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- “日本一を目指す。やるべきことを、やり抜くチームへ導く”
サッカー部 池上礼一監督 × 軟式野球部 学生監督 御園祐太さん
“日本一を目指す。やるべきことを、やり抜くチームへ導く”
サッカー部 池上礼一監督 × 軟式野球部 学生監督 御園祐太さん
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2024.08.10
9月中旬に開幕する関西学生サッカーリーグの後期に臨む体育会サッカー部の池上礼一監督と、8月18日から始まる全日本大学軟式野球選抜大会SUMMER CUPに挑む学生監督の御園(みその)祐太さん(経済学部4回生)が、監督業への熱い想いを語り合います。今年から指揮を執る池上監督と、昨秋から専任の監督に就き、体育会本部副委員長も務める御園さん。指導者としてのキャリアと競技の壁を越え、大学スポーツの魅力に始まり、選手の成長を促すマネジメント力やチームビルディングへの独自の取り組みなどを語り、初対面ながら最後は強いチーム作りへの一致点を見いだし、お互いに日本一を目指す意気込みを示します。
―まず自己紹介をお願いします。
池上:サッカーの指導歴は12年で、その間の9年間は大学サッカーの指導に関わってきました。41歳になりますが、幼い頃からサッカーに親しみ、将来は指導者になりたいという夢がありました。今は経験を積む機会をいただき、夢を叶えていく途中段階だと思っています。
御園:軟式野球部で1、2回生は選手でしたが、3回生の春に学生コーチとなり、秋から監督になりました。また、体育会本部に所属していて、副委員長として活動しています。もっと多くの学生に体育会を知ってもらい、体育会の学生にはさらに成長する機会を設けて、体育会の発展を目指しています。
競技の魅力を語る:サッカーと軟式野球の奥深さ
―それぞれの競技の面白さや特徴を教えてください。
池上:サッカーは「ずる賢いスポーツ」とも呼ばれ、得点がなかなか生まれないスポーツです。そのため得点までのパスワークだったり、個人技が見所の一つです。ピンチになると体を投げ出して守り、勝った時は全員の歓喜する輪が広がり、喜びを分かち合う所は、サッカーだけではなくどんなスポーツでも魅力だと思います。
御園:野球には2つの魅力があると思っています。1つ目はサッカーは1点ずつしか得点できませんが、野球は一発逆転が可能です。満塁ホームランなら4点が入り、負けていても逆転できるチャンスあり、見ていて楽しめる要素が多い。2つ目は作戦の幅広さと奥深さです。打って、取って、投げて、だけではなくて、走者が走って打者が打ったり、投手、捕手、走者の三者の駆け引きにも面白さがあります。監督が違うと野球が180度変わるのも魅力だと感じます。立命館大学には硬式、準硬式、軟式と3種類の野球の部活がありますが、一番マイナーなのが軟式です。軟式のボールは跳ねやすく、その特性を活かした作戦の立て方や、点の取り方もバリエーションが豊富です。
池上監督はプロ野球など、野球を見る機会はありますか?
池上:それがほとんどなくて…。
御園:例えばワンアウト、ランナーが三塁の場面を想定してください。硬式だと点を取るためにヒットを狙うなど、作戦の幅は狭くなりますが、軟式だとわざとポーンと高く跳ねる打球を放ち、三塁ランナーをかえす作戦が用いられます。
池上:跳ねるような? 打球が浮いている間に? ランナーが走る時間を作る!なるほどね。
御園:実は高校までは硬式をやっていたんですが、大学で軟式に転じて、このように作戦の幅の広さが面白いと感じています。
池上:その作戦は誰が立てるの?
