8つの学域
日本文学研究学域
日本文学研究学域
JAPANESE LITERATURE PROGRAM
豊潤な文学・語学の世界を感受し、
新時代を切り拓く思考を磨く
日本文学研究学域は、日本文学専攻と日本語情報学専攻で構成されています。日本文学専攻では、歴史的、空間的、さらには社会的な視野を教育・研究の方法に組み込みながら、国際化する現代社会における日本文学(研究)の意義を探求します。
日本語情報学専攻では、情報技術を活用した新しい日本語研究、図書館を通して見えてくる高度情報化社会の問題の発見と解決に取り組みます。
教育・研究の“リアル”を発信、教員コラム
文献学はボーダーを超える。
大阪で生まれ、小学生のときに奈良市へ転居しました。高校も大学も大阪へ。いわゆる奈良府民で、完全に県外指向でした。ただ、奈良については、いろいろ気にかかっていることがありました。町内に、いくつもの古代の天皇の御陵がありました。その辺をちょっと歩けば、何かしらの寺院に行き当たりました。みな、現在の世界遺産です。小学校のクラスメートに、あまり聞き慣れない名字で、飛び抜けた身体能力を持ち、明らかに同じ年代の小学生とは発声の異なる子がいました。ずいぶんあとに、能のシテ方の家の子だと気づきました。あるいは、やたらと物知りで、達筆で、何事にも達観していて、並みの小学生とはかけ離れた雰囲気を漂わせている人がいました。この人は、教科書にも出てくるような著名なお寺に住んでいて、のちに後継したようです。それから、十二月十七日。毎年、なぜか半日で学校が終わり、帰りがけにぜんざいが振る舞われました。「おんまつり」が、保延二年(一一三六)から連綿と続く春日大社摂社若宮のお祭りだと悟ったのは、かなり経ってからでした。
『源氏物語』などの古注釈を研究するには、各所に散らばる写本を、一点一点確かめる必要があります。図書館や文庫をめぐるなかで、ここでも、奈良にひっかかりました。奈良で写された本、もしくは奈良の人が写した本が、ある程度まとまった数で存在していたのです。室町時代の末期、奈良には、興福寺や春日社を中心とする歌壇・連歌壇があり、和歌や連歌が盛んにおこなわれていたようです。『源氏物語』も写されたり、読まれたりもしたようです。『万葉集』でも大和朝廷でもない奈良が、何だか新鮮に感じられました。
ただし、それほど知られてはいない人物の事跡をたどるのは簡単ではありません。何より、残っている資料が限られていました。少ないなかでも、当人自筆の日記が現存していたのは幸いでした。こうして、所蔵者である春日大社とのご縁が始まったのです。
個人の調査は、やがて研究会に発展しました。神社の方、学芸員、歴史・茶道史・芸能史の研究者など、多くの先生方と議論し、様々なことを教えてもらいました。たんに文字を解読するだけではなく、神社の成り立ち、神職の組織、古くから続く祭礼や行事、奈良をとりまく社会的な情勢などをも理解する必要がありました。宝物殿に保管される資料にも、できるだけたくさん、目を通さなければなりません。実物の資料を見て、文字を解読する。じつに貴重で、何ものにもかえがたい体験です。
川崎 佐知子