
世界初!葉緑体ゲノム編集でRubiscoを強化し光合成と植物生産性の向上に成功ー光合成を設計する次世代植物育種技術への期待-
発表のポイント
- Rubiscoは光合成における最も重要な酵素ですが、触媒効率が悪いため、Rubiscoの機能を上げることが作物の生産性向上につながります。しかし、Rubiscoの触媒に関わる部分(Rubisco大サブユニット)の遺伝子は、細胞核のゲノムとは別の葉緑体ゲノムにコードされているため、その精密な改変はこれまで技術的に困難でした。
- 本研究では、葉緑体ゲノム編集によりRubisco大サブユニットに単一アミノ酸置換を導入し、触媒速度(kcat)を上げることで、現在および将来予測される高CO₂条件下での光合成能力と作物生産性の向上に成功しました。
- 本研究は、外来遺伝子をゲノムに残さない精密な葉緑体ゲノム編集により、光合成能力と作物生産性を向上させ、大気CO₂削減への貢献も期待される新たな分子育種戦略の可能性を示すものです。
本研究のイメージ図:葉緑体ゲノム編集による高機能Rubiscoの創出で光合成と植物生産性の向上に成功©ウチダヒロコ
概要
立命館大学の松村浩由教授、東京大学大学院農学生命科学研究科の矢守航准教授、中里一星特任助教、有村慎一教授、神戸大学の深山浩教授、大阪大学の難波啓一特任教授らの研究グループは、世界的な食料需要の増加と気候変動への対応に向けて、植物の光合成能力を分子レベルで強化することに成功しました。光合成において炭素固定を担う中心酵素Rubiscoは、その低い触媒効率が作物生産性を制限する要因として長年知られてきましたが、触媒部位を構成するRubisco大サブユニットは細胞核のゲノムとは異なる葉緑体ゲノムにコードされているため、その機能を精密に改変することは極めて困難とされてきました。
本研究では、葉緑体ゲノム編集技術を用いてRubisco大サブユニット遺伝子(rbcL)に単一アミノ酸置換を導入し、酵素量を維持したまま触媒速度(kcat)を向上させることに世界に先駆けて成功しました。その結果、現在の大気CO₂濃度条件に加え、将来予測される高CO₂環境においてもCO₂同化速度の向上と植物バイオマスの増加が確認され、光合成能力の分子改良が実際の植物成長や生産性向上につながることが明確に示されました。さらにクライオ電子顕微鏡解析により、Rubiscoのkcatが上がった原因を調べたところ、活性中心から離れた位置の単一アミノ酸置換が触媒部位の柔軟性を変化させ、酵素機能を高める新たな分子機構の可能性が示されました。
本成果は、外来遺伝子をゲノムに残さない、精密な葉緑体ゲノム編集によって光合成能力と作物生産性を同時に向上させ得ることを示した点で画期的であり、作物の進化や育種を加速する新たな分子育種戦略の確立につながるものです。今後、主要作物や樹木への展開により、食料生産性の向上に加えて光合成による炭素固定能力の強化を通じた大気CO₂削減やカーボンニュートラル社会の実現への貢献が期待されます。
本研究成果は、2026年6月19日(金)(日本時間)に英国科学雑誌「Nature Communications」オンライン版に掲載されました。
詳細は、以下のプレスリリースをご覧ください。
https://www.ritsumei.ac.jp/profile/pressrelease_detail/?id=1313
松村教授のコメント
東京大学との共同研究です。私は長年Rubiscoの研究を続けてきました。東大の有村先生、中里先生が新しい葉緑体ゲノム編集技術を開発されたことをきっかけに、同じ学部で光合成研究を行う矢守先生に相談され、その後私にお声がけいただき、約5年前に本共同研究が始まりました。
当初、私は半ば不安を感じながらRubiscoのアミノ酸変異部位を提案しました。その後、矢守先生から「そのRubisco変異体を発現した植物で成長が促進した!」と聞いたときは、本当に驚きました。さらに、私達はそれらをクライオ電子顕微鏡で解析し、高い活性の原因の一端が見えてきました。
Rubiscoは教科書にも載る有名な酵素ですが、「研究は終わった分野」と見なされ研究者も減りました。「まだ研究することがあるのか」と問われる中で、私は25年研究を続けてきました。まさに逆張りの研究だったと思います。
Rubisco研究は地球温暖化の課題解決につながる重要なテーマです。特に若い方々には、周囲の評価に左右されず、自分が大切だと思うテーマを信じて続けてほしいと思います。逆張りに見える研究でも、それを貫くことで新しい道が開けることがあります。ぜひ、自分の信じる研究を大切にしてほしいと思います。