御園:監督が主として考えてサインを出し、選手に伝えます。成功するか、失敗するか、この駆け引きも監督の面白さです。
池上:先ほど話したように、サッカーはずる賢い所があって、相手が休んでいる時に点を取ってしまうことがある。
御園:サッカーは好きでよく見ます。
池上:いかにスキを突くか、じらす時間を作るか。いつも相手を見ながら考えてプレーしています。
―次にチームの特徴を聞かせてください。
御園:軟式野球部は学生が主体となって運営しているので、チームの明るさが一つの特徴です。チームの一つの大きな目標が「日本一」で、これはチーム全体で共有していて選手に根付いてきている。楽しむ時は楽しくやるけど、「日本一」になるための練習を繰り返しています。私は関東出身で大学から関西に来ましたが、1人がミスをしても「何してんねん!」と、突っ込んだり、ふざけているわけではないけれど、学生だからこその明るさがあります。
池上:学生視点については、今日の対談で聞きたいことの一つでした。サッカー部はマネージャー、トレーナー含めて132人と多く、1人1人の個性も豊かで、それぞれの考え方、サッカー観、キャラクターがあるのに、自己表現など表になかなか出てこない印象を受けます。大人がいても姿勢を崩さず、高いパフォーマンスを出せる学生になってほしいのですが、そこまでなかなか氷が溶けていかない。チーム、そして私自身の課題であり、今のチームの特徴なのかもしれません。氷が溶ければ大きな力を出せる。関西のチームや学生は明るいし、元気もあるが、笑ってごまかしていたら必ず良くない結果に直結する。指導してきた関東の大学と比べると感じる所です。
御園:ミスをした時、どう対処するかは、監督を始めてから悩んでいることです。一つ心掛けているのは、一歩引くことを意識しています。軟式野球部は代々、最上級生が監督を務めるのですが、1学年上の監督は性格も明るく、チーム全体を盛り上げて士気を高めていく先輩でした。でも、普段からふざけていると、いざという時に強く言えない。同じ学生でも自分は監督なので、選手とは違う大人の立ち位置でやろうと心掛けました。勝つためなら嫌われてもいいと考えていて、言うことは言う。オンオフを切り替えています。
池上:仲間でありながら立場、役割を理解して一線を引くことに気付き、しっかり実行している。学生監督という役職が成り立つ要因だと思います。サッカー部では個性豊かな学生が多い中で、自分の経験値や肩書きなどで少し負い目を持っていて、自分から意見などを発信していないのかなと、憶測してしまうような学生が多くいるのも事実です。上級生は発信してぶつかっても話し合いで解決しますが、もっと思っていること、考えていることをチーム内で自分から発信してほしい。気になる所が解けていけば、1人1人の能力がもっと発揮されるはずです。
―一つ一つ解決していければ今後が楽しみです。
池上:立命館大学は伸びしろしかないです。日本一を取らないとまずいなと思います。恵まれた環境と条件があるので、指導する立場から見てとして日本一が必須だと思います。
学生監督の悩み、覚悟と挑戦
池上:ところで御園くんはどうして監督になったの?
御園:毎年、最上級生が監督になる伝統があります。投手をしていましたが、自分の力不足もありますが、けがをして思うようにプレーできず、最初は楽しく野球ができていたのに、投げられず結果を残せないことで、部活に行っても楽しくない時期が続きました。その中で監督をやる上での野球の知識や、周りを客観的に見る力を仲間から評価されて、同じ投手陣にアドバイスしたり、自分ができることを探しながらやっていると、次第に楽しく部活に参加できるようになりました。チームが勝つために一番、貢献できることは何か? 監督が最もチームに貢献できて、自分自身も成長できると決断したのが、2回生の冬でした。3回生の夏までは監督をサポートする学生コーチとしてアドバイスする役割を経た後、3回生秋から監督になりました。
池上:よく自分の中で割り切れたね。投げられないならやめようと思わなかった?
御園:仲間がいて部活に行くのは楽しかったんです。軟式野球部に入部した理由の一つに、高校3年の時、コロナ禍で夏の甲子園大会がなくなり、不完全燃焼で終わってしまって、もう一度本気で野球をやりたいと思って、雰囲気よく練習していたのが軟式野球部でした。けがをしても、もう一度このチームで勝ちかったので、やめようという考えはなかったです。
池上:選手を断念して監督になることに、仲間は賛同してくれた?
御園:はい。推薦がありました。野球の知識や作戦面を考えられ、客観的に物事を見ることができる所を評価してくれたのだと思います。
―軟式野球部の持ち味は何でしょうか?
