卒業生からのメッセージ
文学部での学びが社会でどのように活かされているかを、卒業生からのメッセージを通じて紹介します。
2024
その他大学院修了後、医学部へ。哲学の知見を活かして患者さんのこころに寄り添う精神科医になりたい。
- 哲学専攻 2015年卒業
文学研究科 人文学専攻修士課程2017年修了
卒業後、博士課程前期課程に進学して哲学の研究をするうち、学んだことを現実に役立たせたいと考えるようになったのが、精神科医を志したきっかけです。医学には、精神科医で哲学者でもあるヤスパースが始めた精 神病理学という分野があり、私もそうした臨床の場を目指したいと思いました。一念発起して受験勉強し、医学部2年に編入、卒業。今は精神病理サークルがあることから選んだ京都大学医学部附属病院で初期研修を行っています。
麻酔科での研修を終え、今は救急科で研修中です。命と隣り合わせの緊張感ある毎日を送っていますが、病気を治す仕組みなどを、体験を通して知ることができ日々貴重な経験を積ませていただいています。医学の世界も今後はAIに頼る部分も増えていくと思いますが、共感や傾聴を意識して患者さんと接していると、「話すのが楽しい」と感謝してくださる患者さんもいるので、それが、私がこの世界に入る意味、やりがいなのかなと考えているところです。
神経診察(研修センターの方にご協力いただきました)
哲学専攻を選んだのは、答えがないことを考えるのが楽しいと感じたからです。高校生のころ、教科書にはさまざまな哲学者の意見が載っていました。その中でどれかが正しいと言えないことが興味深く、更に深く追求したいと思うようになり、哲学を志しました。学部生の頃から特別プログラムで大学院の講義に参加することができ、先生方や大学院の先輩の前で発表の機会をいただけたことによって挑戦心を養うことができました。大学院でもお世話になった谷先生は、学生のどんな拙い質問にも真摯に答え、研究の方向性を見失っているような学生にも、対話を通じて研究として成立するよううまく導いてくださいました。授業の後もカフェに移動してコーヒーを飲みながら議論を続けてくださるような方で、議論の内容はもちろんですが、学生と「共に哲学する」をひとつの信念にされている姿勢に感銘を受けていました。今も近況報告などの交流を続けさせていただいています。
医学部時代、先生方から往診先の患者さんやご家族が「死」を受け入れられない場合の声のかけ方などで哲学方面からのアドバイスを求められることがありました。当時は何も言えなかったのですが、今、医学、特に終末期医療の世界では、患者さんの肉体的・精神的な苦しみだけではなく、医学用語としての「スピリチュアル」な苦しみをケアすることの重要性が叫ばれています。先日参加した精神科の学会でも「スピリチュアルケアには実存哲学の知見が必要だ」とのお話がありました。今はまだ半人前ですが、いつか、実存哲学の考え方からこの分野にアプローチし、学会発表などを通して世の中の役に立つことができればと考えています。
今は研修医として各診療科の研修に真摯に取り組んでいますが、将来は精神科の専門医と保健指定医の資格を取得し、緩和ケアなどの患者さんのこころに寄り添う医療に関わっていけたらと思います。「死」は、患者さんにとっても、医療者にとっても触れにくいテーマです。でも逆に「触れたいのに触れにくい」と感じる患者さんやご家族、そして医療者がおられた時、少しでも苦痛を和らげていただけるように実存哲学の方面から切り拓いていければと思います。自分にしかできないことをしっかりと活かして、社会に貢献できる医師になりたいと思っています。