内の強固な結合の切断を、室温・弱塩基・金属触媒を使わない条件で実現しました。
 本手法により、パセリや柑橘類などの植物にも広く含まれる「クマリン骨格」を持つ化合物から、医薬品や農薬の原料として重要な「クマラノン骨格」を持つ化合物を直接合成することに成功しました。本成果は、天然資源を有効活用できる持続可能な化学合成法として期待されます。

本件のポイント

  • 生体内の酵素反応をヒントに、分子内の強固な結合を室温・弱塩基・メタルフリー条件で切断する新手法を開発
  • 天然に豊富に存在するクマリン骨格から、有用なクマラノン骨格へ直接変換することに成功
  • 従来必要だった希少な遷移金属触媒や多段階合成を不要にし、環境負荷の低減に貢献
  • 天然物を新たな化学資源として活用する道を開き、創薬や機能性材料開発への応用が期待

研究成果の概要

 天然物(植物や微生物など、生物が作り出す化合物)には、それぞれ特徴的な分子の化学構造である「分子骨格」が存在します。しかし、その骨格は安定しているため、別の骨格へ直接作り替えることは容易ではありませんでした。
 本研究グループは、生体内で働くハロゲン化酵素※1が特定の結合を切断する仕組みに着目しました。その働きに着想を得た化学反応として再現することで、天然物に広く存在するクマリン類を、医薬品などの原料としても利用される有用なクマラノン類へ直接変換することに成功しました。
 この反応は室温で進行し、化学反応を促進するための金属触媒を必要としません。また、多様な化合物に適用できることから、幅広い応用が期待されます。

図 図.天然クマリン骨格を起点とした脱カルボニル型骨格編集

詳細は、以下のプレスリリースをご覧ください。
https://www.ritsumei.ac.jp/profile/pressrelease_detail/?id=1326

土肥教授のコメント

 本研究は、ハロゲン化酵素の働きを模倣した化学反応の開発過程で生まれました。当初は分子が分解する反応を想定していましたが、ハロゲンの特性によって分解を回避し、骨格編集へと利用できることを見いだしました。予想を超えた発見が、新しい分子変換法の実現につながりました。

用語説明

  • ※1 ハロゲン化酵素:
    生体内で塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)などのハロゲン元素を有機化合物に導入する酵素。微生物や植物などに存在し、抗生物質や天然有機化合物の生合成に関与している。

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