御園:代が変わる、監督が変わると色が変わります。それが特徴だと思います。1つ下にも考え方があるので、どれだけ自分が意見を伝えたらいいか、悩んでいる所です。
御園:全国大会に出場するチームの監督は大人が半分、学生監督が半分というのが、私が見てきた感覚です。大人が監督をしているチームは統率されていて、やるべきことをしっかりやり、文化として根付いているとすごく感じます。私は1年で根づかせないといけなかったし、1つ下の代は本当にその文化がほしいと思っているのか、日々考えています。
池上:学生監督だからこそ、大人の監督のチームには絶対に負けたくないという思いがあるでしょう?
御園:はい。雰囲気の良さが自分たちの強みで、そこがストロングポイント。楽しんでやっているので、怒ったり、怒鳴ったりすることはありません。練習試合で大人の監督が選手と1対1でよく怒っている光景を見ます。それでは選手が萎縮します。自分たちで考えてチームを作れて、自分の色の野球をする所が強みです。
―大所帯で選手を起用する難しさはありませんか?
池上:サッカー部(男子)には学生コーチが3人いて、各カテゴリーを持っていて、日々の練習後もずっと出場選手について悩んでいます。もっと考えて選んだ方がよかったという後悔だとか、選んでおいてよかったという納得感など、考えれば考えるほど後で得るものがある。選手が疑問に思っても、学生コーチがそこまで深く考えているのが見え隠れすると、より頑張ろうとなり、考えた甲斐がある。大人でも大変なのに、学生となると本当に大変だと思う。避けて通れない所だけど…。
御園:起用したい選手が多くなればなるほどうれしい悩みですね。
今、お話があったサッカー部のカテゴリーについて聞かせてください。
池上:監督の私はAチームを見ていて、4回生の学生コーチ3人がB1、B2、Cと自分のカテゴリーを担当していて、監督の立場としてそれぞれ練習や紅白戦、試合のメンバー、選手の交代もすべて仕切ってやります。私はAチーム以外のカテゴリーの選手から、何かを尋ねられたら助言はするけど、学生コーチたちは御園くんと同じように悩みながら自分たちで考えてチームを見ています。
御園:昇格する時は学生コーチが推薦するのですか?
池上:はい。コーチ同士が客観的にディスカッションし、1人1人の選手の昇格や降格、けが人が出た場合はどうするか、今週、来週の試合のメンバーをどうするか、ギリギリまで考えています。学生コーチから聞かれたらアドバイスはするけど、学生コーチの意見を尊重し、指導者としての経験を積んでほしいと思っています。降格した選手については見えない場所で、理解できているかどうか、本人と話はしています。学生コーチは考え方や境遇は違うけど、指導者の立場として学生スポーツを支えてくれています。試合に負けた時は、その学生コーチが悔しさで泣いている。この涙を見て選手がどう思うかです。
―選手に思いを伝える難しさですね。
御園:日本一になりたいという思いを人一倍持っていて、考えていることが伝わらずにショックを受ける時があります。
池上:そういう時があるね。自分がチームや選手のことをどれだけ考えているとか、そんな話はしないのかな。
御園:言いません。私のためにやるんだと、思わせたくないんです。皆、日本一を目指すために頑張っていて、自分は日本一になるために手助けしているけど、そういうことを口にすると雰囲気も悪くなる。自分は目立ちたいタイプではなく、裏方で頑張るような性格ですから。
―両監督の話を聞いていると、学生がプレーや応援するだけではなく、裏方でサポートしたり、マネジメントする重要性を感じます。
御園:大学スポーツの特徴は自由度が高いことだと思います。ただ競技するだけはなく、もっとチームにプラスになるように考える時間と自由度があるのが、一番楽しめる部分だと考えています。周りにどのような影響を与えていくか、自分自身で考えることが楽しくて、それが自分自身の成長にもつながる。大学の体育会に入ったからには、肩書きは関係なく、ぜひそこにチャレンジしてほしい。
指導者としての信念
―指導する上で大切にしていることは何でしょうか。
池上:一生懸命やることの基準を上げることです。各自、一生懸命やるのですが、ある意味、漠然としていて、一生懸命やっているのは分かるけど、これで本当に日本一になれるか。この倍やらないといけないのに、そこで妥協してしまうようなケースをよく見てきた。そこを伝えるのが自分の役割。基準を上げることが課題だと認識しています。
御園:自分が練習メニューを組んでいて難しいと思うのは、やらされている練習は意味がなく、日本一になるために自分からやるのとは違う。上から強制される練習は自分も選手も嫌だし、この点は学生監督として特に強く感じる部分です。池上監督のような指導経験がないので、日本一への取り組ませ方が難しい。
―選手に対する説得力、伝え方の部分で感じる所はありますか。
御園:学ぶことをやめたら終わりだと思っています。チームマネジメント自体、初めての経験なので、バスケットボールなど競技や視点を変えて本を読んでマネジメント力について勉強をしました。また、体育会本部の活動がきっかけで同志社大学のフレッシャーズキャンプへ行く機会があり、昨年、野球のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で優勝した侍ジャパンの白井一幸ヘッドコーチにも話を聞きました。他大学の監督にも色々と尋ねたことがあります。
池上:情報収集だね。本や指導者で影響を受けたことはありましたか。
御園:白井さんの1つのワードが心に残っています。「日本一になるチームは、日本一になる前に、日本一の取り組みをしている」。池上さんのお話のように運もあるけど、白井さんは「日本一の練習を毎日積み重ねると、日本一になれる確率は上がる。確率を上げるのが練習だよ」と。これを1つの文化、カルチャーとしてしつこく植え付けています。
池上:どんな時に今の言葉を話すの?
