立命館大学理工学部の吉田晶樹教授は、流体の「流れにくさ」を表す基本的な物理量である「粘性率」について、さまざまな地球科学データの総合的な解析とマントル対流の数値シミュレーションにより、物質を流体として扱える粘性率の上限値を推定しました。

本件のポイント

  • これまで未解明であった「物質はどこまで流体として扱えるのか」という問いに対し、流体の流れにくさを表す物理量である粘性率※1に着目して研究
  • 本研究では、さまざまな地球科学データを総合的に解析し、粘性率の上限値の推定を試みた
  • その結果、物質を流体として扱える粘性率の上限値を「10³⁰±² Pa s」と世界で初めて推定した

研究成果の概要

 水や空気は流れますが、岩石のように一見固体に見える物質も、数百万年以上という長い時間スケールで見ると、ゆっくり流れています。本研究では、「物質はどこまで流れにくくなっても流体として扱えるのか」という根本的な問いに着目し、流れにくさを示す「粘性率」の実質的な上限値を推定しました。
 地球表層の歪速度の観測データや室内での岩石変形実験のデータ、マントル対流の数値シミュレーションデータを総合的に解析した結果、その上限値は10³⁰±² Pa sと見積もられました。

 本研究の成果は、地球内部で起こるプレート運動やマントルの流れの理解に役立つだけでなく、高粘性材料やガラス状物質、ソフトマターなどの流体力学・レオロジー研究にも新たな視点を与えることが期待されます。

図1 図1.身近な物質と代表的な地球物質の粘性率、ならびに本研究で推定した粘性率の上限値の範囲。粘性率は桁で大きく変化するため、横軸は対数軸で示している。「ピッチ」は常温では固体状のタール由来物質で、写真は豪州・クイーンズランド大学の「ピッチドロップ実験」のライブ映像(http://www.thetenthwatch.com/)より。

 本研究は米国物理学協会出版局(AIP Publishing)が発行する学術雑誌「Physics of Fluids」に掲載されました。また、同誌の編集部が注目する論文として「Editor's Pick」にも選出されています。「Editor's Pick」は同誌に掲載された論文の中で約8%の論文が選出されます(2025年値)。

詳細は、以下のプレスリリースをご覧ください。
https://www.ritsumei.ac.jp/profile/pressrelease_detail/?id=1314

吉田教授のコメント

 「粘性」や「粘性率」という言葉は、日常会話ではほとんど使いませんが、私の研究では重要なキーワードです。粘性率と同じく基本的な物性値で、物質中の熱の伝わりやすさを表す熱伝導率は、代表的な物質で比べても、空気からダイヤモンドまでおよそ5桁の範囲に収まります。それに対して、「粘性率の上限はいったいどのくらいなのだろうか」という疑問を、私はずっと漠然と抱いていました。この研究のきっかけは、昨年度のゼミ形式の授業で使用していた、ある本でした。その中に、「プレートの粘性率はマントルよりも〇桁大きい」と、根拠が示されていないにもかかわらず、はっきりした値が書かれていたことが気になりました。もちろん、受講生はその内容をそのまま信じ、質問はありませんでした。そこで、この機会に自分できちんと調べてみようと思いました。挑戦的な論文タイトルのせいか、匿名査読者がなぜか5人もつきました。通常は3人程度ですので驚きましたが、査読者はいずれも好意的で、多くの建設的なコメントをくれました。
 この記事を読んでいる、研究者を志すみなさんには、本学の授業を通して、「物事を常に疑う眼」をぜひ養っていただきたいと思います。

用語説明

  • ※1 粘性率:
    流体の「流れにくさ」を表す物理量。単位はPa s(パスカル秒)。英語のviscosityは「粘度」または「粘性係数」と訳されることが多いが、固体地球科学ではもっぱら「粘性率」とよばれるため、本稿ではこの用語を用いる。岩石や氷のように温度、応力、粒径などによって変形のしやすさが変わる物質では、条件に依存する「有効粘性率」として扱われる。

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