卒業生からのメッセージ

文学部での学びが社会でどのように活かされているかを、卒業生からのメッセージを通じて紹介します。

2024

その他

興味と未知とが巡り合う4年間。文化と歴史の見える街・京都で向き合う自身のこれから。

人文学科言語コミュニケーション学域 2017年卒業

俳優

俳優として演劇作品・映画・テレビドラマ・テレビCMなどに出演しながら、脚本家・演出家としても演劇作品やインスタレーション作品、映画などの企画制作を行っています。複数の中学校と高校の演劇部の指導もしており、お芝居のことばかり考える毎日です。よく「色々やっているんだね」と言われることがありますが、すべてお芝居を軸にした活動に収まっているため、手広くやっているという自覚はありませんでした。

演出家をやることで、俳優としての精度が上がる。俳優をやることで、演劇部員たちへの指導方法がわかる。演劇部を指導することで、演出家としての導き方が身につく。このように、ひとつの活動が他の⾃分の活動の質を高める構図になっていて、毎⽇着実に前進するような感覚で楽しく過ごしています。
脚本・企画制作を務めた自主制作映画の現場で撮影スタッフと俳優のお弁当を注文する様子

コロナ禍に発表したインスタレーション作品。来場者は場内の俳優を連れて別の俳優が待つハッピーエンドの目的地を目指す。

幼い頃から父と洋画の吹き替えのモノマネをしていたことがきっかけで、最初は声優になるのが夢でした。その一方で極度の人見知りだった私を見かねた母が市民劇団のオーディションへ代わりに応募し、運よく主人公の少年期の役をいただきました。そうして14歳で初めて立った舞台は、いわゆる四方を壁に囲まれた劇場ではなく、街に流れる大きな川の上に設けられた特設ステージで、今思えばかなり特殊な入門です。終演後のカーテンコールでいただいた拍手の音が街中のビルに反射し、まるで四方八方から拍手をされているようで、「自分は演劇に祝福されているんだ」と強い衝撃を受けました。あの光景が私の原初の体験として今も大きな原動力となっています。

高校では演劇部に所属し、脚本・演出・主演を務めた作品で受賞し、この頃には「将来はお芝居で生きていこう」と考えるようになっていました。卒業後は、俳優養成所ではなく、多くの人が通る道を経験すべきと考えて大学進学を選択。俳優を志す人間だけが集う空間ではなく、広く、さまざまな人の行きかう場所で経験することが今後に生きると考えました。調べていくうちに、表現を学んで実践ができ、作品制作で卒業ができる理想の学域があると知り、立命館大学の文学部に進学しました。
大学公認演劇サークル「劇団月光斜」での様子 ①
大学公認演劇サークル「劇団月光斜」での様子 ②
大学公認演劇サークル「劇団月光斜」での様子 ③

授業は想像以上に実践的でした。元アナウンサーの方が教えてくださるアナウンス技術の授業では、普段の演技では意識しなかった話法や配慮について学ぶこともでき、相手によい印象を与える発語方法や滑舌のトレーニング法は、今でも俳優の仕事に役立っています。ラジオドラマを収録したり、小説を書いたり、まさに私の興味を知識として深められた4年間でした。ただ、好きなものを学ぶだけではなく、それまで自分の興味の外にあった授業から演劇へ持ち込めた知識もありました。イタリアの芸術史の授業で学んだ「未来派」という前衛芸術運動から得たインスピレーションを実際に自分の演出する舞台の大道具に取り入れ、静的な劇場の空間に動きを出す工夫をしました。

卒論では脚本を書きました。執筆を楽しむあまり、途中で作品を3回も変えてどんどん書き進め、卒論提出期間の初日に提出。同作は大学卒業前に校内で上演し、自分の立命館大学での4年間の集大成となりました。ゼミの西岡先生には、創作者同士のような感覚で質問や意見交換をさせていただき、非常にためになるアドバイスをいただきました。今、その西岡先生のご依頼で、学生の創作に関する相談に乗ったり、物語の構成術を教える授業や実践形式で物語を作ってみるワークショップなどを行っています。創作に興味のある学生へその面白さを伝えることに大きなやりがいを感じています。
大学の授業で得た知識を取り入れた舞台美術 ①

大学の授業で得た知識を取り入れた舞台美術 ②

京都に住めたことも、自分の感性を磨くためによい選択だったと思います。住んでいた二条あたりから河原町まで歩いて行くと、建物が新しくなったり古くなったり、高くなったり低くなったり、街が賑やかになったり静かになったりと、景色がどんどん変わっていきます。人の装いもさまざまで、街にグラデーションがあると感じました。そうした歴史のうねりを感じる街だからこそ、自分の現在と将来について鳥瞰的に眺め、自分はどんな人間で、どう生きていきたいのかをじっくり考えることができたのだと思います。今も前述の授業や、俳優の仕事の都合で、京都にはよく来ています。将来いつかまた住みたいなと思う街です。
幻灯劇場『フィストダイバー』2024年上演(撮影:佐々木啓太)

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