教員コラム

文学部には100名を超える教員が在籍しています。一人ひとりのリアルな教育・研究活動を紹介します。

COLUMN

フィールドウォーク(街歩き)で情報収集。 都市空間にわけ入り、誕生の「物語」を探る。

地理学専攻

地域研究学域
教授

加藤 政洋

日本には、世界有数の大都市である東京をはじめ、西日本の経済の中心地大阪、1000年を超える歴史を持つ京都など、大小さまざまな都市があります。都市は、ある日突然現れたわけではありません。長い年月にわたる人びとの営みがあり、時代の移り変わりを体験しながら、少しずつ今の姿が形づくられてきたのです。そんな都市のなりたちや文化など「都市の物語」を、文化・歴史地理学の視点から探っていくのが私の研究テーマです。

都市には、その都市ならではの文化を育んださまざまな「空間」があります。食材を買い求める人で賑わう商店街。飲食店が立ち並ぶ歓楽街。貧しい人たちが多く住む労働者街。芸妓さんたちの姿もあでやかな花街。研究では、そんな都市の空間をひたすら歩き、そこに住む人たちの話に耳を傾け、お店を訪ね、時には郷土の料理を味わいながら新たな題材やヒントを探ります。名付けてフィールドワーク、ならぬ「フィールドウォーク(街歩き)」。ネットや本を見れば、街に関するひと通りの知識は得られます。でも、それだけでは、複雑ななりたちを持つ都市の本当の姿を知ることはできません。ひたすら歩くことで都市空間に深く分け入り、自分の目で見て、空気を肌で感じる。それが研究の第一歩です。

フィールドウォークで訪ねるのは、京都・大阪・神戸といった身近な都市ばかりではありません。遠く離れた沖縄や、太平洋の絶海の孤島南大東島も現地調査の対象です。例えば沖縄の那覇市は、戦後米軍の占領下で発展を遂げ、日本の県庁所在地クラスの都市では唯一、かつての都心がまったく別の場所に移って現在の姿になったという特異な経験を持つ街です。また南大東島は、120年前(明治33年)まで無人島だったところ。その後、伊豆諸島の八丈島(東京都)の開拓団や沖縄の出稼ぎ労働者が大勢やってきて島を切り拓き、東京の文化と沖縄の琉球文化とが渾然一体となった独特の島文化が育まれました。

南大東島の中心市街地「在所」の景観。遠くに製糖工場の煙突が見える。

フィールドウォークには、学生有志も手を挙げて参加してくれます。

身近な京都や大阪の街を歩いたり、長い休みの時は一緒に沖縄にも出かけます。現地では商店街を歩き、店の軒先でつくる天ぷらをほおばり、そこで暮らす私の知人を招いて言葉の違いや文化の違いについて直接話を聞く「実地研究会」も開催。母国に戻った留学生も急遽飛び入りで参加したり、大いに盛り上がります。

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水上勉『五番町夕霧楼』の舞台を訪れた学生たち。

自分の足で街をめぐり文化の痕跡をたどると、都市とは何か、街の文化はどうして生まれたのかなど、ネットや本では知ることのできない発見や気付きがたくさんあります。フィールドウォークは、都市という素材を通して対象に深く分け入り、その本質を理解する力を養う活動でもあるのです。そこで培われた論理的な思考力や、自分が目で見て感じたことを第三者にプレゼンする力は、きっと人生のさまざまな場面で大きな力になるでしょう。

「学び知るためには旅でも散歩でも、とにかく歩くこと」——。日本の民俗学者のパイオニアである柳田國男は、そんな言葉を残しました。都市の物語には、新たな発見がいっぱい。一緒に見知らぬ土地を旅し、都市という“ジャングル”を探検しましょう。

PERSONAL

加藤 政洋

専門領域:
人文地理学, 都市研究, 沖縄研究
オフの横顔:
フィールドウォークは、私にとって趣味のようなもの。オフタイムもひたすら街を歩き、見知らぬ土地を旅して、偶然の出会いや新しい発見を楽しんでいます。しばらく行けなかった街をあらためて歩き直してみると、以前とはまた違う発見があります。