教員コラム

文学部には100名を超える教員が在籍しています。一人ひとりのリアルな教育・研究活動を紹介します。

COLUMN

文化人類学は、“石蹴り遊び”。 思いがけない発見が待っている。

文化芸術専攻

国際文化学域
教授

中村 忠男

インドは、好きという人と苦手という人が、はっきり分かれるところといわれます。私も学生時代、それほどインドに強い関心があったわけではありません。でも文化人類学の研究者となり、フィールドワーク(現地調査)で何度もインドを訪ねるうちに、インド文化の多様性に魅了されることになりました。現場を通じての研究は、時として本来の目的や意図とはまったく違う方向へ広がります。それはまるで子どもの“石蹴り遊び”。どこへ転ぶか分からないけれど、思いがけない発見と出会うこともあります。でもそれこそがまさに文化人類学の面白味なのです。

インドとの最初のかかわりは、インド・ヨーロッパ語圏の神話を比較する研究でした。インドに伝わる神話のダイナミックさにひかれた私は、現地の大学へ留学。南インドの村落で信仰されるローカルな神様を調べるためにフィールドに出たのですが、調べてみると、その神様はお隣の州では大規模な巡礼の対象となっていることが分かりました。地域限定どころか、山の中にあるその聖地は年間100万人もの巡礼者が訪れる一大聖地でした。しかも巡礼者はインド国内はおろか、マレーシアやシンガポールなどの東南アジアからもやってきます。また、別の巡礼を調べた際には、イギリスやアフリカ、中東からも巡礼者が訪れていました。

西インド、グジャラート州ヴェラヴァル、現代でも現役の船舶として建造されているダウ船。

調べてみると、彼らは近代以降にインドを離れ、世界各地に移住したヒンドゥー教徒の子孫たち。一世紀半を過ぎてもなお、厚い信仰心から、祖先のルーツをたどってきたのです。こうして私の関心は巡礼からインド系ディアスポラ(国際的移民離散現象)へと向かい、彼らが交易やプランテーション労働の担い手として、カリブ海やアフリカ、東南アジアにまで広がり、ついには今でいうグローバリゼーションの先駆けとなっていった事実と出会うことになりました。

フィールドワークは、計画通りに進むことがほぼなく、想像を超える出来事に遭遇することもしばしばです。パキスタンにおけるヒンドゥー女神の巡礼を調べるため、中東のドバイに出かけた時は、事前にアポイントメントをとっていた取材相手が約束をすっぽかし、1週間も待ちぼうけ。その女神の廃寺があるというパキスタン沖の孤島をめざした時は、チャーターしたダウ船(現在もインド洋で活躍する伝統的木造船)がエンジン不調で漂流。船頭の漁師から「心配するな。潮の流れで対岸のオマーンあたりには着くだろう」と、どう反応していいか分からない慰めの言葉をかけられ、はからずも古くから続くインド洋交易の実態を体験するはめになりました(笑)。

でも文化人学者は、そんな非効率な失敗こそが新たな視点をもたらしてくれると期待して、また現地に足を運びます。「そこ」に行けば、文献を読んで知った知識とはまったく違う、新たな発見に出会えると固く信じているからです。

私が所属する「国際文化学域」は、欧米からアジア、中東、ラテンアメリカまで多様な地域の専門家が集まり、世界を幅広く学べる環境が整っています。研究分野も、文学、歴史、文化、美術・音楽・演劇とバラエティ豊か。そこに集まる学生も、さまざまな志向の持ち主です。そんな学域で1年間学ぶことは、みなさんにきっと多くの出会いと刺激をもたらすでしょう。思いがけない発見がある――。そんな文化人類学のフィールド体験にも通じる面白味を、ぜひ国際文化学域で体験してください。

PERSONAL

中村 忠男

専門領域:
文化人類学(含民族学・民俗学)
オフの横顔:
実はPCゲームにハマっています。つい先日も、36時間ぶっ通しでコンピューターに向かったことも。音楽も、大好きで、特に好きなのはジャズ。高校時代には、ウッドベースを弾いたこともありました。