2025.04.08 NEWS

環境負荷を抑えた持続可能な化学プロセスを目指す革新的な技術「Hypervalency戦略」を提案 ~芳香族ヨウ素化合物の新規活性化による手法を開発~

 立命館大学薬学部の土肥寿文教授、総合科学技術研究機構の北泰行上席研究員は、超原子価ヨウ素反応剤を用いることにより求核剤と芳香族化合物とのクロスカップリング反応を初めて可能にしてきましたが、本研究ではさらにこれらの有用性を高めるために、芳香族ヨウ素化合物※1の新たな活性化手法を活用し、環境調和型で持続可能な分子変換を実現する革新的なアリール化※2技術を明らかにしました。本研究成果は、2025年3月27日(木)(日本時間)に国際学術誌「Chemical Reviews」に掲載されました。

【本件のポイント】

  • 芳香族ヨウ素化合物の新規活性化による新しいアリール化手法を概説
  • 環境負荷の少ない持続可能な合成技術の最新動向を解説
  • 光や電気化学を利用した新たな活性化戦略を比較・考察

研究成果の概要

 本研究では、芳香族ヨウ素化合物の新規活性化によって可能となるアリール化について、当該研究グループの先駆的な貢献に加え、これまでに報告された主要な手法を体系的に、それぞれの特徴や応用可能性を詳しく紹介しました。特に、遷移金属触媒を用いたクロスカップリング反応に代わる持続可能なアプローチとして、環境負荷を抑えた化学プロセスの可能性を示しました。図1は遷移金属フリー合成※3の実現に向けた戦略のまとめと、当該研究グループの代表例となるヨウ素原子の超原子価性(hypervalency)※4を利用した革新的手法を示しています。

図1
図1 遷移金属フリー合成に向けた芳香族ヨウ素化合物の新規活性化戦略

研究の背景

 クロスカップリング反応は、有機化合物の合成における最も重要な反応の一つとされていますが、希少で高価な遷移金属触媒の使用や、金属残渣の除去が課題とされています。特に、製薬や電子材料分野では、製品の純度を確保するため、遷移金属を使わない代替技術への関心が高まっています。希少金属資源の枯渇や環境負荷の低減という観点からも、持続可能な遷移金属フリー合成技術の開発が求められています。

研究の内容

 本研究では、芳香族ヨウ素化合物の新規活性化を基盤としたアリール化戦略に焦点を当て、酸化的活性化、塩基促進型結合切断、光誘導型結合切断、電気化学的活性化、光電気化学的活性化などの5つの戦略を提案します。酸化的活性化では、芳香族ヨウ素化合物を超原子価状態に変換し、求核剤と反応させることでC−C,C−O,C−N結合の効率的な形成を可能にしました。当該研究グループは、これを「hypervalency戦略」と位置付けました。塩基促進型の手法では、有機塩基や触媒を用い、求核剤との反応を促進することで、高い選択性を持つアリール化を実現しました。光誘導型の手法では、可視光や紫外光を利用し、光触媒を介してアリールラジカルを生成することで、環境負荷の低い化学変換が可能になります。電気化学的活性化では、電解条件下で芳香族ヨウ素化合物の結合を切断し、遷移金属を使用せずにクロスカップリングを行うことができるため、工業的な応用にも適しています。最後に、光電気化学的活性化では、光と電気化学の相乗効果を活用し、高い選択性を持つ精密な分子変換を実現します。このように、芳香族ヨウ素化合物の新規活性化を基盤とした手法を体系的にまとめ、その特性や応用可能性を評価することで、持続可能な有機合成の実現について展望を示しました。

社会的な意義

 本研究は、遷移金属に依存しない次世代有機合成戦略として、医薬品合成、機能性材料の開発、ファインケミカル産業など、多様な分野に革命をもたらす可能性を秘めています。本研究が確立した技術は、グリーン・サステイナブルケミストリー※5の概念を一歩先へと進め、今後の持続可能な社会の構築に大きく貢献すると期待されます。

研究者のコメント

 本研究は、従来の遷移金属触媒を使用するクロスカップリング反応の枠を超え、新たな有機合成戦略を確立するものです。環境負荷の低減と持続可能な有機合成の実現に向けた重要なステップであり、今後、医薬品合成や機能性材料化学の分野において幅広い応用が期待されます。

論文情報

  • 論文名: Iodoarene activation: Take a leap forward toward green and sustainable transformations
  • 著者: T.Dohi*,E.E.Elboray,K.Kikushima,K Morimoto, Y.Kita*
  • 発表雑誌: Chemical Reviews
  • 掲載日:2025年3月27日(木)00:00(日本時間)
  • DOI: https://doi.org/10.1021/acs.chemrev.4c00808
  • URL: https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.chemrev.4c00808

用語説明

  • ※1 芳香族ヨウ素化合物(Iodoarene compound)
    :ヨウ素を含む芳香族化合物で、医薬品合成等の前駆体として利用される。
  • ※2 アリール化(Arylation)
    :芳香族基を導入する反応。医薬品や材料合成に重要。
  • ※3 遷移金属フリー合成(Transition Metal-Free Synthesis)
    :遷移金属を使わずに有機反応を進行させる手法。環境負荷を低減できる。
  • ※4 超原子価性(Hypervalency)
    :分子中の原子がオクテット則の限界を超えて、その原子価殻を拡張する能力。
  • ※5 グリーン・サステイナブルケミストリー(Green Sustainable Chemistry)
    :環境負荷を抑えた持続可能な化学プロセスを目指す化学。

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