12月9日に大阪いばらきキャンパスで「IMPACT MAKERS DAY 2023」を開催しました。本イベントは、立命館起業・事業化推進室 RIMIXが主催する、社会にインパクトや価値を生み出す人たち(=IMPACT MAKER)のコミュニティを創出しようという試みです。大盛況だった昨年に続く今回も、立命館にゆかりある起業家や児童・生徒・学生たちが集結。世代や立場を超えて交流した一日をレポートします。

偶然の出会いが起業やビジネスを加速させる

 立命館ではビジネスを通じて社会課題を解決する人材「IMPACT MAKER」の育成を目指しています。2022年に「OIC CONNÉCT」事業をスタートさせ、キャンパスに起業家や起業支援に携わる人材を呼び込み、学生とシームレスにつながる環境を整備。「IMPACT MAKERS DAY」はOIC CONNÉCTの特別版であり、立命館の小学生から起業に興味のある中・高・大学生、社会実装につながる研究に取り組む院生・研究者が集結し、化学反応を起こすことが狙い。会場となった分林記念館では、Zone1〜4に分けられた各エリアで来場者の熱い交流が見られました。

 イベントの幕を開ける形で開催されたのがZone4での「OIC CONNÉCT HAPPEN~すべては偶然の出会いからはじまった~」です。島田英幸氏(大阪府国際ビジネス・スタートアップ支援課主査)、上林央佑さん(立命館大学経営学部2回生/のれんや しょうび苑 3代目)、細川美春氏(JR西日本イノベーションズ CVCチーム リーダー)の3名が登壇。OIC CONNÉCTのスタッフ(アンバサダー)をモデレーターに、OIC CONNÉCTでの偶然の出会いをきっかけに人脈が広がり、自身のプロジェクトが加速した経験について語りました。

 島田氏はOIC CONNÉCTを通じて知り合った起業家を目指す学生を、大阪府や企業が開催するベンチャーコンテストやピッチイベントに積極的に繋げたことを紹介。上林さんもその一人であり「スタートアップチャレンジ甲子園」のファイナリストに残ったことを讃えました。

 上林さんは、のれん屋の息子として生まれ、海外展開に挑戦した父の姿を見て、自身も起業を目指していることを紹介。立命館や大阪府の学生ベンチャーコンテストに積極的に参加することで世界を広げ、伝統工芸の魅力を世界に伝えたいというビジョンを具体的にしたと語りました。なお上林さんは、本イベントのエントランスエリアのデザインも担当。さらに学生起業家デモブースにも自身が企画した伝統工芸からインスパイアされたテキスタイルやファブリックを展示。「大きなチャンスをもらった」と、今日という日を振り返ります。

上林さんが手掛けた会場のエントランスエリア
上林さんが手掛けた会場のエントランスエリア

 また細川氏もスタートアップ企業への投資・支援業務を担う自身のミッションを紹介するとともに、OIC CONNÉCTに積極的に参加していることを話します。「今日もJR西日本グループと協業できそうな起業家や、アイディアを持ってる学生とたくさん繋がりたい」と語り、本イベントに参加した人々に起業への一歩を踏み出す勇気を与えました。

感受性を刺激する体験で、起業家精神を育む立命館小学生

 Zone2では、本学を中心とした学生や高校生の起業家たちによるセッションや、将来のIMPACT MAKERとなりうる小学生たちによるプレゼンテーションを実施。中でもファミリー層や小・中学生の観覧者から注目を集めたのが「小学生みらいプレゼン」です。このプレゼンでは立命館小学校アントレプレナーシップ(起業家精神)教育プロジェクトに参加している6年生10名と、彼らの指導者でありRIMIXの教育プロデューサーである正頭英和先生(立命館小学校 教諭)が登壇しました。

 小学生たちのプレゼンを前に、正頭先生が本教育プロジェクトの意図を解説しました。RIMIXでは、小学校から大学院まで一貫して取り組む社会起業家の育成をミッションの一つとして掲げています。これら教育を推進していくなかで見えてきた問題点は、自分のやりたいことに気づかずに、そのまま何となく就職を選んでしまう学生が、とても多いことだと話します。その危機感から立命館小学校では、「子どもの『やってみたい』を引き出す『体験』の授業」に力を入れていると説明。さらに、今の世の中ではアウトプットを伴う学力が求められており、この力を育てるためにも体験をもとにした感受性・思考力・表現力の育成が必要なのだと説明しました。

立命館小学校アントレプレナーシップ(起業家精神)教育プロジェクトについて説明する正頭英和先生

 続いて2組4名の小学生たちが実際にどんな授業を経験したのかを、自作のプレゼン資料を使って紹介します。「商売」を体験する授業では、専門家のアドバイスのもと自分たちで謎解きゲームを企画し、有料イベントを開催したことを、楽しさが伝わるピッチで説明。また民間企業として初の月面着陸機に挑戦するispace社や、光を用いたデジタルアートで有名なチームラボなどの企業等に訪問したことで「やってみたい」の発見に繋がったことを報告しました。

 続いて6名の小学生が、今後の授業で挑戦する「やってみたい」テーマについて発表。ispace社の活動に刺激をうけ「自分の体で空を飛ぶ研究」を検討中の女子児童をはじめ、「雨の日用の観光雑誌」「Googleストリートビューと連動した『どこでもドア』」「オリジナルキャラクターをポケモンゲームに登場させる」「水の中で咲く花」など、小学生たちは素直な気持ちで「やってみたい」を発表。さらにチームラボにインスパイアされた男子児童は、学校内のLED設備を活用してデジタルアートの空間を作りたいと熱く発表。正頭先生をも驚かせました。

