語学編

ドイツ語の学び方

1. なぜドイツ語を学ぶのか

ドイツ語が話されている国々はドイツ、オーストリア、スイスとその周辺地域で、ヨーロッパに集中しています。日本におけるドイツ語教育の伝統は長いとはいえ、決して我々にとって身近な言語ではありません。また、日本語母語話者にとってドイツ語は決して学びやすい言語ではありません。

それでは、どうして大学でドイツ語の授業が開講され、全国の多くの大学生がこの言語を学んでいるのでしょうか。それにはいくつか理由があります。

まず、ドイツという国の持つ影響力が挙げられます。ドイツのGDPは世界で第4位、ヨーロッパで第1位と、世界有数の経済大国です。人口面においてもイギリスやフランスは約6,500万人なのに対し、ドイツは約8,300万人と大きく上回っています。さらに約800万人のオーストリア、約700万人のスイス(全人口の約75%がドイツ語母語話者)を加えると、ヨーロッパにおけるドイツ語の勢力がいかに強いかがわかるでしょう。そのため、東欧、とりわけハンガリーやチェコ、ポーランドなどでドイツ語学習が盛んで、母語話者のように流暢にドイツ語を話す人もたくさんいます。ドイツ語を学ぶことでこうしたドイツ語話者、ドイツ語学習者とつながることができます。

次に、ドイツと日本の歴史的関係が挙げられます。江戸幕府によってドイツ語学習が始められたのは1860年のことです。フランス語(1808年)、ロシア語(1808年)、英語(1809年)から50年以上遅れての開始となりました。しかし、明治4年(1871年)にドイツ帝国が成立したことでドイツ語学習熱が高まり、ドイツとの文化交流も盛んとなりました。大日本帝国憲法(明治憲法)はドイツ憲法を範にしていることはよく知られていますが、明治初期には多くのドイツ人が外国人教師として日本に招かれ、また、当時の政府留学生の約80%がドイツに派遣されているなど、日本の近代化とドイツとは不可分の関係にあります。ドイツ語を学ぶことで、こうした日本における学術の源に触れることができます。

2. どのようにドイツ語を学ぶのか

ドイツ語の文法は英語の文法よりもはるかに複雑です。しかしながら、単純に「複雑」イコール「難しい」ではありません。はじめの一歩の部分で覚えるべきルールはたくさんありますが、文法を一定程度まで習得すると逆に英語が難しく感じるようになるかも知れません。どこにこのカラクリはあるのでしょうか?

それは、文法が複雑だということと関係してきます。文法とはすなわち文章を作る上でのルールです。英語は文法が非常に単純で、ある文章の中で1つの単語が持つ情報は限定的です。ドイツ語は文法が複雑な分、文章の中で1つの単語が持つ情報は豊かです。つまりはこういうことです。

[英語]The young man goes to the city centre, today.
[ドイツ語]Der junge Mann geht heute in die Stadtmitte.

この英語の文章の主語はThe young manですが、それを決定づけている要因は何でしょうか?もちろん、文頭にあるからですね。これがI know the young man.となると、the young manは主語ではなく「その若い男性を」という目的語になります。このように、英語の場合、語順によって主語や目的語などが決定づけられます。一方、ドイツ語の文章の主語はDer junge Mannですが、主語を決定する要因は語順ではありません。英語のtheにあたるderです。Mannにderがつくと「その若い男性は」という主語を表します。そのため、Heute geht der junge Mann in die Stadtmitte.のように、der junge Mannが文頭になくても主語を表しています。例に挙げたような短文であればそれほど違いは見えてこないかも知れませんが、より長い文章、複雑な文章になればなるほど、至るところに情報が隠されているドイツ語の特性がよくわかるようになってきます。

それでは、ドイツ語をどのように学んでいけばいいのでしょうか。外国語学習の方法は様々です。学習の目的や予備知識、あるいは個人的趣向によっても適切な学び方というのは変わってきます。以下では、それぞれの段階に合わせたおすすめの参考書をご紹介いたします。

<初級>

ドイツ語に触れる

清野智昭『ドイツ語のしくみ』白水社、2014年
  • まずはドイツ語についてざっくりとした知識を得たいという人にオススメ

独学でドイツ語文法を学ぶ

清水薫/石原竹彦『独学でもよくわかる やさしいくわしいドイツ語』第三書房、2018年
  • 腰を落ち着けて、練習問題を解きながら独学したいという人にオススメ

ドイツ語文法の全容を知りたい

在間進『リファレンス・ドイツ語』第三書房、2017年
  • 詳細な文法解説書を手元に置いておきたい人にオススメ

反復練習をしたい

筒井友弥『つぶやきのドイツ語 1日5題文法ドリル』白水社、2018年
  • 単純でドイツ語の文法が全部わかるような問題集がほしい人にオススメ

発音をマスターしたい

新倉真矢子『ドイツ語発音マスター』第三書房、2014年
  • きれいな発音をしっかりと学びたい人にオススメ

<初級〜中級>

表現の幅を増やしたい

橋本政義『これだけは知っておこう!会話と作文に役立つドイツ語定型表現365』三修社、2016年
  • 熟語や定型表現をたくさん覚えたい人にオススメ

<中級>

リスニングの練習がしたい

クリストフ・ヘンドリックス/マリア・リューディア・タナベ/近藤美樹子『耳が喜ぶドイツ語 リスニング体得トレーニング』三修社、2013年
  • ネイティブとの会話についていける程度のリスニング力をつけたい人にオススメ

スピーキングの練習がしたい

Jan Hillesheim/金子みゆき『口が覚えるドイツ語 スピーキング体得トレーニング』三修社、2012年
  • パターンごとに繰り返しスピーキングの練習をしたい人にオススメ

3. ドイツ語を学ぶと何が見えてくるのか

国際関係学を学ぶみなさんのうち、将来ドイツ語を使って生活したり、仕事でドイツ語を使ったりする機会のある方はどれほどいるでしょうか?ひょっとすると、ほとんどいないかも知れません。しかし、だからと言ってドイツ語を学ぶことは全く無駄ではありません。

それぞれの言語にはそれぞれの文化があります。その文化の中に生活する人々がいます。その人々が辿ってきた歴史があります。ドイツ語という扉を開くと、その先にはドイツ語圏の文化、ドイツ語圏の人々、ドイツ語圏の歴史があります。ドイツ語を学ぶということは、この扉の鍵を手にするも同然です。ドイツ語に限ったことではありませんが、単なるコミュニケーション手段として外国語を学習するのではなく、その背景にあるもの全てを含む、総合的な文化を学習するという視点で外国語の学習に臨むことが、上達の第一歩です。ドイツサッカーが好き、ドイツ文学が好き、ドイツ車が好き、オーストリアの歴史が好き、ドイツの環境政策に関心がある、スイスの政治に関心がある、きっかけは何でも構いません。そのきっかけを足がかりとして、ドイツ語にどっぷり浸かってみませんか?きっと、これまで知り得なかった新たな世界が拓けてくることでしょう。

執筆者:田原 憲和
執筆日(更新日):2020年2月13日