卒業生からのメッセージ
文学部での学びが社会でどのように活かされているかを、卒業生からのメッセージを通じて紹介します。
2019
その他コミュニケーション研究を発信力につなげた女流棋士
- 言語コミュニケーション専攻 2017年卒業
女流棋士
見えないものを見たいという好奇心に駆られた幼少時代
シャーロック・ホームズの小説が好きなんですが、その中で彼が「毎日上っている221Bの階段の数を数えたことがあるか」とワトソンに言う場面があります。普段意識していないけど、見える人には見えているものがあることに小さい頃から興味を持っていました。
将棋の世界には、「棋は対話なり」という有名な言葉があります。将棋は、言葉ではなく、指しながら気持ちや思いを通わせることのできるコミュニケーションツールだと思っています。例えば、羽生善治九段や藤井聡太七段などの一流の棋士にしか見えない対話の世界があります。小学生で将棋を始め、上達するにつれて、少しずつその意味が分かるようになり、更に面白くなっていきました。
立命館大学文学部を選んだ理由
中学3年生の時にプロの女流棋士になりました。自分のやりたいことが早くから決まっていた中で、大学では何を学びたいかを考えていました。立命館大学に入りたいと思ったのは、日本トップクラスの将棋研究会があったことと、言語コミュニケーション専攻が文学部にあったからです。いろいろ調べましたが、当時、コミュニケーションを学べるという大学は珍しく、とても惹かれました。
女流王将のタイトルを獲得
当時、立命館の将棋研究会には、アマチュアなのに将棋界で名実ある先輩が集まっていました。入学当初は、全然歯が立ちませんでした。授業の空き時間や授業終わりにいつも将棋を指していました。そんな風に、将棋が日常だったことに価値があったと思います。努力や勉強というより、呼吸するように将棋をしていないと、すでに結果を出している人には勝てませんから。
1~2回生のときは、授業後に新幹線で東京へ行って対局し、終わると夜行バスで戻って1限に出たりしていました。大変ではありましたが、将棋に集中できる環境が2回生時の女流王将のタイトル獲得にもつながったのだと感謝しています。
2014年に立命館学園「Beyond Borders」特設サイトで紹介された際の写真(3回生当時)
大学で広がった視野
授業では「語用論」が印象的でした。これは、同じ文章でも文脈によって意味が変わってくることを分析する学問です。伝えたいことの意図が、言葉の解釈によって変わってしまうということは、誰でも経験があると思います。
また、伝え方を学ぶ中で知った「フィラー」という言葉も面白かったです。フィラーは、会話の中に出てくる「あー」や「えー」などの、意味はないけど言ってしまう言葉。そこに着目して、会話の要素を分解していく授業がありました。フィラーを知ってから、先生の講義を聞いても中身以上に話し方が気になるようになって(笑)。
女流王将のタイトル獲得後は、ますます人から注目される立場になり、自分が話したことが新聞やテレビで加工されることを経験しました。さらに、タイトルホルダーとしての立場から、発信する側にもなりました。まさに学んできた分野を実践する立場となり、意識的に発信することの責任や、どうすればよりよいコミュニケーションが実現するのかを考えるようになりました。
将棋もそれ以外でも、最善を突き詰め続けたい
大学で学んだ話し方や伝え方は、今もすごく生きています。コミュニケーションには「受け手と伝える側の両方の視点に立つこと」が大切だと責任のある立場になって身に沁みて感じました。それにより、自分の「発信者としての意識」を高めることができたと思います。
現在は、YouTubeや将棋の解説などで視聴者に分かりやすく伝える表現を試行錯誤しながら実践している最中です。YouTubeは2019年にはじめて、1日1本できればアップするようにしています。自分で台本も書いているのでなかなか大変ですが、ありがたいことに今ではチャンネル登録者数が46,000人に達しました。その他にも、2018年には書籍「職業、女流棋士」(マイナビ新書)を出版したり、新聞や映画、ゲームメディアのコラムを書かせていただいたり、マンガの監修のお仕事などもさせていただいています。将棋の魅力を広く、分かりやすく発信していくことに、大学での学びをしっかり生かしていきたいと思っています。