 総評では仲谷総長が「世の中を動かしてきたのは『やってみたい』を追求し続けた人たちです。成功の秘訣は成功するまで続けること。今の熱い気持ちを持ち続けて頑張って欲しい」と小学生たちにエールを送りました。

価値創造を体感できる、多彩なブースが出展

 Zone1には、研究シーズの社会実装によって価値創造を目指す、多彩な取り組みを体感できるブースが並びました。

 情報理工学部 村尾和哉准教授の研究室は、血液の流れを感知するインターフェースを活用したゲームを出展。腕を握ることで血流が変わることを利用して、ゲーム内のキャラクターを操作します。「スマートウォッチを脈拍の動きで操作する研究から派生して生まれました」と、ゲーム誕生の経緯を教えてくれました。

 また、岡田拓真さん(理工学部4回生)が取り組むのは「人の好みで味を変えられるエスプレッソマシン」です。温度により豆から抽出される分子が変わることを利用し、各人の好みに合わせたエスプレッソをAIによって提供することを目指しています。ブースにはエスプレッソマシンの試作機が用意され、たくさんの人が試飲を楽しんでいました。

 他にも立命館アジア太平洋大学の学生チームが、歩くだけで飲食店情報がプッシュ配信されるアプリ「torobare!」を紹介したり、経営学部の横田明紀ゼミが大阪いばらきキャンパスの3Dデータを元に制作した防災訓練ゲームを出展するなど、魅力的なブースが並んでいました。いずれのブースも出展者と来場者との会話が弾んでおり、プロジェクトを加速させる出会いを予感させていました。

たくさんの人でにぎわうZone1

宇宙に挑戦するImpact Makersへ

 本イベントの最後を飾ったのがZone4にて開催された「Impact Makersと学ぶ宇宙航空イノベーション戦略 ―ライト兄弟からイーロン・マスクまで―」です。

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)で国際宇宙ステーション計画などに従事し、現在は本学で宇宙航空領域を中心にイノベーション戦略を研究している湊宣明教授をモデレーターに、湊教授が指導した宇宙航空ゼミの卒業生である木村聡太氏(株式会社SmartRyde 代表取締役)と竹田由利子氏(パナソニックオペレーショナルエクセレンス株式会社 ディシジョンサポート室)、さらに徳田昭雄副総長が登壇。まずは空と宇宙に挑んだライト兄弟とイーロン・マスク、それぞれの戦略思想を竹田氏と木村氏が紹介するところからセッションははじまりました。

徳田昭雄副総長、竹田由利子氏、木村聡太氏、湊宣明教授(左から)

 竹田氏は、ライト兄弟の戦略の特色は「航空の先駆者に師事し、最先端の飛行理論を研究したこと」「グライダー実験でパイロットの操縦能力を獲得しながら、有人動力飛行を発展させたこと」「自己資金での小規模開発と、技術を秘匿し適切な時期に公表する戦略性」にあると紹介しました。

 イーロン・マスクの戦略を解説した木村氏は、自身が空港送迎に特化したオンライン旅行プラットフォームを起業したことに触れ、「起業家目線でマスク氏の戦略を見た」と説明。何十回も失敗しながらロケット開発を成功させたプロセスは、スモールビジネスから事業を拡大させるベンチャーの手法に沿っていると語り、「異なる技術領域(自動車、宇宙、エネルギー)に参入し、技術革新と破壊的イノベーションを融合的に推進したこと」「再利用可能なロケットをシリーズ展開し、低コスト化を実現したこと」「ロケットから衛星開発、サービスまでの複合事業を水平展開したこと」の3点が特色だと説明しました。

 続いて湊教授と徳田副総長を交えて、両者のイノベーション戦略を比較しました。徳田副総長は、共通点は多くあるものの、技術を秘匿し自己資金のみで開発したライト兄弟が最終的に特許争いで敗れたことを挙げ、イノベーションを実現させる必要条件はあったものの、普及させる十分条件は満たせなかったと指摘。一方、イーロン・マスクは技術をオープンにすることで業界全体の革新を牽引し、事業売却による大規模資金調達によって一気にビジネスを加速させた点が優れていると話しました。

 さらに徳田副総長は、経営学における“両利き(ambidexterity)”という概念について、関西の大企業を事例に出しつつ紹介。企業は既存事業を持続的に深めていく「知の深化」と、実験と学習を繰り返して新規事業を開拓する「知の探索」を同時にバランス良く行うことで、サバイバルとイノベーションを両立させた両利きの経営ができるのだと説明しました。

 セッションの最後に、モデレーターである湊教授から、立命館大学が2023年7月に立ち上げた宇宙地球探査研究センター(ESEC)について紹介がありました。ESECでは人類の生存圏の拡大に貢献するというミッションを掲げており、有人の宇宙探査拠点開発が進む現在と、人類が月や火星で暮らす遠い未来を埋めるテクノロジーを研究することに焦点を当てていると説明。さらに今年12月には宇宙飛行士として活躍された野口聡一氏が研究顧問に就任したことを発表しました。

 さまざまな参加者がフラットな立場で話し合い、繋がり合う「IMPACT MAKERS DAY」。R2030学園ビジョンとして「挑戦をもっと自由に」を掲げる立命館は、希望に満ちた未来につながる社会を目指して挑戦する人たちを応援する、このような取り組みを今後も推進していきます。そして、私たち自身も宇宙を含むあらゆるフィールで挑戦を続けていきます。

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