卒業生からのメッセージ
文学部での学びが社会でどのように活かされているかを、卒業生からのメッセージを通じて紹介します。
2019
サービスエンジニアと哲学研究者、両方で生きる
- 哲学専攻 2012年卒業
日本電気株式会社(NEC)システムエンジニア
政策科学部から文学部哲学専攻へ転籍
私は当初、立命館大学政策科学部に在籍していました。政策科学部では「あそび」をテーマに研究していたのですが、「あそびとは何か」「なぜ人にはあそびが必要か」といった哲学の観点が必要だと思うようになりました。そんなとき、現代フランスの哲学者ジル・ドゥルーズの著書を読んで衝撃を受けました。表現が難しいのですが、まるで宇宙のような本でした。これをきっかけに3回生のときに文学部哲学専攻へ転籍をしました。
転籍をして哲学専攻の加國先生のゼミに所属したのですが、先生はいつも柔和でとても居心地がよかったです。ゼミ生は、みんなそれぞれ抱える、哲学でしか探求できない課題を抱え、自分なりの新たな意味を創り出し、その課題を乗り越えようと真摯に向き合っている人が多かったですね。
卒業論文では、ドゥルーズを研究しました。文学部の学生論文集に選ばれたことは、今でも嬉しく思っています。
実践の場として課外活動にも注力
課外活動も積極的に行っていました。京都市市民委員としてパブリックコメント普及活動や、東日本大震災のときには、立命館大学サービス・ラーニングセンターと協働して3.11+Rネットという震災情報発信の拠点立ち上げにも携わりました。震災当時、関西では情報が溢れており、それを整理する必要がありました。また、多くの学生が「何かしたいけれど、何をして良いのかわからない」といったモヤモヤを抱えていました。3.11+Rネットでは、そういった学生達が集い、対話を通じてできることを整理していきました。具体的には、東北学院大学の学生と協働して、2011年7月11日に被災地にある東北学院大学多賀城キャンパスと立命館大学衣笠キャンパスで同時にキャンドルナイトを開催し、オンラインでつないで現地の学生と対話をするイベントをしたことが思い出深いです。
東北学院大学多賀城キャンパス キャンドルナイトの様子
立命館大学衣笠キャンパス キャンドルナイトの様子
東京大学大学院を経て日本電気株式会社(NEC)へエンジニアとして就職
まだまだ研究したりないという思いから、東京大学大学院に進学し、技術哲学史を専門に研究をしました。商業高校情報システム科出身ということもあり、ITの基本的素養があったことから、文系でも技術職として活躍できるシステムエンジニア(SE)職を選びました。具体的な仕事内容は、上流SEと呼ばれる立場で、クライアントとの折衝からシステムの導入までを担当します。クライアントとの折衝では、哲学を学んだことが活きています。頭脳明晰な人が多いので、抽象的思考能力が試されます。論点を整理し、論拠を示して議論をする能力や、慎重にかつ与えられた時間内にスピーディに判断する能力がないと渡り合うことができません。この点において、哲学を学んだことはアドバンテージになりました。
1年目に任された、東南アジアの某空港のレーダーを提案する案件は印象的な仕事でした。総額12億円という大規模案件で、プレッシャーに押しつぶされそうでしたが、なんとか受注できたことが自信につながりました。資料は全て英語なので、必死になって英語を勉強しました。今になって思えば、そういった環境に追い込まれたからこそ、英語が身についたと思います。
仕事をしながら、研究も続けていく
ハードな仕事ではありますが、技術哲学の研究も続けています。日仏哲学会に所属してアカデミズムのなかでアンテナを張り巡らせたり、最近では技術百科事典Webサイト「つもりTech」というWebサイトを個人制作しました。https://tsumori-tech.com/
わかりやすさを追求した技術の百科事典です。これまで誰も技術を体系的に網羅するリストを作っていなかったので、あらゆる技術をカバーするカテゴリツリーを、子どもでも理解しやすいイラスト付きで紹介しています。自然加工物・構造物・製造物・情報通信について、250記事ほど書きました。これからも、仕事と研究を両立させていきたいです。