御園:練習開始前のミーティングです。「日本一」を口酸っぱくすり込んでいます。
池上:それで変化はあった?
御園:うれしかったのは選手から「日本一」のワードが出てきたことです。練習に対する姿勢や、チームの統一感を持って練習できていると思います。
池上:それは素晴らしいね。
今後にむけて
御園:全国大会は夏と秋に年2回あるのですが、入部してから毎年出ています。でも、全国では勝てないという流れが続いていて、ベスト4が最高です。毎年、日本一を目指せるチームでしたが、今年は特に日本一への手応えがあります。春季リーグは入部してから初めて2位になり、すごく責任を感じていたのですが、一発トーナメントの関西ブロック大会を勝ち抜けた底力があります。パワーがもらえるので、ぜひ応援をお願いします。Instagramでもライブ中継をやる予定で、8月19日の初戦は長野県の中野市営球場で高知大と対戦します。勝ち進めば23日が決勝戦です。
また、全国大会が終わると1週間後に秋のリーグ戦が始まります。私は引退となりますが、多くの方に見にきていただければと思います。
―サッカー部は9月中旬から関西学生リーグの後期がスタートします。
池上:前期は2勝2分け7敗と厳しい結果となりました。巻き返しをとにかく図らなければいけない。組織としては日本一になるピラミッド構造の外壁はできていると思う。長期スパンで考えると、立命館は日本一の練習を継続して行くことに変わりはありません。今年、日本一という目標は遠くなったとしても、やり続けないと伝統や文化は残らない。後期だけは絶対勝ち点トップになるという意気込みで、御園さんから教えてもらった学生ならではの視点を踏まえながら、スタートダッシュを図りたい。日程や会場はまだ決まっていませんが、ホームページやInstagramで情報をお知らせします。前期は原谷グラウンドで3試合行いました。後期でも原谷で試合があれば、観客席はあるので、多くの学生に盛り上げて応援してもらえるように情報を発信したいと思います。
―最後に学生と一緒にどのようなチームを作りたいですか。
池上:強くたくましいチームです。学生だけどすべてのことができて、何も言うスキがない。またはスキを突こうとしてもスキがないようなチームが自分の理想です。
御園:やはり日本一と、やるべきことは最後までやり抜く徹底力がもう一つのキーワードです。それが集大成で、目指すチーム像です。
池上:そう、やるべきことをやり抜くのが一番。
御園:監督の自分が何もやることがなかったら強いチームだと思います。見ているだけで、選手だけでできていれば一番強いチーム。
池上:その通りだね。
御園:思っていることを分かってもらうことは難しい。やるべきことを理解して、根付かせていくのは大変です。
池上:チームは勝っていくとグッと乗っていくことがある。初戦勝てば、5連戦乗り切り、日本一にたどり着ける可能性がある。楽しみだね。
御園:勝つとより成長できますから。でも、楽しみでもあるし、怖さもあります。
池上:「強いチームは監督がやることがない」―。指導歴に大きな差があっても、行きつく所は一緒だったね。