卒業生からのメッセージ

文学部での学びが社会でどのように活かされているかを、卒業生からのメッセージを通じて紹介します。

2020

製造

卒業論文で気付いた「日本酒」への思いを胸に酒を造る

教育人間学専攻 2015年卒業

株式会社神戸酒心館 醸造部

詰め込み型の教育に疑問を持ち教育人間学専攻へ進学

私が通っていた高校はいわゆる進学校でした。「有名大学に進学し、有名企業に就職する」のが正しいという環境でした。部活動や趣味がしたくても難しいような詰め込み型の方針で、そういった教育に徐々に疑問を持つようになったんです。知識だけでなく、生徒の心に寄り添うような教育もあるのではないか。そんな想いから、教職を目指すようになりました。そして、自分が目指す理想的な教育が学べる大学を探していたところ、立命館大学文学部の教育人間学専攻にたどり着きました。

他大学と一線を画す教育人間学専攻の特長

教育人間学専攻は、私が理想とする学びの宝庫でした。「人間とは何か」「なぜ人間には教育が必要なのか」「心とは如何なるもので、その心を育てるとはどういうことなのか」といった、哲学的な問いからスタートし、「教育」「人間」「心」の3軸を横断しながら多角的に学ぶことができます。「教育とはこうあるべき」という考えを押しつけるのではなく、学生一人一人が自らの主体性を発揮しながら成長していける環境でした。教員も学生も穏やかで柔軟な人ばかりで、とても居心地がよかったです。

3回生からは加納友子先生のゼミに所属しました。ゼミでは心身相関的なアプローチから心の癒しと教育を考えるという趣旨で、心の問題・不調に対して身体的なアプローチ(単純に身体を動かすことや、五感に働きかけること等)から、解決を探るというものです。「心」と「身体」は、相関関係にあります。ネガティブな感情が身体の不調を招くことや、逆に身体を動かすこと、休めることでリラックスできるということは誰しも経験があると思います。この様な心身相関という視点から、ストレス等の心の諸問題を学びつつ、ヨーガやアロマテラピー等の実践を通して、心を癒す研究をしました。

自分を見失い、再発見した卒業論文

いよいよ、卒業論文のテーマを決めなければいけない時期に入ったとき、テーマが決められずに悩んでいました。加納先生に素直に相談したところ、私自身の体験したこと、自身の進路に対する気持ち・葛藤がテーマになるとアドバイスをいただき、光明が差しました。元々、教員になりたくて進学したものの、大学での営みの中で、2回生の時点で教員を目指すことに迷いが生じていました。一方で、実家が代々酒屋を営んでいた事もあり、お酒に関わる仕事にも強い興味が生まれていました。そして悩んだ末、日本酒に関わる道に進む事を決めました。

卒業論文では、そうした自身の体験を「体験的教育人間学」という学問の視点で分析することにしました。具体的には、私自身のこれまでの経験を振り返り、どんな経験が私の心に影響を与えてきたのか、そしてそれがどんな次の行動に繋がっていったのかを分析していきました。そこで浮かび上がってきたのは、自身の家業やお酒に対する気持ちとその根源、そして最終的に選択したその進路に対する迷いの存在でした。

お酒を造るということは、私がただやりたいこと、言い換えれば自分にとっての幸せです。ですが、それが本当に正しいのか、それによって他者は幸せになるだろうか、これが社会の為になるのだろうか、という疑問が自分の中にあることに気が付いたのです。思い返せば、最初に教員を志したのは、実体験に基づいて自分の理想とする教育を実践したいという動機もありましたが、漠然と社会の為になる仕事をしたいという点も大きかったと思います。一方で、お酒は自分にとっては不可欠ですが、必ずしも必要でもなく、ともすれば害にもなります。「やりたいこと」≠「やるべきこと」ではないかという気持ちがありました。
卒業論文執筆の過程で、自身を見つめなおし、自身の選択した進路に対する思いに気付けたことは、その後の自分にとって、とても意義のある事となりました。この様なテーマで卒業論文を執筆できたことは、文学部の教育人間学専攻ならではだと思います。
結局のところ、酒造りという選択が私が正しかったのか、お酒を造り続けていく事が誰かの為になっているのか、それは未だにわかりません。それでも、自分が造ったお酒が、何処かで誰かを、幸せにすることを信じて、これからも美味しい日本酒を造っていきたいと思います。

清酒の生産量日本一の灘の酒蔵でお酒を造る事に憧れ、今の職場に入社

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櫂棒(かいぼう)で酒を撹拌する作業の様子

就職活動は自己流です。酒造りに直接関わる仕事がしたかったのですが、大手企業は一般的には理系(酒造工学、理化学を学んだ)人材の募集がほとんどです。そのため、求人しているかは気にせずに、興味を持った中小の酒造メーカーに直接問い合わせたり、書類を送ったりもしました。その中で、私の熱意を買ってもらい、現職の株式会社神戸酒心館に採用していただけました。

仕事内容は、原料処理工程(原料のお米を洗ったり、蒸したり)、製麹(米麹をつくる作業)、酒母(お酒の発酵にかかせない「酵母」という微生物を育てる作業)、濾過(搾ったお酒を、濾過して色香味を調える作業)、割り水(加水処理して、アルコール度数を調整する作業)等が主だったものになりますが、製造以外にもそれらに付随して、原料米の管理や、洗い物、道具のメンテナンス、お酒のアルコール度数等を測定する分析作業等、多岐に渡ります。他にも、酒造期間外は、社内の販売店舗の店頭に出て、接客や酒蔵見学の案内等を行う事もあります。

酒造りは、知識的な側面の他、体力・気力の面も大きいものです。一度、酒造期に入れば、休みも少なく、厳しい環境での重労働、同じ作業のひたすら繰り返しです。そういった中で、心身の疲弊は少なからずあり、心身の健康を保つ事はとても重要です。そういった点で、学部時代に学んだ心と身体の健康に関する知識と経験が、この仕事を続ける上で、活かされていると感じています。

麹は生き物。子どもを育てるように、細かい変化に対応するのは人だからこそできること

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製麹を行っている様子

弊社では、麹を職人が手作りしています。大手企業では機械化している場合も多いですが、日本酒づくりでは「一麹 二酛 三造り」と言われるくらい麹は重要です。麹は生き物なので、機械は微小な変化に対応できません。一方で、手作りのメリットは、蔵人(職人)の五感、属人的なもので微細な変化に対応できる点です。個人的には、子どもを育てているような気持ちで対峙しています。これは教育人間学専攻で学んだことが活きていると思います。子どもの心に寄り添うように、生き物である麹の変化に寄り添うことが求められます。

立命館大学文学部教育人間学専攻を志望する高校生に伝えたいこと

一般的な教育に疑問がある人、広い視野で教育を学びたい人は教育人間学専攻をぜひ検討してみてください。「教育」を学ぶことイコール「教員になること」ではないと思います。立命館大学文学部は、実に多種多様なテーマがあり、それを通して多様な経験、人や知識との出会いが出来る事です。そして、そこから見つけた自身の興味をとことん追求できる自由な環境があります。

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